火葬場

文字数 488文字

 武志は死んでしまった。気が付いたのは、火葬場の釜の中だった。
「熱くない。」
 あたりは火の海だったが、まったく熱さは感じなかった。武志は骨と化していく自分の姿をじっと見ていた。
 釜から出されると、親族が彼の遺骨を二人一組で骨壷に入れていく。兄たちが葬儀を取り仕切っていた。
「兄ちゃん、何で死んだんだよ。」
 仲の良かった甥の仁史が泣きながら骨を拾う。
「武志は、人一倍責任感が強い子だったからね。」
 母方の伯母の声は震えていた。
「なんで、飛び降り自殺なんか・・・。」
 伯父も肩を落としている。伯父と伯母のところは、毎年、正月になると親戚が集まっていた。
「遺書があったんだよな。」
 伯父がそっと兄に尋ねる。
「警察の話では、遺書がパジャマのポケットに入っていたというんだ。」
 兄の将史は周囲に聞こえないように小声でささやいた。

「ぼくは、なぜ死んだんだ?それに両親はどこだ?」
 武志は自分が死んだ理由が思い出せなかった。そもそも、自殺する動機が思い当たらない。遺書を書いた覚えもない。
「葬儀場へ戻ります。」
 葬儀会社の人に促され、親族は車に移動した。
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登場人物紹介

武志

自分が死んだ理由を霊になって調べる

事務計算会社営業の係長補佐

主な仕事は電話番

運転は苦手でほとんどしない

酒は飲めない

将史

武志の兄

両親の死後、家業の買取屋を継ぐ

出張買取が多く、運転は得意

鈴木係長

武志の上司

気が弱く、酒好きで、おっちょこちょいのお調子者

議員の息子

親の秘書。議員を守るためなら死をもいとわない


看護師

武志を担当していた

気が弱い

保険会社の課長

取引先の武志をとても気に入って、担当に指名

武志の勤める会社社長の中学での先輩

スリの男

公園に住み着いている

武志と将史の父

一代で財を築いた

還暦

豪華客船の旅が夢

武志と将史の母

武志の友人

病院の掃除のおばちゃん

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