菊の恩返し(5)

文字数 617文字

 やがて、秋たけなわとなりました。
 才之助は、三郎の畑が気になって、しかたありません。
 ある日、そっとのぞいてみて、おどろきました。



 いままで見たこともないような大きな花が、畑いちめんに咲きそろっています。
 花ひとつひとつを、見れば見るほど、よくできています。花びらの肉もあつく、力づよくのび、ぷりぷりふるえているほどで、いのちのかぎりに咲いているのです。しかも、それはみな、才之助が捨てたくずの苗から咲いた花でした。
 納屋もこぎれいに修理されて、いごこちのよさそうな家になっています。
 あきらかに、才之助の負けです。

 ふりむくと、三郎が、にこにこして立っています。才之助は、いさぎよく、
「負けました。どうか、きみの弟子にしてください。わたしに、菊作りのひみつを、教えていただきたい」
 三郎は、笑って、
「ひみつなどは、ありません。わたしには、しぜんに、できてしまうのです。教えるようなものではありません」

「それじゃ、教えても、むだだということか? きみは天才で、わたしはばかだということか?」
「ちがいます、ちがいます。ごらんのとおり、わたしは少しずつ菊を売って、姉とふたりのくらしをささえております。みごとな花でなければ売れないので、本気を出して、真剣に作るから、花も大きくなるのではないかと思います」
「わたしは本気じゃないということか? 真剣さがたりないということか?」
 どうも、しっくりいきません。すぐにけんかになってしまいます。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み