6-4. 恐るべきこの世の終わり

文字数 1,523文字

 気が付くと、視界が真っ暗だった。

「えっ!?」

 そこは宇宙だった。そして、下の方には日本列島と朝鮮半島とそして巨大蜘蛛が見えた。
 なんと、九州の上空数百キロにみんな浮かんでいる。
「うわぁ!?」
 驚いていると、シアンがうれしそうに、
「ウヒャー! これはいい蜘蛛だねぇ! きゃははは!」
 と、笑った。何がどう『いい』のだろうか?
「焼き切るか……うーん、吸い取っちゃいますか!」
 そう言うと、シアンはすごくまじめな表情になり、両手を向かい合わせにして、
「は――――っ!」
 と、叫びながら気合を込め始めた。
 両手の間から激しい閃光がバシバシとほとばしり始める。

「うわぁ!」「きゃぁ!」
 あまりのまぶしさに腕で顔を覆って後ずさりする俺たち。

 一体何が始まるのだろうか?
 宇宙最強の称号を持つおかしな女の子の行動に一抹の不安を覚える。

 目を覆ってもまぶしいくらい輝いた後、いきなり暗くなった。
 何だろうとそーっと目を開けると、シアンが何やら黒い玉を持っていた。見ると玉の周りは空間がゆがんでいる……。
 いや違う、これは黒い玉なんかじゃない、光が吸い込まれて黒く見えているだけだった。
 光を吸い込む存在……そんな物、俺はあの凶悪な奴しか知らない。俺は背筋がゾッとした。

「そ、それは……もしかして……」
 俺が恐る恐る聞くと、
「ブラックホールだよ! きゃははは!」
 と、うれしそうに笑った。

 やっぱり……。
 宇宙で一番危険な存在が目の前に出現したのだ。俺はダラダラと冷や汗が湧いてきた。
 ブラックホールとは自分の重さが強すぎて自重でつぶれ、空間もゆがめて全てを飲み込む天体のことだ。仮想現実空間にそんな物が実装されているとは考えにくい。なぜそんな物を作れるのか? 

 俺が真っ青な顔で言葉を失っていると、シアンは、
「これを蜘蛛にぶつけたら解決さ!」
 そう言ってブラックホールを巨大蜘蛛に向かって投げた。

 全てを飲み込む宇宙最凶な存在を、蜘蛛退治のためになんて使っていいのだろうか……。俺はハラハラしながら、ブラックホールの行方を追った。

 ブラックホールは程なく蜘蛛に直撃し、蜘蛛は見る見るうちに吸い込まれていく。数百キロメートルもある壮大な巨体が、まるでスポンジのようにするすると吸い込まれていく様は、とても現実の光景には思えなかった。

「うわぁ……」「すごい……」
 初めて見るブラックホールの恐るべき力に、俺たちは戦慄した。

 やがて、蜘蛛は消え去り、後には綺麗な九州だけが残った。

「イッチョあがりー! きゃははは!」
 うれしそうに笑うシアン。

「おぉ!」「やったぁ!」
 歓喜の声を上げる俺たち。お手上げだった蜘蛛がいとも簡単に消えたのだ。その鮮やかな手腕に『宇宙最強』の意味が少し分かった気がした。

「後は回収して終了~!」
 シアンは手のひらをフニフニと動かし、ブラックホールを空間の裂け目へと誘導しているようだった。
 と、その時だった。
「ふぇっ……」
 シアンが変な声を出して止まった。
「ふぇ?」
 俺が不思議に思っていると、
「ヘーックショイ!」
 と、派手にくしゃみをした。
 と、その瞬間、ブラックホールははじけ飛び、あっという間に地上に落ちてしまった。

 そして……、地球を飲み込み始める。

「あ――――っ!」「ひぇ――――!」
 悲痛な叫び声が響く中、ブラックホールは熊本を吸い込み、九州を吸い込み、アジアを飲み込んでいく。まるで風船がしぼんでいくように地球そのものがどんどんと収縮しながら吸い込まれていく。その様はまさに恐るべきこの世の終わりだった。
 あっけない最悪の幕切れ……。俺は現実感が全く湧かず、まるでチープなSF映画を見てるかのようにただただ呆然(ぼうぜん)と立ち尽くした。
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登場人物紹介

ドロシー

主人公と同じ孤児院で暮らす孤児

可愛く頑張り屋さんなお姉さん

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