菊の恩返し(4)

文字数 594文字

 そのばん、三郎が、にこにこしながら母屋へやってきて、
「どうですか、才之助さん、わたしに菊畑の半分を、お貸しくださいませんか? いい菊を作ってさしあげますから、それを浅草あたりへ持ち出して、お売りになったらいかがでしょう? お金も、少しは、たまりますよ」

 才之助は、思わず、かっとなって、
「おことわりもうす。きみも、いやな男だねえ」
 と、口をゆがめて、いいました。
「わたしにとって菊は、心のたからです。それを売って、お金もうけをするなどとは、もってのほかです。ああ、けがらわしい。おことわりもうす」



 三郎も、さすがにむっとして、
「天からもらったじぶんの力でお金をかせぐことは、はずかしいことではないと思います。人は、むやみにお金をほしがってもいけないが、びんぼうをじまんするのも、いやみなことです」
「わたしが、いつ、びんぼうをじまんしましたか」と才之助。「今のくらしのままで、じゅうぶんだといっているのです。よけいなおせっかいは、やめてください」
「わかりました」
 三郎も、しぶしぶ言いました。

「ところで、あの納屋のうらに、菊の苗がたくさん、捨てられてありますけれど、……」
「あれは、くずの苗です。わたしの菊畑の半分は、まだ何も植えていませんから、好きなようにお使いください。ええ、どうぞ、ごかってに」
 才之助はさっさと畑を二つにわけて、あいだに高い生垣を作り、三郎と絶交してしまいました。
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