竹青(9)

文字数 652文字

 ふりむくと、竹青が、ほほえんで立っています。



「ちがう。いまのは、ちがう」魚容は、ひっしでさけびました。「あいつは、ひどい女なんだ。わたしのことをばかにして、こきつかって、いじわるで、なまけもので、一つとしていいところがないんだ」

「でも、たいせつな人なのね」竹青はしずかにいい、それから、きっぱりといいはなちました。「さあ、おくさまのところへ、帰りなさい」
「それは、ひどい。ここまでつれてきて、いまさら帰れなんて、ひどい。
 竹青、おまえも、わたしをからかっていただけだったのか?」

 竹青は、きらきら光る目で、まっすぐに魚容を見つめました。

「あたしは、みずうみの神さまのつかいです。
 これは、神さまの試験だったのですよ」
「神さまの試験?」
「そうです。あなたは、お役人になる試験には落ちましたが、神さまの試験には、合格したのですよ」

「あなたがほんとうに人間をやめて、からすになりたがっているのか、神さまはあなたを、ためされたのです。
 いちどは、こらしめのため、あなたを弓矢できずつけて人間の世界にかえしてあげましたが、あなたはもどってきてしまいました。
 もし、ほんとうに人間をやめて、家族をすてて、なんとも思わないようなら、あなたはおそろしいばつを受けるところだったのですよ」

「あなたは、ほんとうは、からすになりたいわけではないでしょう。
 さびしいだけでしょう。
 だったら、人間をやめたいなんていっては、だめよ。
 けんかして、なかなおりして、それが人間ですもの」

「さあ、帰りなさい、ふるさとへ。
 さようなら」


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