幻の森の三姉妹・Chapter4

文字数 4,087文字

それは遥か昔、まだ三姉妹が影も形もない時代。森の奥地にマダム・スパイディーネと呼ばれるクモの虫人の白魔女が、一軒の館を構え住んでいた。
彼女は占い師の傍ら、住民たちにケガや病気を治す薬を調合して与えており、そのいずれも腕は確かな事で森の虫人たちからは頼られる存在だった。
特に当時戦士たちのリーダーであり次期族長の有力候補とされていた青年、クレス・ビートルとの仲はとても良かった。
クレスはスパイディーネを大変慕い、彼女もまた彼を孫のように可愛がっていた。


ある日、いつものように館に通されたクレスは、山のように積まれたたくさんの書物に気が付く。
聞くとそれは、不老の薬を研究する本の数々であった。
今まで誰も叶えた事のない研究。ここまで大きな夢を持つとは、やはり彼女は素晴らしいお方だな。
そう思いつつ、彼は用件を済ませ館を後にした。


その日の夕刻。“事件”の発端は戦士の一人が駆け込んで来た時だった。

【戦士】

た、大変だー!!

【クレス・ビートル】

どうした、敵襲か!?

【戦士】

スパイディーネ様が…スパイディーネ様が!!!

【クレス・ビートル】

何だ、何があったのだ!?

【戦士】

集落を襲って、住民たちから魂のような物を奪い取っていて…!!

【クレス・ビートル】

何だと!?
信じられない事を言い出した戦士に驚愕するクレス。慌てて家を飛び出し集落に向かう。




集落は恐ろしい光景が広がっていた。家々は壊され、壁には鋭い爪で引っかいたような跡が所々残されている。
そこに彼女はいた。おぞましいクモの魔物の姿で。後ろ向きで何かやっている。
やがて気配を感じ取った彼女はこちらを向く。手には巨大なコルクビンがあり、中に無数の人魂が浮遊していた。
そして彼女の顔から、以前の優しい雰囲気は消え去っていた。面影はあるが、ほんの少し若返っているようにも見える。

【マダム・スパイディーネ】

やれやれ…来てしもうたか、クレスよ。

【クレス・ビートル】

スパイディーネ殿…これは…そのビン…。

【マダム・スパイディーネ】

おお、これか…住民たちの魂の“ヒト成分”よ。

【クレス・ビートル】

ヒト成分…だと?
彼女の横を見る。そこにはたくさんの虫たちが。

【クレス・ビートル】

!!!

もしやあなた様、住民たちの人間の成分だけを奪って、ただの虫に!?

【マダム・スパイディーネ】

そう、ついに叶うのじゃ、わらわの夢がな。

【クレス・ビートル】

なっ…!
ふと彼の脳裏に、昨日見た光景がよみがえる。

【クレス・ビートル】

まさか…あの書物…!

【マダム・スパイディーネ】

そうじゃ、わらわの夢…不老の研究が、いよいよ成功する時が来たのよ!!
アハハハハハハハハハ!!!!!

彼女の甲高くも不気味な笑い声が、森中に響き渡る。

【マダム・スパイディーネ】

どうじゃ、素晴らしいじゃろう?

【クレス・ビートル】

何を言っておられるのだ、あなた様は白魔女ではなかったのか!?

【マダム・スパイディーネ】

…わらわは聞いたぞ。

表では感謝しておるはずの住民共が、わらわたちクモの虫人を貶す言葉をコソコソ吐きおったのを…!

衝撃的な言葉を受け、クレスは思わず固まる。

住民に彼女をクモの虫人だからと忌み嫌う者はいなかった…そう思っていたから。

【クレス・ビートル】

そんな…!!

【マダム・スパイディーネ】

ふん、当たり前のようにわらわを利用しおって…。

どんなに白魔法を使ってケガや病気を治しても、奴らは腹の中では感謝のかけらもなし!!それどころか種族だけで貶しおって!!!

そんな薄情な住民共にはもうウンザリじゃ!!

さらに歪んだ表情となるスパイディーネ。彼女の暴走は勢いを増す一方だ。

【マダム・スパイディーネ】

だから思い立ったのじゃ。

研究で見つけ出した方法でお前たち心なき虫人共のヒト成分を奪い取り、自らの若さ、魔力、そして気力に充てる!!

そしてゆくゆくはこのエントマーズの森の支配者になるとな!!

わらわは永遠の美を得て、さらにこの森を支配出来、やがてはクモの虫人に恐れを成し貶す者もいなくなる…これぞ一石二鳥、いや三鳥と言うもの!!

