竹青(10)

文字数 551文字

 竹青のすがたが、ふっと見えなくなったと思うと、
 美しい家も庭も、けむりのように、消えました。
 魚容はひとり、ふるさとの村のはずれに立っていました。



 しょんぼりして、とぼとぼあるいて、わが家について、そっと中をのぞくと、

「まあ! おかえりなさい!」
 にこにこして、むかえてくれたのは、なんと、竹青ではありませんか。
「竹青!!」



「何をいっているの。竹青って、だれのこと?
 まあ、あなたはずっと、どこへ行っていたの?」

「あたしは、あなたのいないあいだに病気になって、ひどい熱を出して、ひとりぼっちで、さびしくて、あなたが早く帰ってきてくれたらいいのにと、そればかりねがっていたの。
 からだじゅうがむらさき色にはれてきて、これも、あなたにいじわるしたばちがあたったのだとおもって、死ぬのをしずかに待っていたのよ」

「そしたら、はれたところがやぶれて、青い水がどっさり出て、
 すーっとからだがかるくなって……
 かがみをのぞいてみたら、あたしの顔はすっかりかわって、こんなきれいな顔になっているから、びっくりしちゃったの」

「あなた、ゆるしてね。あたしは、かわったの。
 顔だけでなく、心もかわったのよ。
 これからは、あなたのこと、たいせつにするわ。
 だから、もう、どこへも行かないでね。ずっと、あたしのそばにいてね」
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