1-14. 不思議な奴隷
文字数 1,979文字
これほどまでに叩きのめしているのに、一向に死なない。
俺はアバドンのしぶとさに嫌気がさし、武器を使うことにした。
割れた台座に刺さってる★5の剣を引き抜き、刀身の具合を見る。千年前の剣だけあって、少しやぼったく、厚みがあるずんぐりとしたフォルムであるが、刃はまだ斬れそうだ。
俺は剣を軽くビュッビュッと振り、肩慣らしをすると、アバドンめがけて振りかぶった……。
と、その時、アバドンが、
「こ、降参です……まいった……」
と、口を開く。
魔人の言うことなど聞いてもロクなことにならない。俺は構わず剣を振り下ろした。
ザスッ
派手な音がして首が一刀両断され、頭がゴロゴロと転がった。
首を切り落とすなんてできればやりたくなかったが、悪さをする魔人である以上仕方ない。冥福くらい祈ってやろう。
ところが……。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」
生首が語りかけてくる。首を切り離しても死なない、そのしぶとさに俺は唖然 とした。
「しょ、少年、いや、旦那様、私の話を聞いてください」
アバドンの首は切々と訴える。
「何だよ、何が言いたい?」
俺はその執念に折れて聞いてみることにした。
「旦那様の強さは異常です。到底勝てません。参りました。しかし、このアバドン、せっかく千年の辛い封印から自由になったのにすぐに殺されてしまっては浮かばれません。旦那様、このワタクシめを配下にしてはもらえないでしょうか?」
目に涙を浮かべて訴える生首。
「俺は魔人の部下なんていらないんだよ」
そう言ってまた、剣を振りかぶった。
「いやいや、ちょっと待ってください。わたくしこう見えてもメチャクチャ役に立つんです。本当です」
哀願するアバドン。
「例えば?」
「旦那様に害をなす者が近づいてきたら教えるとか、戦うとか……そもそもわたくしこう見えても世界トップクラスに強いはずなんです。旦那様の強さがそれだけ飛びぬけているということなんですが」
「うーん、でも、お前すぐに裏切りそうだからな……」
「じゃ、こうしましょう! 奴隷契約です。奴隷にしてください。そうしたら旦那様を決して裏切れないですから!」
奴隷か……。確かにそんな契約魔法があったことを思い出した。奴隷にすることで悪さしないのであれば殺す必要もない……か。
俺はリュックから魔法の小辞典を取り出すと、呪文を調べた。何だか面倒くさそうではあるが、レベル千の知力であれば時間かければできないことはなさそうだ。どこかで役に立つかもしれないし、奴隷は悪くない選択だろう。
「わかった、じゃぁこれからお前は俺の奴隷だ。俺に害なさないこと、悪さをしないこと、呼んだらすぐ来ること、分かったな!」
「はいはい、もちろんでございます。このアバドン、旦那様のようなお強い方の奴隷になれるなんて幸せでございます!」
と、身体の方が手を合わせながら嬉しそうに言った。
俺は床にチョークで丁寧に魔法陣を描き、首を持ったアバドンを立たせると、小辞典を見ながら呪文を唱え、俺の血を一滴アバドンに飲ませた。
直後、魔法陣が光り輝き、アバドンは光に包まれる……。
やがて光が落ち着いてくると、アバドンの首筋に炎をかたどったような入れ墨が浮かび上がった。
アバドンは恍惚 とした表情を浮かべている……。
「これで、いいのかな?」
「完璧です、旦那様! ありがとうございます!」
感激するアバドン。
奴隷にして感激してもらってもなぁ、とちょっと複雑な気分だ。
でもこれでアバドンは悪さができなくなった。悪さをしようとすると入れ墨が燃え出して焼き殺してしまうのだ。また、奴隷との間には魔力の通話回線が繋がるので、離れていても会話ができるようになるはずだ。どうやるかは後で確認しよう。
と、ここで、商談に行く途中だったことを思い出した。
「この遺跡に他に何か宝物はあるか?」
俺が聞くと、
「いや、他の宝はみな盗掘に遭って持ってかれてます、旦那様」
「そうか……残念だな。じゃ、俺は仕事があるんで」
そう言って俺は★5の武器をリュックにしまい、出口へと歩き出した。
「お待ちください旦那様! わたくしめはどうしたら?」
哀願するように目を潤ませるアバドン。
「ん? しばらく用はないので好きに暮らせ。用が出来たら呼ぶ。ただし、悪さはするなよ」
俺はアバドンを指さし、しっかりと目を見据えて言った。
「ほ、放置プレイですか……さすが旦那様……」
アバドンは何やら感激している。変な奴だ。
こうして俺は魔人の奴隷を持つことになった。使い道は特に思い浮かばないが、暇な時に呼び出して遊び相手にでもなってもらおう。全力で殴っても死なない相手なんてこの世界にそうはいないだろうし。
結局その日は新たな街での商談もうまくいき、さらに商売は大きく伸びそうである。
