幻の森の三姉妹・Chapter5
文字数 2,577文字
【ファルファーラ】
何だかボーっとしていらしたようですけど…大丈夫ですか?
【クレス・ビートル】
ああ、ちと昔の事を思い出してな…。
一行の走る先に広場が見えて来た。最初の目的地まであと少しだ。
と、ここでもスパイディーネの手下である子グモたちが数匹立ちはだかる。やはりそう簡単に通してはくれないようだ。
姉弟による息の合ったツインアタックが再び炸裂する。
子グモたちはその場にひっくり返り動かなくなった。その横を止まる事なく走り抜ける。
ようやく一行は広場に到着した。
そこでしばらく、ファルファーラが何か探す素振りを見せる。
目的の物はすぐに見つかった。広場のちょうど中心部に四角い石タイルがはめ込まれ、そこに小さな紋章のような物が刻まれている。
紋章は目立たないように彫られており、よくよく見ないと分からない。
クレスは何やら呪文をつぶやく。呪文は複雑な発音で、一行には上手く聞き取れない。この森独自の言語だろうか。
ゴゴゴゴゴ…タイルが静かに横にずれる。たちまち四角い穴がぽっかりと空いた。穴はちょうど人が一人通れそうなサイズだった。
【クレス・ビートル】
この下に仲間たちが待っておるはずじゃ!
そのまま一行とファルファーラ、そしてクレスは穴の底に続く階段を下りて行った。
穴の最深部は大きく開けており、そこにクレスの仲間たちの一部が待機していた。
そこにいたクワガタの虫人の男が駆け寄る。同じ老人だが、クレスよりもほんの少しだけ若い風貌だ。
【クレス・ビートル】
スタン、お前たち、無事だったか!
どうやら彼が先程言っていた『お守り』を持つ人物・スタンのようだ。
【ファルファーラ】
大変ですわ、スパイディーネが集落を襲ってマリキータのヒト成分を!
【パト】
ヒト成分を奪われそうになったクレスおじいさんを守ろうとして、代わりに…。
【ファルファーラ】
そのままマリキータのヒト成分を危険区域まで持ち去ってしまったんです…。
私たちも止めようとしたのですが、罠にハメられてしまって…!
【スタン】
ふむ…やはり、汚い手を使いおったな。流石は魔女だ。
【クレス・ビートル】
ワシらは今から、マリキータのヒト成分を取り戻しに行くつもりだ。
そのために、危険区域へ入るための守りを貸してはくれんか。
【スタン】
そんな…無茶だ!
昔の…あの出来事を忘れたのかクレス!
【クレス・ビートル】
ああ、ハッキリ覚えているさ。
しかし待っていても、あの子のヒト成分は戻って来んだろう。
それに…。
【クレス・ビートル】
どちらにせよ、彼女とはいつか決着をつけなければならんと思っていたのじゃ。
この歳になった今、命など投げ打つ覚悟はいつでも出来ておる。
【カロ】
やっぱりあの方とは、過去に何かお有りなんですね。
【クレス・ビートル】
ああ、昔ちょっとな。ここで話すまでもない因縁じゃ。
【パト】
かっこいいなぁ…。流石長老様、やっぱり真の戦士なんですね!
【クレス・ビートル】
何、因縁と言っても大したものじゃない。
【スタン】
命を投げ打つ覚悟か…ふっ、お前ならそう言うと思ってたよ。
例の物だ、受け取れ。
そう言ってスタンは、クレスに円形の飾りを投げて渡した。
黄金色をしたそれは、真ん中にヒスイのような美しい緑色の宝石の装飾が施されていた。まさに『お守り』の名に相応しい。
【スタン】
絶対に大事な孫のヒト成分取り戻して、あいつと決着付けて来いよ。
それまで死ぬ事は許さんからな!
【クレス・ビートル】
分かっておる。マリキータのヒト成分だけは何としてでも取り返さねば。
【ファルファーラ】
おじい様、お一人ではありませんわ!
ファルファーラもメイン勢一行も、やる気満々の表情でこちらを見ている。
普段小さな光として異空間で待機しているメトロとノームも、この時ばかりは外へ出て来ていた。
【クレス・ビートル】
…物好きなものだ。だが決して油断はするでないぞ。
【クレス・ビートル】
ファリー、先に言っておくが…。
ワシに万一何かあったら集落のみんなを頼む。
【ファルファーラ】
嫌ですわおじい様、縁起でもない事おっしゃらないで下さいな。
【クレス・ビートル】
ふっ、ワシも考えたくはないが、万一の話だ。
そのままスタン始め戦士たちのいる方向を向くクレス。
【クレス・ビートル】
スタンたちは集会所へ行きなさい、ビーネと他の戦士たちがスパイディーネの手下連中と戦っておる。
加勢して集落を守るのだ。
【ファルファーラ】
私たちも危険区域へ行きましょう!
一行とファルファーラ、そしてクレス・ビートルはついに、危険区域へ向けて動き出す事となった。
=Chapter6へ続く=
【今回の主要以外の登場人物】
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【スタン(Stan)】→クワガタの虫人。エントマーズの森の戦士で、クレス・ビートルの仲間の一人。
クレスよりも少しだけ若いがそれなりに強く、時々彼の代わりに三姉妹の戦闘訓練の稽古をつけたりも。
現在危険区域へ立ち入るための通行証となるお守りを所有・管理している。
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