第四章 天はやがて暗くなりけり

文字数 627文字

 かの偉大な英雄を以てしても届かぬとは。おお、聖指環よ。そなたは何者なのだ。たとえ、世界を動かす偉大な英雄であろうと微笑まぬとは。
 誰がそなたに認められうると語るのか?
 その様な偉大なる者が世界に存在しえるというのか?
 
 されど、この時、聖指環は沈黙し、英雄は一つに道しるべを示す。

「いつの世か、世界は『神の非在』を詠い給う。されど、余には神が見えない。神なき世界に再び神を見出す者が現れる」

 この時、賢老は察する。

「英雄は堕落せり。英雄が必要とする時代はいつの時代も争乱」

「然り。英雄は平和の賢者にはなれず。だからこそ、あなたを後見人としてあの子を任せる」

 この二人の誓いは後に天における桃園の誓いであった。

 英雄と賢老は道を別つ。

 世界が神を失うのは未だ先の話であった。

 英雄譚は常に脚色し語られる。いつしか天にはこの様な喝采が叫ばれる。

「神は百の敵を打ち滅ぼし、天使の長は千の敵を打ち滅ぼす。英雄の存在は永遠なり。誰が彼に敵うだろうか」

 少年はしばしば英雄をいさめる。

「兄様、栄誉は幾千の金銀に勝ります。されど、主なる方を超えようとするのは傲慢です」

 英雄は寂しく微笑み,弟に返す。

「お前はいつも正しい。だが、正しさのみでは被造物は生きて行けない。光は強く、独りでも存在できる。しかし、闇はどうであろうか? 光が強ければ強い程、闇も又暗くなる」

 いつしか、世界は知らずの内に闇が漂い、暗く曇天が被造物の心を覆う。闇が産まれて知らずの内に力を増せり。
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