第4話 手紙と花
文字数 1,939文字
僕が、何となく幸恵のことを考えながらニュースを見ている間に、田中さんは宇野を監視するのを忘れてさっさと寝てしまった。そして、先ほどから宇野は島野さんとのメールのやり取りに夢中だ。
途中、安田からナイタースキーの誘いがあったが僕はそんな気分でもなく断った。
僕は幸恵の事を考えると、疲れている割に寝つきが悪くなってしまったので、ホテルの自販機で350ミリリットル缶のビールを買ってきて2本飲んだ。それでも眠れず、お土産で売っていたワインを買ってきてそれを飲んだ。
部屋中に響き渡る田中さんのいびきの声を聞きながら、今なら酒の相手を喜んでしてあげるのにタイミングの悪い人だな、と思った。
そして、僕はさっきロビーで安田から受け取った加奈の手紙を読むことにした。上着のポケットから取り出した封筒を開けると四つ折りにされたA4サイズの手紙が1枚ときれいに作られた押し花が入っていた。
(なんだろう? この赤い花)
僕は押し花をテーブルの上に置くと、手紙を読み始めた。
「今日は、ほんとに偶然でしたが、駅でお会いできて嬉しかったです。それで、今日駅で話したようにお姉ちゃんは数年前に亡くなっています。それについて、一度詳しく説明したいと思います。今回は会社の人たちもいると思うので、東京に戻られたら一度電話ください。私の携帯番号をここに書いておきます」
手紙を読み終わると、僕はこの手紙に幸恵の亡くなった原因が全く書かれていないことを不思議に思った。
(何か手紙に書けないような理由があるのだろうか……)
そんな事を考えながら、加奈の電話番号を確認すると僕のスマートフォンに彼女の番号が残っていた。おそらく東京に遊びに来た時にやり取りしたのだろう。そして、その下には幸恵の番号もそのまま残っている。彼女にふられたあの日、消そうとも思ったが結局未練がましく残してしまっていた。
そして、社会人になってからも、彼女からいつか電話があるんじゃないかと、しばらくの間期待して過ごしていた。
しかし、時間の経過と共にそういった期待もなくなり、最近では幸恵の番号が残っていることすら忘れていた。そして……、今では出る筈もない電話番号を残しておく意味はもう無くなってしまっている。
この時の僕は、別れた彼女である幸恵をただ不憫に思う感情しかなかった。
そして、僕は手紙と押し花を封筒に戻すと、加奈に電話をしてみようと思った。しかし、周りを見ると、もう部屋の二人は寝ていた。
僕はホテルの1階までエレベータで降りて、暗くなったロビーのソファーに座った。
ホテルのロビーは深夜で空調も弱めてあり、少し寒さを感じたので、この時僕は厚着をしてこなかったことを後悔した。
そして、通話ボタンを押そうとしたが、寒さで酔いが醒めて冷静に考えてみると、夜遅くに酔った状態で聞ける話でもないような気がした。
結局、近いうちにもう一度加奈に会いに来ようと思い、この時は電話をするのを止めて部屋に戻った。
翌日、僕は昨晩飲んだワインによる二日酔いか、またはロビーで体を冷やして風邪を引いてしまったのか、頭が少し痛かったが昼過ぎまでスキーをして、その後はバスで越後湯沢駅に向かった。
そして、構内のショッピングセンターで、上越新幹線の予定時間までお土産コーナーにいると、みんなは会社の所属部用にお土産を買っていた。
「新潟ってお土産何がいいの?」
「柿の種か笹だんごでいいんじゃないのかね」
吉宗さんは出張で新潟に来るので良く知っているようだ。
「へぎそばだろ!」
田中さんが言うと「──会社で食べれないでしょ」と、ここでも吉宗さんとのやり取りは続いている。
今回の旅行メンバーは40歳の田中さんが最年長、吉宗さんが35歳で、後は僕を含めて20代後半である。以前会社の労働組合活動のレクリエーション企画の立案グループで、一緒に活動をしてから親交が続いている。
平日もこのメンバーで仕事が終わると飲みに行くことがあるのだが、この田中さんと吉宗さんのやり取りはいつもの事だ。飲んでいる間のやり取りならばそれはそれで楽しいものだが、旅行中ずっとだと辛い(今回もそこが楽しくないところだった)
ただ、僕は田中さんも吉宗さんも別に嫌いではないし、二人には色々と世話にもなっている。
この時、設計部のお土産は安田が買ってくれていたので、僕は自分の物を探していた。そして、僕は自分が好きな野沢菜を買った。それを見ながら、僕が好物だからといって幸恵が帰省する度に買ってきてくれた事を思い出した。
