第2話 スキー場にて
文字数 2,288文字
僕たちを乗せたバスは、途中スキー場とホテルに3か所停まってから、僕たちが泊まるホテル『ガーデンホテル湯沢』に到着した。
ホテルはこの辺りでは一番規模が大きく、僕が勤めている竹岡建設が建築した施設だった。その後、会社の福利厚生施設となり料金的に優遇されて泊まれるので、うちの社員は良く利用している。
「わぁー、大きなホテル」
バスから先に降りた女性たちが、ホテルの前ではしゃいでいる。
「ここは250坪の大浴場がすごいらしいよ」
後ろから歩いてきた安田がみんなに言った。
「へえ……大浴場かあ、楽しみ」
「夕食は魚介をふんだんに使ったバイキングだから、今日はあんまり間食しないでね」
「はーい」
何人かは手を挙げて返事をした。
「おい、安田! 風呂はもちろん混浴だろうな!」
田中さんがそう言うと「はい、はい」吉宗さんは呆れたように右手を顔の前で左右にひらひら振りながら返事をし、女性たちはそれを見てクスクス笑いながらホテルの中へ入っていった。
そして、僕たちは休む間もなくロビーの奥にあるロッカー室で着替えてから荷物をクロークに預け、またシャトルバスに乗ってスキー場へと向かった。
バスの運転手の話だと、昨晩は大雪だったので、快晴の今日は絶好のスキー日和になっているとの事だった。スキー場に到着すると、バスに乗っていたほとんどの客が降りてきた。
「雪質よさそう」
「きれいなスキー場だね」
女性たちの嬉しそうな声がここでも聞こえてくる。
そして、センターハウスに入ると「とりあえず食堂に行って、ビールでも飲むか」と田中さんが言ったが、聞こえてないかのように、みんなスタスタとそのまま進んでいった。
「分かった、分かった、俺も行くわ。せっかちな奴らだな」
ぼやきながらも、田中さんはスキー板を持ち上げた。
「じゃあ2周したら食事にしましょうか。滑り終わったら、そこのフードコートに集合ということで。先に戻った人が場所取っといてください」
安田がリフトのチケットをみんなに配りながら言った。
「オッケー」
「わかりました」
そうして、みんな口々に返事をしてゲレンデに飛び出して行った。
スキーをするのは僕と田中さんだけで、他はみんなスノーボードだった。僕は実家のある名古屋から高速道路で北へ向かえば、すぐに行ける岐阜のスキー場がいくつもあった。その為、小さな頃から家族で行っていたので滑るのは得意だった。
昔、幸恵と2人で新潟にある別のスキー場に何度か来た時があったのだが、その時も新潟が地元でスキーが上手い彼女ですら、意外な僕の実力にはびっくりしたものだった。
「上手いな、やっぱ橋本は」
なんとか並走していた田中さんが滑り終えると僕に言った。
「田中さんも、早いですよ。ついてくのが大変」
僕のお世辞に、彼はんざらでもない様子でリフト待ちの並びの列の中に入っていった。
「さて、じゃあもう1周行って休憩するか。ここで頑張れば後でビールが美味くなるぞ」
田中さんと2周目を滑り終わってフードコートに入ると、最近付き合い始めた事を行きの新幹線の中で報告して、みんなを驚かせていた総務部で後輩の宇野と1歳年上の島野さんが席に座っていた。
「おい、あれ……」
田中さんが指を差して僕を横目で見た。
「宇野が席をとってくれてましたね」
「あいつら1周で終わらせて、もうラブラブモードに突入してんじゃないか」
今までは、それ程宇野にはきつい言葉を使わなかった田中さんだが、島野さんと付き合ってると報告してからは何となく当たりが強くなっている事に僕は内心可笑しく感じていた。そして、ラブラブモードなんていつの言葉だろうと思った。
そして、彼は苦々しい顔をしながら言葉を続けた。
「ところで座っていいのか? あれ」
「テーブル空いているからいいんじゃないですか?」
僕は平然とした様子で言った。
「鈍感だな、お前は本当に」と言いつつも「まっ、いいか。とりあえず座りたいからな」
そう言って、田中さんはスタスタと2人に向かって歩いていった。
「すずちゃん、ここ空いてる?」
田中さんは優しい口調で島野さんに訊いた。
「あっ、もちろんですよ。どうぞ」
島野さんは笑顔で空いている席に手を向けた。
「ありがとうね」
田中さんは、彼女に笑顔でお礼を言った後に、宇野を厳しい目つきで見ると「昼間っから仲の良いことで」と彼の耳元で言ってから席に座った。
「あそこは私には無理だー」
「右に逃げていくルートがあったよ」
田中さんが買ってきたビールを飲んでいると、しばらくしてみんなが口々に話しながら戻ってきた。
そして、少し遅めの昼食をみんなで食べた。田中さんはビールをさらに何本か買ってきたが、結局余ってしまったので、もったいないなと、独り言を言いながら自分で飲んでいた。
「田中さんくらいの年代の人ってさ、なんで何処でもビール飲まそうとするんだろうね。金岡課長もこないだの部内旅行の時そうだったよな」
隣にいた安田が、田中さんを見ながら小声で言った。
「確かにそうだったな。若いんだから飲めるだろ? とか言って、俺とお前だけやたら飲まされたな」
「そうそう、金岡課長なんて昼間っから禿げ頭真っ赤になるくらい飲んでたぜ」
「俺、あの後のぶどう狩りで、ぶどうの味全然分からなかったわ」
「俺も」
僕が安田と話していると、田中さんは酔いが回ったのかテーブルにうつ伏せになって寝てしまった。
それから、フードコートで食事をした後は、寝ている田中さんをそのまま置いてみんなはまた滑り始めた。
