菊の恩返し(6)

文字数 669文字

 三郎の菊は、よく売れるようでした。あくる年の正月には、三郎は、お城のようにりっぱなやしきを建てはじめました。
 才之助は、おもしろくありません。また絶交してやろうかと考えはじめた、ある日のことです。



 三郎が、思いつめたような顔をしてやってきて、いいました。
「姉さんと、結婚してください。
 姉は、あなたを、おしたいしております」

「……だれが?」
「ですから、わたしの姉さんがです」

「だれを?」
「ですから、あなたをです」

 才之助は赤くなりました。ひと目見たときから、黄英のやわらかな清らかさが、ずっと心をはなれなかったのです。
 けれども、やはりいつものくせで、へんな意地をはってしまいました。

「いや、その、わたしだって、きみの姉さんを、きらいでは、ありません。けれども、財産めあてだと思われては、こまる。わたしの、この、そまつな家へ、姉さんのほうから来るというのなら、もらってあげないことも、ないのだけれども」
 才之助は、てれかくしにそういうと、そそくさと外へ出かけていきました。

 ところが、才之助が庭をひとまわりしてもどってくると、黄英が、もう才之助の家の板のまにきちんとすわって、待っていました。



「わたし、来ましたわ」
 そういって、くすくす笑いました。
 才之助は、まっ赤になりました。追いかけてもつかまらない蝶が、じぶんから、ひらひらと入ってきたようなものです。
 それでも、まだ意地をはって、
「き、きみのような、ぜいたくなおくさんは、こまる。きみがどうしてもこの家にいたいというなら、よろしい、わたしが出ていきましょう」
「……才之助さま?」
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