結局、今回の旅行中、僕の心はどこか曇ったままで、新幹線の中ではトランプ遊びに興じる仲間達に交じることなく窓の外を眺めながら、僕は幸恵との事を思い出していた。
途中、安田からナイタースキーの誘いがあったが僕はそんな気分でもなく断った。
僕は幸恵の事を考えると、疲れている割に寝つきが悪くなってしまったので、ホテルの自販機で350ミリリットル缶のビールを買ってきて2本飲んだ。それでも眠れず、お土産で売っていたワインを買ってきてそれを飲んだ。
部屋中に響き渡る田中さんのいびきの声を聞きながら、今なら酒の相手を喜んでしてあげるのにタイミングの悪い人だな、と思った。
そして、僕はさっきロビーで安田から受け取った加奈の手紙を読むことにした。上着のポケットから取り出した封筒を開けると四つ折りにされたA4サイズの手紙が1枚ときれいに作られた押し花が入っていた。
(なんだろう? この赤い花)
僕は押し花をテーブルの上に置くと、手紙を読み始めた。
「今日は、ほんとに偶然でしたが、駅でお会いできて嬉しかったです。それで、今日駅で話したようにお姉ちゃんは数年前に亡くなっています。それについて、一度詳しく説明したいと思います。今回は会社の人たちもいると思うので、東京に戻られたら一度電話ください。私の携帯番号をここに書いておきます」
手紙を読み終わると、僕はこの手紙に幸恵の亡くなった原因が全く書かれていないことを不思議に思った。
(何か手紙に書けないような理由があるのだろうか……)
そんな事を考えながら、加奈の電話番号を確認すると僕のスマートフォンに彼女の番号が残っていた。おそらく東京に遊びに来た時にやり取りしたのだろう。そして、その下には幸恵の番号もそのまま残っている。彼女にふられたあの日、消そうとも思ったが結局未練がましく残してしまっていた。
そして、社会人になってからも、彼女からいつか電話があるんじゃないかと、しばらくの間期待して過ごしていた。
しかし、時間の経過と共にそういった期待もなくなり、最近では幸恵の番号が残っていることすら忘れていた。そして……、今では出る筈もない電話番号を残しておく意味はもう無くなってしまっている。
この時の僕は、別れた彼女である幸恵をただ不憫に思う感情しかなかった。
そして、僕は手紙と押し花を封筒に戻すと、加奈に電話をしてみようと思った。しかし、周りを見ると、もう部屋の二人は寝ていた。
僕はホテルの1階までエレベータで降りて、暗くなったロビーのソファーに座った。
ホテルのロビーは深夜で空調も弱めてあり、少し寒さを感じたので、この時僕は厚着をしてこなかったことを後悔した。
そして、通話ボタンを押そうとしたが、寒さで酔いが醒めて冷静に考えてみると、夜遅くに酔った状態で聞ける話でもないような気がした。
結局、近いうちにもう一度加奈に会いに来ようと思い、この時は電話をするのを止めて部屋に戻った。
翌日、僕は昨晩飲んだワインによる二日酔いか、またはロビーで体を冷やして風邪を引いてしまったのか、頭が少し痛かったが昼過ぎまでスキーをして、その後はバスで越後湯沢駅に向かった。
そして、構内のショッピングセンターで、上越新幹線の予定時間までお土産コーナーにいると、みんなは会社の所属部用にお土産を買っていた。
「新潟ってお土産何がいいの?」
「柿の種か笹だんごでいいんじゃないのかね」
吉宗さんは出張で新潟に来るので良く知っているようだ。
「へぎそばだろ!」
田中さんが言うと「──会社で食べれないでしょ」と、ここでも吉宗さんとのやり取りは続いている。
今回の旅行メンバーは40歳の田中さんが最年長、吉宗さんが35歳で、後は僕を含めて20代後半である。以前会社の労働組合活動のレクリエーション企画の立案グループで、一緒に活動をしてから親交が続いている。
平日もこのメンバーで仕事が終わると飲みに行くことがあるのだが、この田中さんと吉宗さんのやり取りはいつもの事だ。飲んでいる間のやり取りならばそれはそれで楽しいものだが、旅行中ずっとだと辛い(今回もそこが楽しくないところだった)
ただ、僕は田中さんも吉宗さんも別に嫌いではないし、二人には色々と世話にもなっている。
この時、設計部のお土産は安田が買ってくれていたので、僕は自分の物を探していた。そして、僕は自分が好きな野沢菜を買った。それを見ながら、僕が好物だからといって幸恵が帰省する度に買ってきてくれた事を思い出した。
結局、今回の旅行中、僕の心はどこか曇ったままで、新幹線の中ではトランプ遊びに興じる仲間達に交じることなく窓の外を眺めながら、僕は幸恵との事を思い出していた。