決死の戦い・アレキサンドライト王女の強き意志
文字数 6,539文字
アレキサンドライト王女とバートン王子は凶悪なゴロツキ軍団・トキシックローズファミリーに乗っ取られたビジュエール城を、所々で待ち構える毒薔薇兵士たちを蹴散らしながら進み続ける。
広いとは言え、ここは王女の住まいだ。王族のみが知る抜け道を上手く駆使して、敵に遭遇するのを極力抑えつつ指定された目的地・玉座の間へ向かっていた。
王女の両親と使用人たち、国民の大半は避難したため無事だったが、逃げ遅れた使用人や兵士たちの一部は邪悪な魔法の犠牲となり、薔薇の花に変えられてしまった。
3人も中庭でお茶会をしていた所を、トキシックローズファミリーに突如襲撃された。
王女と王子が応戦するもわずかな隙を突かれ、パーチア姫はファミリーのナンバー2である魔女・シャロンにより魂を抜き取られてしまう。
そのまま仮死状態になった体ごとさらわれてしまったのだ。
そして2人はついに城の最奥部に辿り着いた。そこには奴らが待ち構えていた。
彼女は今までに何度もワールドを葬り乗っ取ろうとするも返り討ちにされ失敗して来た腹いせにと、今度はビジュエール王国を乗っ取ろうとしていたのだ。この女のワールドに対する執念深さは、もはやゾンビの類に近いものだった。
先端からは青白い電光が奔っていた。
そのまま地面に転がってしまった。
シャロンの攻撃によってすでにかなりの傷を負っていたアレキサンドライト王女。しかしそれでもなお立ち上がろうと懸命に持ちこたえていた。
そんな様子を確認したアンジェローズは邪悪に微笑む。そして手を振り上げ合図を送る。すると、周囲の兵士達は一斉に雄叫びをあげた。毒薔薇兵士が大勢おり、どうしようもない状況になっていた。
兵士たちと戦っているバートン王子は悔しそうに叫ぶ。
しかし、そんな彼女たちの言葉の思惑を打ち砕くかのように――突然巨大な炎の柱が現れ、兵士たちを焼き尽くした。
あまりの出来事にアンジェローズたちは驚愕の表情を見せる。一体誰の仕業なのか……。そう思って周りを見回すが誰もいない。だがすぐにそれは誤りである事に気付く事になる。何故ならその攻撃の正体がすぐに分かったからだ。
燃え盛る炎の中から突如として現れたもの――それは体が光り輝く、髪をほどいたアレキサンドライト王女だったのだ。
赤紫に輝く長い髪をなびかせるその姿は、まさに勇敢そのものだった。
想定外の展開に、アンジェローズは驚きを隠せなかった。
それもそうだ。彼女は既にボロボロの状態でいるはずなのだ。普通であれば立ち上がる事さえも不可能なはずである。それにも関わらず今自分の目の前で立ち上がっているアレキサンドライト王女を見た時はとても信じられなかった。
このままではまずいと察した彼女は焦った顔を見せつつも再び目で指示を出した。シャテーニュはすぐに手を天に掲げ雷を放つ。巨大な雷がアレキサンドライト王女に直撃する――はずだった。
しかし雷を放った直後に異変が起きる事になる。アレキサンドライト王女の周りに光のバリアが張られ、雷撃をかき消してしまったのだ。
そして同時に辺りに突風が起こる。その威力はかなり強力だった。
吹き荒れる強風のせいで、近くに居た兵士達はその勢いに圧され地面を転がり回るくらいだった。アンジェローズやシャロンも立っているのがやっとの状態になりつつあった。
予想もしていなかった事態に直面し動揺する彼女に対し、アレキサンドライト王女はゆっくりと歩き始めた。
先程受けたはずのダメージを全く感じさせないくらいに堂々と歩いて行く。まるで自分には何も効かないといった自信に満ちた歩み方である。
その様子を見てバートン王子は再び声を上げる。
そう叫び右手に持ったパラソルを高く掲げた後、それを勢いよく下ろす。
すると、上空には黒い雲が現れてそこから一筋のピンク色の光が放たれ王女に向かって行く。そこから何度も何度も、王女に向けて強力そうな雷が放たれる。
アンジェローズの攻撃に間違いはないはずだが、それでも彼女は怯まなかった。
アレキサンドライト王女の前にバリアが張られる。覚醒した彼女の前に、アンジェローズの魔法など無意味だった。
次第に彼女の放つ雷が押されて行き遂に――。
ドガーンッ!!パリーンッ!ガシャーン!!!
