竹青(7)

文字数 506文字

 そのときです。
「何をいっているの」
 ふりむくと、それはそれは美しい女の人が、にっこりわらって立っています。
「どなたですか、すみません」とにかく、あやまりました。

「いやよ、竹青をおわすれになったの?」
「竹青?!」
 魚容はびっくりして、それからむちゅうで、女の人をだきしめました。
「はなして。息が、とまりそう」
 その笑い声、きらきら光るひとみ、ああ、まちがいなく、竹青なのでした。



「もう、どこへも行かないでくれ、竹青」
「どこへも行かないわ。ずっとおそばにいるわ。だから、死ぬなんていっては、いやよ」
「いわない。どこへでもつれていってくれ、竹青。おまえといっしょなら、どこへでも行く」
「じゃ、ちょっと、目をつぶって」

 いわれるままに目をつぶると、肩に、何か、ふんわりしたものがかかって、すっとからだがかるくなり――

 目をひらいたら、すでにふたりは二羽のからす。黒いつばさはつやつやとかがやき、ちょんちょん歩いて「かあ」と鳴き、ぱっと飛びたちます。
 月の光のもと、とうとうと流れるのは、長江(ちょうこう)という大きな川。高くそびえる山やまをこえ、飛んで飛んで、飛びつづけ、夜の明けるころ、朝もやのむこうに、漢陽(かんよう)の都が見えてきました。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み