【クレス・ビートル】

それは違う、全員がクモの虫人を貶し、利用しているなんてただの思い込みだ!!

例えそんな心ない奴らがいたとしても、ほんの一部だけだ!

皆、あなた様に感謝しておられる!!

それにそんな方法で森を支配するなんて、夢物語でしかない!!!

クレスはスパイディーネの暴走を止めようと、必死に説得していた。

【クレス・ビートル】

馬鹿な真似はやめるんだ、スパイディーネ殿!

今すぐヒト成分を元に戻せ!!

【マダム・スパイディーネ】

ええい、やかましい!!

邪魔をすると言うのなら、お前のヒト成分も奪ってくれる!!!

そう言い、スパイディーネは鋭い脚をブンと一振りした。クレスはそれをジャンプしてかわす。

【戦士】

クレス、今の彼女に何を言っても無駄だ!

【クレス・ビートル】

ああ…本当は戦いたくなどないが、やむを得ずだ。

クレスは覚悟を決め、右手に武器を取る。




ガキィィィン!!それぞれ武器と脚とがぶつかり合う音が何度も響く。
流石は虫人の戦士と言うだけあり、クレスは素早い動きでスパイディーネの脚攻撃をかわしながら、自身も攻撃を仕掛ける。
しかしスパイディーネも魔物に変身しているため、一筋縄では行かなかった。

【マダム・スパイディーネ】

“スパイダーストリング”!!!
ビュッ!!スパイディーネは口から糸を吐いた。それがクレスの足に巻き付き引っ張られる。

【クレス・ビートル】

なっ!?
そのまま足を取られバランスを大きく崩した。気が付くと目の前に脚攻撃が迫っていた。
大きく身をよじり、間一髪で攻撃をかわした…かのように思えた。
油断した。仰向けで転がった彼の真上にはもう一本の脚が!!

【マダム・スパイディーネ】

ふふふ…隙あり!!!




ドスッ!!!左肩目がけてその脚が振り下ろされる。

【クレス・ビートル】

ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!
嫌な音と共に、左肩に激痛が走る。思わず悲鳴を上げるクレス。

【クレス・ビートル】

ぐぅっ…!!
必死で痛みをこらえながら見ると、自分の左腕がなくなっていた。先程突き刺された事で切断されてしまったのだ。

左肩を押さえたまま、その場で丸くなり迫り来る痛みに耐える。

【戦士A】

クレス!!!
慌てて他の戦士たちが駆け寄る。クレスの肩口からは血が滴っていた。

【戦士B】

こりゃマズいぞ…!

【戦士C】

すぐに救護班を呼べ!!

【戦士D】

貴様、裏切った上によくもクレスの腕を!!

【クレス・ビートル】

待て…みんな、手を出してはいけない。
朦朧とした意識の中起き上がり、クレスはただただスパイディーネを見つめている。

【クレス・ビートル】

す…スパイディーネ殿…。

あなた様は恐ろしい罪を犯してしまわれた…。

【マダム・スパイディーネ】

ふん、この期に及んでまだ間の抜けた事を。

【クレス・ビートル】

本当はあなた様にこのような事はしたくなかった…。

だがこれは森の掟なんだ。

戦士たちに支えられながら最後の力を振り絞り、残された右手をスパイディーネに向けて突きつける。

【クレス・ビートル】

許してくれ、スパイディーネ殿!!

【マダム・スパイディーネ】

!!!!
ゴォォォォォォォォォ!!!!クレスとスパイディーネの地面に光る魔法陣が現れる。
クレスは切り札となる封印の魔法を使ったのだ。

【マダム・スパイディーネ】

これは封印の魔法陣…やめろ…やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!
相手が瀕死の状態で油断していたためか、成す術もなく魔法陣の光に飲まれて行くスパイディーネ。
そのまま光の塊となり、ある方角へ飛んで行ってしまった。哀しげな表情をしつつ、まさに虫の息でそれを見つめるクレス。


エントマーズの森の掟では、封印される事は単なる追放よりも重い罰にあたる。それ程の重い罪を彼女は犯してしまったのだ。
まさか心から慕っていた人物に裏切られ、この罰を与える事になろうとは。それはクレス本人にとっても非常に辛く悲しいものだった。

【戦士A】

クレス…。

【クレス・ビートル】

…これで良いんだ。
クレスの両目からは大粒の涙がこぼれていた。普段めったに泣かない彼が。

【戦士B】

おーい、救護班が到着したぞ!!

