竹青(2)

文字数 493文字

 けれども、魚容は、ろくにごはんを食べていなかったので、おなかがすいてふらふらで、試験に落ちてしまいました。
 かなしくて、まっすぐ家に帰る気にもなれません。洞庭湖(どうていこ)という美しいみずうみのほとりまできて、ごろりとねころびました。

「ああ、いやになる。いっしょけんめいがんばったって、いいことなんかないじゃないか。このまま帰ったら、きっとまたおくさんにばかにされるよ。もう、死んでしまいたい」

 見あげると、からすがたくさん、空をとんでいます。
「からすはいいなあ、気らくで」
 小声でいって、目をとじました。
 そして、つい、うとうととねむってしまいました。



 そのとき、
「もし、もし」
 ふしぎな、しわがれ声がしました。
 魚容は、ねぼけて、
「ああ、すみません。しからないでください」
 小さいころから人にしかられてばかりいるので、つい、すぐあやまってしまうくせがあるのです。

「しかるのではない」ふしぎな声はいいました。
 見ると、黒い服をきた男の人が、うすい黒いぬのを手にして、立っています。
「そんなにからすがうらやましいなら、さあ、これを着なさい」
 ふわりと、その黒いぬのを、ねている魚容にかぶせました。


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