雷は大きな音を立てて城の壁に大きな穴を開けると同時に消滅した。
それと同時に、彼女の持っていたパラソルも衝撃に耐え切れずバキバキに折れてしまった。
そのパワーは相当な物であり、彼女の体はたちまち吹っ飛び、城の壁に叩きつけられた。
そして彼女は再起不能となった。あの至近距離で覚醒した相手から攻撃を受ければ、彼女とてひとたまりもない。
それを見つつも、凛とした姿勢を崩さない王女。
彼女の言う通り主が戦闘不能になっている今、戦うのは無謀に近い。しかも彼女は覚醒状態なのだ。
状況を飲み込み、シャロンは苦虫を噛み潰したような表情をする。
それはトキシックローズファミリーの敗北を意味していたのだった。
バートン王子はほっとする。どうやら他の兵士達もほぼ全員倒されたようだ。後はパーチア姫の魂を解放するだけである。
アレキサンドライト王女の覚醒は解け、髪色もいつもの青緑色に戻っていた。だがそれでもどこか気高く威厳のある姿のままである。その佇まいに王子は惚れ惚れとしていた。
そして先へ進み、アンジェローズのいた玉座のすぐ横にかけられていた鳥かごの中に、ピンク色に輝く光の球があった。これがパーチア姫の魂だ。
2人は急いで後を追った。
魂が飛んで行った先は、罪人を拘置するための地下牢だった。もっとも、今はほとんど使われていないが。
その内の一室にパーチア姫はいた。寝心地の悪そうな木の板の寝床に横たえられている。かなりのミスマッチな組み合わせだ。
浮遊していた彼女の魂は胸の上で一度動きを止めると、そのままゆっくり降下し元の体に入り込んで行った。
鉄格子の扉を開こうとするが、鍵がかかっている。
そう言い、アレキサンドライト王女は剣を出して一振りする。
キィィィン!!扉を閉ざす南京錠は年季が入っているのもあり、その一発で壊れた。
あれからすぐに邪悪な魔法は解け、犠牲となっていた城の者たちは全員元の姿に戻る事が出来た。
城を覆っていた紫のイバラもすっかり消え去り、元の美しい景観を取り戻した。もっとも、アンジェローズの雷撃によって壊れた壁はそのままだったが。
現在、時は経ち夕刻。玉座の間には同国の作業員たちが集結し、先程の戦いで壊れた壁の修理に取りかかっている。
その近くで3人は会話していた。王女も今は時間帯の関係で髪色が青緑から赤紫に変わりかけており、服装もシックなドレス姿となっている。
お礼を言われ、照れる王子。そんな彼につられて王女も笑ったのだった。
これからも互いの絆が引き裂かれる事は決してないだろう。
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ミネローレ城への帰路に着く道中、小型機の中で兄妹はアレキサンドライト王女の覚醒について雑談していた。
普段もそうだが、本当に彼女の実力には感服せざるを得ない。
【今回の主要以外の登場人物】
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→ワールド内の宝石・鉱石の産出国として有名な王国『ビジュエール国』の王女。愛称は『アレックス』。
凛々しい男装姿と勇敢で優しい性格から、王国民からは老若男女問わず慕われる。
また剣術と近接格闘術の達人であり、後者に関しては軍の戦闘訓練担当だった元教官から訓練を受けているため、繊細なテクニックで屈強な兵士さえも打ち負かす程の腕前を持つ。
なおドレスは必要時にしか着用しない(着るとしてもシックなデザインの物が基本)。
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誕:4月29日
年:21歳・♀
出:ビジュエール国
趣:乗馬、散歩
好:自分の国と国民たちです
嫌:女だからと下に見られる事、性別で束縛される事、装飾の多い冠やドレス
【バートン王子(Prince Burton)】
→ビジュエール国の友好国の一つ・ミネローレ王国の王子。典型的なボク様系ナルシストおバカ王子である。
ただ王族である事はちゃんと自覚しているので品性も勇気もしっかり持ち合わせており、下品なものや悪者・卑怯者は嫌う。
アレキサンドライト王女に恋をしておりオープンにアタックしているが、毎回軽くあしらわれている。
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誕:9月15日
年:22歳・♂
出:ミネローレ王国
趣:部屋に飾った自画像を眺める事
好:アレックス王女ほど美しい女性はいないと断言しよう!
嫌:下品なもの、卑怯者
【パーチア姫(Princess Parchia)】
→バートン王子の妹でミネローレ王国の王女。言わずもがな、彼女は兄と違いまともな人格である。
時々暴走する兄を止める役目を持つも彼のあまりのおバカっぷりに呆れており、そのせいで最低1日1回はほぼ必ず周りに謝ってしまう。
ただし嫌ってはおらず、むしろオープンかつ正々堂々とした姿勢を内心尊敬している。
友好条約を結ぶビジュエール国の王女・アレキサンドライトとは親友同士。
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誕:4月8日
年:20歳・♀
出:ミネローレ王国
趣:プリザーブドフラワー作り
好:ハスの花、動物全般
嫌:梅干し
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