第十三章 神は賽を振られる

文字数 837文字

 闇に包まれていた時間と天国の時間の感覚は異なる。闇の世界で永遠に感じていようとも天国では一瞬ということもあり得る。地上の千年が天上において陽が昇る瞬間にしか値しない様に時間とは変化するものである。

 至高天ではあり得ない現象が起きていた。

「何だ? この果てのない強大な力は」

 賢老ラジエルは天使の文明ですら解き明かせぬ力の胎動を感じ取っていた。

 奇しくも少年と同世代である英傑ガブリエル、ラファエル、ウリエルもその力を感じ取っていた。

「この力は……神そのもの?」

 彼女らが神と見紛うばかりに強大だと認識した力。それは少年の内に秘めたる力そのもの。

 神の如き強大無比な力の顕現である。

 しかし、それはまだ幼子の操るそれでもある。兄の成熟した力の使い方に対して弟はまだ微睡みの中に生きる神の写し身であった。

 賢老は呟く。

「ルシフェル。そなたは王の道を諦め、『神の化け物』となりん。今、世界に二つの軸が産まれる。『聖なる指環』と『神の化け物』の両者が産まれた」

 後に受胎告知の大天使と知られる天使ガブリエルは畏れのあまり、祈り跪いた。

 その時、ほんの刹那の間だがガブリエルと神の間に対話が生まれた。

「あなたは正しい行いをしている」

「主よ、私は畏れ慄きます。神に僅かに劣ったものとしてこれ程の存在とは。彼は何者でしょう。あなた様が顧みて憐れみかけて下さるものとは」

「あなたは今神の言葉を聴いて預言したのだ。視よ、私は賽を振る。全能なる神が賽を振る意味を考えるが良い。これは全てあなたがたの為である。主なる神である私はあなたがたの可能性を信じたのだから賽を振るからと言って驚いてはならない」

「主よ、御心のままに。この至高天に幕屋を立てましょう。一つはあなた様の為、もう一つは天使の長の為、もう一つはあの子の為に」

 この瞬間だけガブリエルは自身が何を話しているのか判っていなかった。彼女は深く畏れていたからである。

 父なる神が雷鳴の如く、轟いた。

「これは私の愛する子、これに聴くが善い」
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