【クレス・ビートル】

ああ…ありがとう。

クレスは安心したかのように気を失った。


散々無理したせいで危険な状態となった彼は、そのまま森の外の大病院へ運ばれた後数時間に及ぶ大手術を受け、奇跡的に一命を取り留めた。
しかし切断された左腕はスパイディーネの毒によって細胞が壊死してしまっており、二度と接着する事が出来なくなっていた。
クレスは医師から義手を勧められたが拒否。結果、一生片腕での生活を送る事になった。
その後スパイディーネが封印された区域周辺は『危険区域』と称し、立ち入りが禁じられたのだった…。


=Chapter5へ続く=




【今回の登場人物】


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【ヤング・クレス・ビートル(Young Cules Beetle)】

→若かりし頃のクレス・ビートル。喋り方が若干古臭いが、当時の年齢はだいたい20代前半くらい。

この頃はまだ左腕は健在で、片目も失明していなかった。次期族長の候補とされる程に戦いの腕も良く、さらに美青年なので女性住民からも人気だった様子。

武器は装備品はこの当時から使っている物が大半で、現在も愛用している。しかし使い古されているのにも関わらずほとんど劣化していない。

話中に出て来る封印の魔法は、森の長並びに戦士たちを率いるリーダーだけに与えられる特別なもの。


ちなみに片目の失明は、この事件とはまた別の戦いによるものである。

【オールド・マダム・スパイディーネ(Old Madam Spideene)】

→クレス・ビートルが青年だった頃のマダム・スパイディーネの姿。

当時の職業は白魔女で森の奥地に館を構え、住民たちのために占いを行ったり治療を施したり、はたまた魔法で薬を調合して与えていた。住民たちからは感謝され、特にクレスからは尊敬もされていた存在。

ところがある日、突然彼女は変貌し、住民たちのヒト成分を一斉に奪うと言う恐ろしい手段に出てしまう。

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登場人物紹介

【ポジ詩月(Posi-Shizuki)】

→詩月のポジティブな感情が人の姿になった生き物。前向きで常に明るい事を考える。

ただし、現実世界の非情かつ最低な人間の事は大嫌い。もちろん創作世界の平和を乱そうとする連中も大嫌いである。

容姿は詩月本体に似ている(ただし美化2000%)。テンションが上がると声がでかくなる。

ネガ詩月とはいつも一緒にいる。周りを盛り上げるムードメーカー。


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誕生日:8月1日
年齢:詩月と同じ・♀
出身地:福岡県某所
趣味:ネットサーフィン、イラストを描く事
好きな物:ゲーム(特に音楽ゲーム)、動物(特に猫)
嫌いな物:現実の非情かつ最低な人間、平和を乱す連中、アリ、あと軍曹。こいつらだけは絶対無理!!

【ネガ詩月(Nega-Shizuki)】

→詩月のネガティブな感情が人の姿になった生き物。後ろ向きで根暗な方だが、最近は若干明るい子になりつつある。

しづキャラたちの中でも特に、現実世界の非情かつ最低な人間や創作世界の平和を乱そうとする連中を憎悪している。

恐らくしづキャラワールドの中では最強。怒りが一定値を超えると『スーパーネガ詩月』に変貌し、しばらく手が付けられなくなる。

しかし怒らせさえしなければ根はとても良い奴。


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誕生日:8月1日
年齢:詩月と同じ・♀
出身地:福岡県某所
趣味:静かな所でのんびりする、妄想する
好きな物:ポジに伸びた髪を切ってもらう事、創作世界の住人たち、動物(特に猫)
嫌いな物:現実の非情かつ最低な人間、平和を乱す連中、承認欲求

【パト・タクティズム(Pato Taktithm)】

→詩月の創作の総称『Shizuchara Allstars(しづキャラオールスターズ)』の看板息子兼、オリジナルコンセプト『Tap Spinners』の男主人公。リズの双子の弟。

気が弱いヘタレだが、正義感は人一倍強い。戦闘の際は果敢に立ち向かったりと、男らしい一面も持っている。

また修理からスクリプト関係までとあらゆる機械をいじるのが得意で、爆弾を解除した経験も。

将来の夢はコンピューターエンジニアになり、最先端技術の発展に貢献する事。


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誕生日:1月1日
年齢:12歳・♂
出身地:スコアランド
趣味:ダンス、機械いじり
好きな物:もちろん、音楽が一番好きだよ!
嫌いな物:ピーマン。あの苦味がダメなんだ…。

