幻の森の三姉妹・Chapter8
文字数 3,169文字
通路の中は岩壁がむき出しの、下り坂の洞窟になっていた。
壁や床の所々に明かり取りのロウソクが取り付けられており、もう灯火の魔法は必要なかった。
ただ相変わらず不気味なのは変わりない。
【クレス・ビートル】
この館には若い頃何度も出入りしておったが、まさかこのような場所があったとは…。
【ファルファーラ】
やはり何か、得体の知れない秘密があるのでしょうね。
クモの虫人ですもの。
【クレス・ビートル】
…ファリーよ、人を見た目で判断するのは良くないと教えて来たはずじゃぞ。
【ファルファーラ】
はっ…!
申し訳ありませんわ、おじい様。
そしてその会話を聞いていたメイン勢も、クレスが持つスパイディーネへの思いを察し始めていた。
【カロ】
クレスさん、やはり彼女の事を信じておられるのですね。
【クレス・ビートル】
あぁ、若い頃は散々世話になったからな。
今こそ悪に染まってしまっているが、彼女も昔は白魔女として貢献しておったのじゃ。
【パト】
ジェットさん、見た目で決め付けちゃダメだって。
【リズ】
そうそう!どんな人も、見かけより中身だよ!
【リズ】
ねぇねぇ、話変わるけどさ、あたしたちが入って来た部屋って2階だったよね?
【パト】
言われてみたら…。
どうやったら森の中からこんな洞窟みたいな所に入れるんだろう?
【クレス・ビートル】
何、簡単な話じゃ。
薄暗い上に木々で隠れて見えにくいが、この館は岩壁沿いに建っている。
【カロ】
つまりその岩壁に穴を空けて、このような秘密の場所を作っていると言う事ですね。
隠し通路の奥地にマダム・スパイディーネはいた。
後ろを向いているが、一行がやって来た事は足音で感づいたようだ。
その周りには手下の子グモたちも大多数待ち構えている。
彼女はその空間の中央で、静かにその場に佇んでいた。
【マダム・スパイディーネ】
待っておったぞよ、お前たち…。
不気味な雰囲気を放ったまま、ゆっくりとこちらを振り向く。
【マダム・スパイディーネ】これかえ?
ふふふ…こうするのじゃ!!
スパイディーネは口を大きく開ける。そして…。
パクリ!!
【クレス・ビートル】
いや、まだ“気”は感じる!
死んではいないはずじゃ!!
【ファルファーラ】
まさかスパイディーネ、キーちゃんの力を取り込んだの…!?
【クレス・ビートル】
恐らくな、油断は禁物じゃ!
皆、心してかかれ!!
何だか、スパイディーネの肩が小さく震えているように見える。
【マダム・スパイディーネ】
ふふふ…ついにこの時が来た…。
わらわは、わらわは…。
この森の支配者となり、永遠の命と若さを手にするのじゃぁぁぁぁぁ!!!!
バリバリバリバリッ!!!
むき出しになった彼女の背中からあの赤黒いクモの脚が、表皮を突き破り勢いよく生え出す。
そしてみるみるうちに、あの化け物の姿へと変身して行った。
【マダム・スパイディーネ】
ほほほほほほ!!! 所詮はクモの巣にかかった哀れな獲物たち。
森の民もろとも我が餌食となり、我が魔力と美貌、そして永遠の命の糧となるが良い!!
【リズ】
残念だね!
あたしたち、簡単には頂かれないんだから!!
【Z・ジェット】
あんたがその気なら、こっちも本気でやらせてもらうで!!
【ファルファーラ】
待ってるのよ、キーちゃん!森のみんな!!
今すぐに助け出すから!!
スパイディーネは大きく跳び上がる。
その途中体の向きを変え、むき出しの岩壁に張り付いた。
そのままチョロチョロと、岩壁を素早く動き回るスパイディーネ。
【マダム・スパイディーネ】
ほほほ、当てられるものなら当ててみるが良い!
【リズ】
気持ち悪っ!
クモと言うよりゴキブリだよ!!
ジェットが彼女にパンチを叩き込もうと、岩壁を蹴って追いかける。
が、しかし…スカッ!!直前に方向転換され攻撃は外れたようだ。
再び待ち伏せし、拳を振るも…スカッ!!またしても方向転換で外してしまった。
さらに数回試すも、結果は全部空振りだった。
【マダム・スパイディーネ】
ほほほほ、どこを狙っておるのかえ!?
チョロチョロ動き回るために狙いが定まらず、やはり攻撃は当たらなかった。
【マダム・スパイディーネ】
お前たちが遅いだけじゃ。
いつの間にか後ろの壁に回り込まれていた。しかし気付くのが遅かったようだ。
ビュッ!!スパイディーネがジェットとカロめがけて、口から何かを吐き出した。
その物体がジェットの左肩に命中する。
カロをかばう形で、彼がその攻撃を受けてしまったようだ。
【Z・ジェット】
な、何とかな…。
ぐっ、しかしこれ、めっちゃ手ごたえある技やんけ…。
【クレス・ビートル】
あいつめ、強酸を吐きおったか…!!
ジェットの左肩を見ると、焼けただれたような傷が出来ている。
見るからに痛そうだ。
【ファルファーラ】
スパイディーネ、こんな厄介な技も使えたのね…!!
【クレス・ビートル】
いや、あれは恐らくマリキータの力から得た技じゃ。
マリキータは酸を使う事が出来たはず。
【マダム・スパイディーネ】
何とでも言うが良い、ヒト成分さえ取り込めばわらわの物も同然。
にっくき末の小娘より得たこの力、もっと味わわせてやろう。
ファルファーラは得意技のバタフライ・エフェクトで竜巻を起こし、酸の弾を風圧で吹き飛ばす。
【ファルファーラ】
どう?私だって戦士の端くれなのよ。
【マダム・スパイディーネ】
ふん、小娘が調子に乗りおって。
一方でジェットの手当てをしながら、その戦いを見ていた他のメンバー。
【パト】
あんなのまともに食らったら、すぐやられちゃうよ。
【リズ】
カロさん、ジェットさんの回復をお願い!
その間、あたしたちがあいつと戦うよ!
【Z・ジェット】
すまん。回復するまで、ほんの少しの間だけ頼むわ。
クレスは武器を一度地面に突き立てると、空いた右手でマントを脱ぎ捨て、ジェットの身体に被せた。
鎧姿の彼には、左肩の先がなかった。
そしてその後お互いに睨み合う、クレスとスパイディーネ。
【クレス・ビートル】
スパイディーネ殿…いざ、尋常に勝負!!
【マダム・スパイディーネ】
良かろう。
お前の残された腕も切り落とし、そこの小娘とよそ者連中もろとも八つ裂きにしてくれる!!
対して牙をむき出しにし、一行を威嚇するスパイディーネだった。
=Chapter9へ続く=
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