竹青(4)

文字数 546文字

「こんにちは」
 ふりむくと、かわいい、めすのからすがいます。
「ああ、すみません。しからないでください」
「しかりません」めすのからすは、にこにこして、「あたしを、あなたのおよめさんにしてくださいな。おいや?」



「いやじゃないが」魚容はどぎまぎして、「わたしには、ちゃんと、おくさんがいます。きみと結婚は、できない」
「何をいっているの。あなたはもう、人間でないのですから、人間のおくさんのことなんて、わすれてしまっていいのよ。みずうみの神さまが、そうおっしゃったのです」
「ほんとうに?」
「ええ。これからは、あたしを、おそばにおいてくださいな。
 あたしの名まえは、竹青(ちくせい)というの」

 竹青は、やさしくて、かしこくて、それはそれは美しいからすでした。
 魚容と竹青は、いっしょにみずうみの上を飛びまわりました。日がくれると、木の上でよりそってねむり、朝になると二羽そろって、みずうみの水でぱちゃぱちゃとからだをあらい、口をすすぎ、「かあ」と鳴いて、船に乗る人たちが投げてくれるおいしいえさを、おなかいっぱい食べました。
 目があうと、竹青はいつも、にっこりとほほえみました。魚容も、にっこりとほほえみかえしました。
 魚容は、しあわせでした。
 いままで生きてきて、こんなにしあわせだったことは、ありませんでした。


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