葬儀場

文字数 725文字

 葬儀場につくと
「会場へお入りください。」
 葬儀会社の担当が誘導する。
「時間の都合でご葬儀が後からになりましたので、お焼香の後のお別れはありません。」
 担当者の説明に、参列者の後ろのほうからひそひそと話す声が聞こえた。
「なんでも火葬場を朝一番でという要望だったらしいわよ。」
「ご遺体の痛みが激しいとかなんとか。」
「見せたくない理由でもあったのかしら。」
 坊主の読経の中、武志は参列者の顔ぶれを眺めた。親しい身内しかいない。どうやら家族葬にしたようだ。
 式が終わり
「清めの準備ができております。」
 と、担当者にうながされ一同は部屋を移動する。
「ずいぶんとあわただしいわね。」
「かなり、強引に予定を入れたらしいわよ。」
「明日のほうが土曜日でよかったんじゃないか?」
「はやく済ませたいわけでもあるのかしらね。」
 誰がしゃべっているのかはわからなかった。
「このたびは、弟、武志のために駆けつけていただきありがとうございます。」
 喪主は、兄だ。
「両親が亡くなって間もない中、今度は弟を失いました。事故直後、自分の責任だと悔いていました。意識が戻り、自責の念にかられてしまったのかもしれません。」
 待て待て、何のことだ。
「運転をしていた弟と助手席にいた私だけが助かったのは奇跡でした。両親が守ってくれたのでしょう。その命が失われて、一番悲しんでいるのは両親でしょう。」
 話がおかしい。武志は根っからのペーパードライバだ。本当に人を乗せて運転なんてしたのか?
「私が乾杯ぐらいと軽い気持ちで飲んしまったばっかりに、弟に運転させることになってしまいました。武志、ごめんな。これからは、俺が両親とお前の墓を守っていくから。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

武志

自分が死んだ理由を霊になって調べる

事務計算会社営業の係長補佐

主な仕事は電話番

運転は苦手でほとんどしない

酒は飲めない

将史

武志の兄

両親の死後、家業の買取屋を継ぐ

出張買取が多く、運転は得意

鈴木係長

武志の上司

気が弱く、酒好きで、おっちょこちょいのお調子者

議員の息子

親の秘書。議員を守るためなら死をもいとわない


看護師

武志を担当していた

気が弱い

保険会社の課長

取引先の武志をとても気に入って、担当に指名

武志の勤める会社社長の中学での先輩

スリの男

公園に住み着いている

武志と将史の父

一代で財を築いた

還暦

豪華客船の旅が夢

武志と将史の母

武志の友人

病院の掃除のおばちゃん

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み