第二章 変貌せし英雄 

文字数 618文字

 かつて、天に偉大な英雄数多あれど、その頂点に立つ者は唯独りであった。即ち、初めの被造物ルシフェル。英雄を凌ぐ英雄。彼の者を前に全ての天使は畏れと尊敬の念をもちてこう言い表した。

 大天使長ルシフェル、と。
 
 さりとて、例外はあった。彼には年の離れた弟がいた。彼はこの者を大層可愛がった。

 名は伏せられているこの天使を未だ少年と呼ばれていた。

 この無垢な少年は祈りの賜物を持ち、常に祈りを捧げていた。英雄とは対照的な貧者たる佇まいに誰もが不可思議な視線を送り続けていた。

 二人は予見の力をもちあわせていた。兄は強大な闇が未来に誕生することを予見し、弟は希望が産まれることを予見していた。兄の予見は的中した。

 七つの千年期が終わる頃、唐突に巨大な闇が未来から来訪した。あまりの強大さに天使達は恐れおののき大天使長に助けを求めた。

 かの大天使長は即座に討伐に動く。この時、弟も参戦の意志を固めていたが、兄は固執して辞退させてしまう。今に思えば、これがあの兄弟の分岐点であったかも知れない。

 三日三晩に亘る闘いの後、闇は遂に敗れる。天使達は英雄を讃え、帰還を歓迎した。
されど、英雄は浮かない表情であり、弟は察し、二人の時に尋ねた。

「兄様、あの闇は何者でしたか?」

 それは兄の予見が当たったことに対する以上にその先を見据えた弟に対し、兄は素直には敗北を認めた。

「聖指環は余に微笑まず」

 英雄は寂しそうにそう笑んだ。

 この頃から英雄は変わり始めた。
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