★5の武器も手に入ったし、俺の人生、順風満帆だ。
俺はアバドンのしぶとさに嫌気がさし、武器を使うことにした。
割れた台座に刺さってる★5の剣を引き抜き、刀身の具合を見る。千年前の剣だけあって、少しやぼったく、厚みがあるずんぐりとしたフォルムであるが、刃はまだ斬れそうだ。
俺は剣を軽くビュッビュッと振り、肩慣らしをすると、アバドンめがけて振りかぶった……。
と、その時、アバドンが、
「こ、降参です……まいった……」
と、口を開く。
魔人の言うことなど聞いてもロクなことにならない。俺は構わず剣を振り下ろした。
ザスッ
派手な音がして首が一刀両断され、頭がゴロゴロと転がった。
首を切り落とすなんてできればやりたくなかったが、悪さをする魔人である以上仕方ない。冥福くらい祈ってやろう。
ところが……。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」
生首が語りかけてくる。首を切り離しても死なない、そのしぶとさに俺は
「しょ、少年、いや、旦那様、私の話を聞いてください」
アバドンの首は切々と訴える。
「何だよ、何が言いたい?」
俺はその執念に折れて聞いてみることにした。
「旦那様の強さは異常です。到底勝てません。参りました。しかし、このアバドン、せっかく千年の辛い封印から自由になったのにすぐに殺されてしまっては浮かばれません。旦那様、このワタクシめを配下にしてはもらえないでしょうか?」
目に涙を浮かべて訴える生首。
「俺は魔人の部下なんていらないんだよ」
そう言ってまた、剣を振りかぶった。
「いやいや、ちょっと待ってください。わたくしこう見えてもメチャクチャ役に立つんです。本当です」
哀願するアバドン。
「例えば?」
「旦那様に害をなす者が近づいてきたら教えるとか、戦うとか……そもそもわたくしこう見えても世界トップクラスに強いはずなんです。旦那様の強さがそれだけ飛びぬけているということなんですが」
「うーん、でも、お前すぐに裏切りそうだからな……」
「じゃ、こうしましょう! 奴隷契約です。奴隷にしてください。そうしたら旦那様を決して裏切れないですから!」
奴隷か……。確かにそんな契約魔法があったことを思い出した。奴隷にすることで悪さしないのであれば殺す必要もない……か。
俺はリュックから魔法の小辞典を取り出すと、呪文を調べた。何だか面倒くさそうではあるが、レベル千の知力であれば時間かければできないことはなさそうだ。どこかで役に立つかもしれないし、奴隷は悪くない選択だろう。
「わかった、じゃぁこれからお前は俺の奴隷だ。俺に害なさないこと、悪さをしないこと、呼んだらすぐ来ること、分かったな!」
「はいはい、もちろんでございます。このアバドン、旦那様のようなお強い方の奴隷になれるなんて幸せでございます!」
と、身体の方が手を合わせながら嬉しそうに言った。
俺は床にチョークで丁寧に魔法陣を描き、首を持ったアバドンを立たせると、小辞典を見ながら呪文を唱え、俺の血を一滴アバドンに飲ませた。
直後、魔法陣が光り輝き、アバドンは光に包まれる……。
やがて光が落ち着いてくると、アバドンの首筋に炎をかたどったような入れ墨が浮かび上がった。
アバドンは
「これで、いいのかな?」
「完璧です、旦那様! ありがとうございます!」
感激するアバドン。
奴隷にして感激してもらってもなぁ、とちょっと複雑な気分だ。
でもこれでアバドンは悪さができなくなった。悪さをしようとすると入れ墨が燃え出して焼き殺してしまうのだ。また、奴隷との間には魔力の通話回線が繋がるので、離れていても会話ができるようになるはずだ。どうやるかは後で確認しよう。
と、ここで、商談に行く途中だったことを思い出した。
「この遺跡に他に何か宝物はあるか?」
俺が聞くと、
「いや、他の宝はみな盗掘に遭って持ってかれてます、旦那様」
「そうか……残念だな。じゃ、俺は仕事があるんで」
そう言って俺は★5の武器をリュックにしまい、出口へと歩き出した。
「お待ちください旦那様! わたくしめはどうしたら?」
哀願するように目を潤ませるアバドン。
「ん? しばらく用はないので好きに暮らせ。用が出来たら呼ぶ。ただし、悪さはするなよ」
俺はアバドンを指さし、しっかりと目を見据えて言った。
「ほ、放置プレイですか……さすが旦那様……」
アバドンは何やら感激している。変な奴だ。
こうして俺は魔人の奴隷を持つことになった。使い道は特に思い浮かばないが、暇な時に呼び出して遊び相手にでもなってもらおう。全力で殴っても死なない相手なんてこの世界にそうはいないだろうし。
結局その日は新たな街での商談もうまくいき、さらに商売は大きく伸びそうである。
★5の武器も手に入ったし、俺の人生、順風満帆だ。