第十二章 信仰と祈りとは何たるか

文字数 1,016文字

 突如、割り込む声があった。

「大分苦戦している様だな」

「兄様……」

「ここが試練とすれば神は何と厳しい御方なのだろうな」

「僕は……僕は間違っていたというのですか? 僕は兄様達のことを想って常に諭し続けていました。この信仰が間違いだと言えるのですか?」

「お前の望む信仰とは如何なるものだ?」

「正しく生き、神なる方に感謝し、神を拝することです」

「そうか、実に下らない信仰だ」

「下らない……あなたに何が判るのですか? 正しくあろうとする生き方が」

「その様な信仰の在り方が正統にして普遍、闇に抗議する力になり得ると?」

「正しい者の祈りには力が備わる筈です! 被造物は決して道を逸れてはならない。それは神が定めた普遍の生き方です!」

「そうか、なら聖なる指環はお前には微笑まない」

「何を……」

「よく聴け。耳のある者は聴きなさい。信仰のある者は声を聴きなさい。あるところに神の法を全て守る者と罪人がいた。前者は神殿で感謝の祈りを捧げ、後者は『主よ、罪人である私を憐れんで下さい』と祈りを捧げた。神はどちらを正しい者とみなしたであろうか?」

 これは天使の長が弟に出す信仰の在り方を問う為に神の言葉を先取りして預言したものである。後に神の最期の約束の中に納められる言葉であった。
 しかし、少年の中には未だ答えはない。その意図すら読めないからである。

 兄は続ける。

「信仰というものは当たり前にあるものではない。お前は幼いから知らない。信仰とは勝ち取るものなのだ。神に祈りを捧げることが当たり前の権利だと考えるならお前は余と同じ道を辿る。そうではない。信仰とは、生とは永遠の奇跡なのだ」

 祈れることが奇跡だというのなら祈れる権利を持つ者らは幸いなのである。後の人の世では祈ることすら許されぬ世界がある。その中でも人々は必死に祈っているのである。

「兄様、愚かな僕を赦して下さい。いいえ、赦す必要もありません。あなたは僕を裁きの場に申し立てる権利があります。主の御前に僕を連れて行って下さい」

「お前には善いところがある」

 突如話を変えた天使の長に少年は戸惑いを隠せない。

「善いところ……」

「そう、闇の言葉があってもお前は信仰を護ろうとした。実に見事だ。それこそ神の信仰。『神の非在』なる世界に『非在の神』を見出した」

 何処からともなく声が謳われる。

「……神を失った者だけが唯一世界と闘える」

「この子を後継者として認めたか。聖なる指環」

 天使の長は苦笑していた。
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