第十章 永遠の虚無

文字数 574文字

「忘れるな、神は常にお前と共におられる。帰る時、お前は神の栄光に包まれるであろう。その時はお前が天使の長を務めよ。そうさな、長ではつまらん。大天使長と名乗るが善い。お前は神の御前に誉れ高い天国の王太子となる」

 弟は微笑んだ。

「兄様はやはり兄様ですね。僕が暗闇に閉じ込められても見守って下さるのでしょう?」

「さてな、どうであろうか」

「行ってきます」

 そして、少年は暗い闇に閉じ込められた。

 五感が全く感じない。少年は即座に判断した。この世界では一切の感覚は無意味だ。思考を辿らせる。これが兄の味わった世界か。一筋縄ではいかない。問題はこの世界に果てがあるのかということだった。つまり、終わりは存在するのかという問い。時間を感じる感覚すら遮断される様子だ。

 祈っても誰も答えない。

 数千年が流れたであろうか、あるいは数千万の年月が流れたのだろうか。未だ大丈夫。そう自身に言い聞かせる少年。

 しかし、この世界は何なのだ? 天国とは異質な世界だ。そう言えば兄が行った世界の内に深淵という世界があった筈だ。あるいは虚無というべきか。そこに行ってから決定的に変化が訪れたのかも知れない。あるいは闇と呼ばれる敵も似たような存在だったのかも知れない。

 ほんの僅かであるが、精神体が摩耗し始めている。自らが唯一とりえである祈りの賜物をもってしても摩耗を防ぎきれない。
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