1-7. 紅蓮虎吼剣

文字数 2,703文字

「あー、すまんが、ちょっとどいてくれ」
 人の良さそうな白いひげを蓄えたおじいさんが、山のように荷物を背負いながら、人だかりで歓談している人たちに声をかけた。どうやら、遅れてやってきて、これから設営らしい。
 背負ってる荷物からは剣の(つば)などが飛び出しているから武具を売るつもりなのだろう。
 俺はクッキーをかじりながら期待もせずに鑑定をかけて行った……。


ワンド レア度:★
木製の杖 攻撃力:+8

スピア レア度:★
大剣 攻撃力:+9

紅蓮虎吼(ぐれんこほう)剣 レア度:★★★★
大剣 強さ:+5、攻撃力:+8/40、バイタリティ:+5、防御力:+5

「キタ――――!!」
 俺は思わず立ち上がってガッツポーズ!
 隣に置いていたお茶のカップが転がり、お茶が地面を濡らした。

 俺はお茶どころじゃなくなって、何度もステータスを確認し、おじいさんの所へと駆けて行く。
 紅蓮虎吼(ぐれんこほう)剣はジャンク扱いで、箱の中に他の武器と一緒に無造作に突っ込まれていた。すっかり錆び切って赤茶色になり、あちこち刃こぼれが目立っている。★4なのにこの扱いはひどい。一体どんな経緯でこうなったのだろうか?
 攻撃力が『8/40』となっているのは、状態が悪いから40から8に落とされたということに違いない。きっと研げば40まで上がるに違いない。

 おじいさんはきれいに磨かれた武器を、丁寧に敷物の上に並べていく。鑑定していくと、中には★3が二つほどあった。すごい品ぞろえである。一体何者なのだろうか?
「坊主、武器に興味あるのか?」
 並べ終わると、おじいさんはそう言って相好を崩す。

 俺は★3と★4の武器を指さした。
「この剣と、この短剣、それからあの()びた大剣が欲しいんですが、いくらですか?」
「え!? これは一本金貨一枚だぞ! 子供の買えるもんじゃねーぞ!」
 驚くおじいさん。
「お金ならあります!」
 そう言ってカバンから金貨を二枚出した
「ほぅ、こりゃ驚いた……」
 おじいさんは金貨を受け取ると、本物かどうかじっくりと確かめていた。
「……。いいですか?」
「そりゃぁ金さえ払ってくれたらねぇ……。よし! じゃ、()びた奴はオマケにしといてやろう!」
 そう言って笑うと、剣を丁寧に紙で包み始めた。
 なんと、★4がオマケでついてしまった。俺は改めて鑑定スキルの重要さを身に染みて感じる。

「もしかして、こういう武器、他にもありますか?」
 在庫があるなら全部見せて欲しいのだ。
「あー、うちは古い武器のリサイクルをやっとってな。倉庫にはたくさんあるよ」
 おじいさんは開店するなり武器が売れてニコニコと上機嫌だ。
「それ、見せてもらうことはできますか?」
「おいおい、坊主。お前、武器買いあさってどうするつもりかね?」
 怪訝(けげん)そうなおじいさん。

「あー、実は冒険者相手に武器を売る商売をはじめようと思ってて、仕入れ先を探してたんです」
「え? 坊主が武器商人?」
「武器ってほら、魅力的じゃないですか」
 するとおじいさんはフッと笑うと、
「そりゃぁ武器は美しいよ。でも、儲かるような仕事じゃないぞ?」
「大丈夫です、まず試したいので……」
 おじいさんは俺の目をジッと見る。そして、
「分かった、じゃぁ明日、ここへおいで」
 そう言って、おじいさんは小さなチラシを年季の入ったカバンから出して、俺に渡した。
「ありがとうございます!」
 俺はお礼を言うと、三本の剣を抱え、ウキウキしながら孤児院の倉庫へと走った。

      ◇

 倉庫に水を汲んできて早速紅蓮虎吼(ぐれんこほう)剣を研ぎ始めた。錆びだらけなのはすぐに落ちるが、刃こぼれは頭が痛い。刃こぼれした分、全部研ぎ落さねばならないからだ。なのに、めちゃくちゃ刀身が硬く、研いでも研いでもなかなか削れていかない。さすが★4である。
 しかし、諦めるわけにもいかない。俺は砥石を諦め、庭に転がっていた石垣の崩れた石を二個持ってきた。かなりザラザラするから粗研ぎには良さそうだ。水をかけ、まずは石同士でこすり合わせて面を出す。しばらくするといい感じになってきたので剣を試しに研いでみた。するとジョリジョリと削れていって、砥石よりはいい感じである。俺は調子に乗って景気よく研いでいく。
 しかし、ヒョロッとした孤児の俺ではすぐに疲れてしまう。

「ふぅ……何やるにしても身体鍛えないとダメだなぁ……」
 ボーっと休みながらつぶやいた。

「な~に、やってるの?」
「うわぁ!」
 いきなり後ろから声を掛けられてビビる俺。
「そんなに驚くことないでしょ!」
 振り返るとドロシーがムッとしている。銀髪に透き通る白い肌の美しい少女は、ワンピースの様な水色の作業着を着て俺をにらむ。

「ゴメンゴメン、今度武器をね、売ろうと思ってるんだ」
 そう言って、石に水をかけ、剣を研ぐ。
「ふーん、ユータずいぶん変わったよね?」
 ドロシーはそう言って俺の顔をのぞき込む。
「まぁ、いつまでも孤児院に世話になってはいられないからね」

 ジョリジョリと倉庫内に研ぐ音が響く。
「あの時……ありがとう」
 ドロシーはちょっと恥ずかしそうに下を向いて言った。
「大事にならなくてよかったよ」
 俺は研ぎながら淡々と返した。
「本当はね、ユータって手に負えない悪ガキで、ちょっと苦手だったの……」
「俺もそう思うよ」
 ちょっと苦笑しながら応える。
「いやいや、違うのよ! 本当はあんなに勇気があって頼れる子だって分かって、私、反省したの……」
「ははは、反省なんてしなくていいよ。実際悪ガキだったし」
 俺は苦笑いしながら軽く首を振った。
「でね……。私、何か手伝えることないかなって思って……」
「え?」
 俺はドロシーの方を見た。

「ユータが最近独り立ちしようと必死になってるの凄く分かるの。私、お姉さんでしょ? 手伝えることあればなぁって」
 なるほど、確かに手伝ってくれる人がいるのは心強い。ドロシーは賢いし、手先も器用だ。
「そしたら、武器の掃除をお願いできるかな? そこの剣とか持ち手や(つば)に汚れが残っちゃってるんだよね」
 おじいさんの剣は基本フリマの商品なので、クリーニングまでしっかりとやられている訳ではない。売るのであれば綺麗にしておきたい。
「分かったわ! この手のお掃除得意よ、私!」
 そう言ってドロシーは目を輝かせた。
「売れたらお駄賃出すよ」
「何言ってんの、そんなの要らないわよ!」
「いやいや、これは商売だからね。もらってもらわないと困るよ。ただ……小銭だけど」
「うーん、そういうものかしら……分かった! 楽しみにしてる!」
 ドロシーは素敵な笑顔を見せた。
 そして、棚からブラシやら布やら洗剤をてきぱきと(そろ)えると、隣に座って磨き始めた。
 俺も淡々と研ぎ続ける。
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登場人物紹介

ドロシー

主人公と同じ孤児院で暮らす孤児

可愛く頑張り屋さんなお姉さん

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