僕は今朝、加奈から聞いた幸恵の話をゆっくり考えたくて一人になれる場所へ向かった。
ホテルはこの辺りでは一番規模が大きく、僕が勤めている竹岡建設が建築した施設だった。その後、会社の福利厚生施設となり料金的に優遇されて泊まれるので、うちの社員は良く利用している。
「わぁー、大きなホテル」
バスから先に降りた女性たちが、ホテルの前ではしゃいでいる。
「ここは250坪の大浴場がすごいらしいよ」
後ろから歩いてきた安田がみんなに言った。
「へえ……大浴場かあ、楽しみ」
「夕食は魚介をふんだんに使ったバイキングだから、今日はあんまり間食しないでね」
「はーい」
何人かは手を挙げて返事をした。
「おい、安田! 風呂はもちろん混浴だろうな!」
田中さんがそう言うと「はい、はい」吉宗さんは呆れたように右手を顔の前で左右にひらひら振りながら返事をし、女性たちはそれを見てクスクス笑いながらホテルの中へ入っていった。
そして、僕たちは休む間もなくロビーの奥にあるロッカー室で着替えてから荷物をクロークに預け、またシャトルバスに乗ってスキー場へと向かった。
バスの運転手の話だと、昨晩は大雪だったので、快晴の今日は絶好のスキー日和になっているとの事だった。スキー場に到着すると、バスに乗っていたほとんどの客が降りてきた。
「雪質よさそう」
「きれいなスキー場だね」
女性たちの嬉しそうな声がここでも聞こえてくる。
そして、センターハウスに入ると「とりあえず食堂に行って、ビールでも飲むか」と田中さんが言ったが、聞こえてないかのように、みんなスタスタとそのまま進んでいった。
「分かった、分かった、俺も行くわ。せっかちな奴らだな」
ぼやきながらも、田中さんはスキー板を持ち上げた。
「じゃあ2周したら食事にしましょうか。滑り終わったら、そこのフードコートに集合ということで。先に戻った人が場所取っといてください」
安田がリフトのチケットをみんなに配りながら言った。
「オッケー」
「わかりました」
そうして、みんな口々に返事をしてゲレンデに飛び出して行った。
スキーをするのは僕と田中さんだけで、他はみんなスノーボードだった。僕は実家のある名古屋から高速道路で北へ向かえば、すぐに行ける岐阜のスキー場がいくつもあった。その為、小さな頃から家族で行っていたので滑るのは得意だった。
昔、幸恵と2人で新潟にある別のスキー場に何度か来た時があったのだが、その時も新潟が地元でスキーが上手い彼女ですら、意外な僕の実力にはびっくりしたものだった。
「上手いな、やっぱ橋本は」
なんとか並走していた田中さんが滑り終えると僕に言った。
「田中さんも、早いですよ。ついてくのが大変」
僕のお世辞に、彼はんざらでもない様子でリフト待ちの並びの列の中に入っていった。
「さて、じゃあもう1周行って休憩するか。ここで頑張れば後でビールが美味くなるぞ」
田中さんと2周目を滑り終わってフードコートに入ると、最近付き合い始めた事を行きの新幹線の中で報告して、みんなを驚かせていた総務部で後輩の宇野と1歳年上の島野さんが席に座っていた。
「おい、あれ……」
田中さんが指を差して僕を横目で見た。
「宇野が席をとってくれてましたね」
「あいつら1周で終わらせて、もうラブラブモードに突入してんじゃないか」
今までは、それ程宇野にはきつい言葉を使わなかった田中さんだが、島野さんと付き合ってると報告してからは何となく当たりが強くなっている事に僕は内心可笑しく感じていた。そして、ラブラブモードなんていつの言葉だろうと思った。
そして、彼は苦々しい顔をしながら言葉を続けた。
「ところで座っていいのか? あれ」
「テーブル空いているからいいんじゃないですか?」
僕は平然とした様子で言った。
「鈍感だな、お前は本当に」と言いつつも「まっ、いいか。とりあえず座りたいからな」
そう言って、田中さんはスタスタと2人に向かって歩いていった。
「すずちゃん、ここ空いてる?」
田中さんは優しい口調で島野さんに訊いた。
「あっ、もちろんですよ。どうぞ」
島野さんは笑顔で空いている席に手を向けた。
「ありがとうね」
田中さんは、彼女に笑顔でお礼を言った後に、宇野を厳しい目つきで見ると「昼間っから仲の良いことで」と彼の耳元で言ってから席に座った。
「あそこは私には無理だー」
「右に逃げていくルートがあったよ」
田中さんが買ってきたビールを飲んでいると、しばらくしてみんなが口々に話しながら戻ってきた。
そして、少し遅めの昼食をみんなで食べた。田中さんはビールをさらに何本か買ってきたが、結局余ってしまったので、もったいないなと、独り言を言いながら自分で飲んでいた。
「田中さんくらいの年代の人ってさ、なんで何処でもビール飲まそうとするんだろうね。金岡課長もこないだの部内旅行の時そうだったよな」
隣にいた安田が、田中さんを見ながら小声で言った。
「確かにそうだったな。若いんだから飲めるだろ? とか言って、俺とお前だけやたら飲まされたな」
「そうそう、金岡課長なんて昼間っから禿げ頭真っ赤になるくらい飲んでたぜ」
「俺、あの後のぶどう狩りで、ぶどうの味全然分からなかったわ」
「俺も」
僕が安田と話していると、田中さんは酔いが回ったのかテーブルにうつ伏せになって寝てしまった。
それから、フードコートで食事をした後は、寝ている田中さんをそのまま置いてみんなはまた滑り始めた。
僕は今朝、加奈から聞いた幸恵の話をゆっくり考えたくて一人になれる場所へ向かった。