回想

文字数 522文字

 将史への疑心が薄れるにしたがい、武志は自分が死んだ時の記憶がよみがえってきた。武志は息苦しさに目を覚ました。顔に大きな硬いマスクがある。左手でマスクを外して深呼吸した。
「どうしたんだ?」
 頭が混乱している。体に力が入らない。おそらく、寝たきりだったからだろう。ベッドの横の大きな窓から街の夜景が見えていた。暗い室内にアルコール臭がしている。
「病院か?」
 右手に封筒らしきものを握っていた。
「口がカラカラだ。」
 封筒をポケットに突っ込むと、空いた手で、そばの机に置かれていた厚手のガラスコップに手を伸ばし、中の水を一気に飲んだ。
「ぐぇ。」
 日本酒だった。飲めない武志は吐き出そうと、窓を開けて身を乗り出した。
「ガラガラ。」
 突然うしろのドアがゆっくり開く音がした。振り向こうとしたが体が思うように動かない。バランスを崩した武志はそのまま転落した。

 事故死。武志の死んだ理由だ。武志は自分も含め、誰も自分を殺したわけではなかったことに少しほっとした。あとから知ったことだが、地獄での裁きの前に、自分の人生を見せられるのだそうだ。武志も彼の両親も悪人ではないが決して善人でもない。これから地獄での苦しい日々が続くのだろうか?
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登場人物紹介

武志

自分が死んだ理由を霊になって調べる

事務計算会社営業の係長補佐

主な仕事は電話番

運転は苦手でほとんどしない

酒は飲めない

将史

武志の兄

両親の死後、家業の買取屋を継ぐ

出張買取が多く、運転は得意

鈴木係長

武志の上司

気が弱く、酒好きで、おっちょこちょいのお調子者

議員の息子

親の秘書。議員を守るためなら死をもいとわない


看護師

武志を担当していた

気が弱い

保険会社の課長

取引先の武志をとても気に入って、担当に指名

武志の勤める会社社長の中学での先輩

スリの男

公園に住み着いている

武志と将史の父

一代で財を築いた

還暦

豪華客船の旅が夢

武志と将史の母

武志の友人

病院の掃除のおばちゃん

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