第六章 聖なる指環は大天使長に語れり

文字数 675文字

 いつしか、彼はある確信を抱いた。

 この力に抗する者が現れるであろうと。己はその為の捧げものであったと。

 聖指環はこの時、彼の嘆きに答える。

「待っていた。この日を待っていた。神は賽の目を賭けることを叶わなかった。しかし、そなたは挑戦した。これに続く第二の者が現れる。第一のアダムが不完全である様に第二のアダムは完全に至れり」

「そなたは何者だ?」

 天使の長が問うと光は答えた。

「私は嘆き、哀しみ、憐れみである。そなたが未来永劫求め続けた神の聖遺物。しかし、そなたはそれを手にすることは叶わない。然るべき者が待っている。行け、そなたの愛する者が心配している。その者に心をかけよ。いつしか、その者はそなたの希望をなりうるのだから」

「おお、世界をも支配せし指環よ。そなたは全てを見透かすと言うのか? 誰がこの様な試練に耐え切れようと言うのか?」

「そなた達の内にはそなた達の知らない方が居られる。私はその方の履き物の紐を解く値打ちもない。観よ、その方は神の都の護り手、教会の最大の守護者となるであろう」

「そなたの言葉が実現せんことを余は祈る。最早、余に祈りの力がないが、その子にはある。しかし、余は祈る。その子が間違えて太陽そのものにならないことを。神そのものを目指さないことを。その子は主の御前に輝かしい存在として映る。今は未だ誰も知らない、主なる方と余とそなたを除いて。しかし、いずれ来るべきその日について祈ろうではないか。その子は栄え、余は衰えねばならない」

 二つの存在は祈り続けた。いつしか来るであろう世界を導く子らに捧げる鎮魂歌をその場で詠い続けた。
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