【リズ・タクティズム(Riz Taktithm)】

→詩月の創作の総称『Shizuchara Allstars(しづキャラオールスターズ)』の看板娘兼、オリジナルコンセプト『Tap Spinners』の女主人公。パトの双子の姉。

口論で勝てる者はいないくらい、非常に気が強くしっかりしている(※だからと言って頑固者や意地っ張りではない)。人を説得するのも得意。

実は料理が恐ろしく下手で、その不味さはもはや生き地獄そのもの(一応本人も自覚はしている)。

将来の夢は探検家になり、未知なる世界を旅する事。


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誕生日:1月1日
年齢:12歳・♀
出身地:スコアランド
趣味:ダンス、運動
好きな物:もちろん音楽だよ~!
嫌いな物:空豆

【ガンザード・Z・ジェット(Gunzard Z-Jet)】 

→パトとリズの母方の叔父、関西弁で喋る。愛称は『ジェット』。

格闘技の達人で、強い敵相手だとテンションが上がるタイプ。

また弱い相手に暴力を振るう行為が大嫌いで、DVや集団リンチをする連中は決して許さない。

格闘一本なので、恋愛に関してはちょっぴり奥手なようだ。


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誕生日:2月29日(平年は3月1日がお祝い日)
年齢:20歳・♂
出身地:スコアランド
趣味:トレーニング、バイクを乗り回す事
好きな物:優しい心
嫌いな物:自分より弱い者に暴力を振るう奴

【カロ・フランシス・スート(Carreau Francis Suit)】

→神に限りなく近い種族『神々しき一族』の女性。自分よりも相手に気を遣う優しい心の持ち主で、主に回復魔法を得意とする。

普段は物静かで大人しいが、キレると大変な事になるらしい。

ちなみにZ・ジェットに恋心を抱いているが、態度には出していない。最近は紅茶のブレンドにハマっているとか。


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誕生日:??(お祝い日:4月1日)
年齢:約700歳(外見は人間年齢で27歳くらい)・♀
出身地:次元聖域
趣味:ティータイム
好きな物:希望の光
嫌いな物:邪悪な心

【メトロ(Metro)】

→パト&リズ姉弟が家に飾っているメトロノームから生まれた、不思議な双子の精霊で姉の方。パートナーはパト。

パトが戦闘態勢に入る時限定で、体を日本刀に変化させる事が可能。

一応バラバラに行動する事も出来るが、基本は姉妹で1セット。もっぱら一緒にいる時が多い。


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誕生日:分かりません(お祝い日:12月31日)

年齢:年齢不詳・♀

出身地:ハーモニーシティ(=スコアランドの首都)のアンティークショップ

趣味:無

好きな物:無

嫌いな物:迷惑騒音

【ノーム(Nome)】

→パト&リズ姉弟が家に飾っているメトロノームから生まれた、不思議な双子の精霊で妹の方。パートナーはリズ。

リズが戦闘態勢に入る時限定で、体を日本刀に変化させる事が可能。

一応バラバラに行動する事も出来るが、基本は姉妹で1セット。もっぱら一緒にいる時が多い。


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誕生日:…さぁ?(お祝い日:12月31日)

年齢:年齢不詳・♀

出身地:ハーモニーシティ(=スコアランドの首都)のアンティークショップ

趣味:無

好きな物:無 

嫌いな物:リズムが取れない曲

【鳳凰団(ほうおうだん/Team Houou)】
→全ての次元の住人を鳳凰団の信者にするべく活動する、非常に傍迷惑な連中。
悪さをするのは三大幹部で、姐御系リーダー・孔雀(くじゃく/右の女性)、頭脳明晰な元海賊・ツバメ(左の水色バンダナの少年)、人造人間・イーグル(センターの大男)の3人構成。その上には大ボス・フェニックスがいる。
一応SCASシリーズの悪役兼メインキャラ勢のライバル的な立場で、メインキャラ勢が彼らの活動を阻止する事で、常にワールドの平和が保たれている。


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誕生日:3人とも不明

年齢:孔雀/推定20代前半・♀ ツバメ/8歳・♂ イーグル/年齢不詳・♂

出身地:3人とも不明

趣味:孔雀/貴金属収集 ツバメ/パルクール イーグル/何だソレ?美味いノカ?

好きな物:孔雀/アタイの美貌は世界一よ♪ ツバメ/潮風 イーグル/ハイオクガソリン

嫌いな物:孔雀/お姉様とお呼び! ツバメ/火 イーグル/鳳凰団に歯向かう奴、許せないガー!!

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