第五章 神の死

文字数 640文字

 神学と哲学は発展したが、世界は逆に神を失いつつあった。

 少年は祈りを捧げ、神と被造物の間と執り給う。

 されど、一人の力は何を成し得ようか。数は力なり。この必勝を覆すのは唯一つ。圧倒的な力のみ。世界は静かに待つ。世界そのものを変えるべくして産まれた被造物を。「神の化け物」と相対出来る宿命の子を。

 化け物は未知なるものであるから化け物である。天使の長はやがて奇怪な領域に足を踏み入れ始める。英雄故の性か。闇を身に付けんとし、昏き世界に足を運ぶ様になった。

 そこは闇。水の上に深淵が覆い、闇が世界に満ちていた。闇とは何なのか。人の賢者は後にそれを虚無と言い表した。被造物が虚無に服するのは神から産まれたと同時に世界に虚無があったからだと。
 生命が闇に魅かれるのは自由意志によるもの。
 この時代にありて初めて虚無を手にしようとせん者。それがルシフェルであった。世界を変える程の強大な力がそこにあった。初めの被造物は虚無そのものを手にした。秩序と不正義。不正義と秩序。選ぶとすればどれであっただろうか? 正義と秩序の双方を求めることは叶わないことであったか。あるいは後代の哲学の賢人が申した通り、力と正義の双方を持つことを許されたのは神だけであったという帰結なのか? 今まさに不正義と不秩序が産まれた。反真理の生誕である。

 しかし、それでも尚神性を纏おうとする天使の意地があった。ルシフェルは誘惑と闘った。

 その時、彼の中で神は既に息をしていなかった。彼は神なき世界に放り込まれたのだ。
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