第19話 血が心を覆っても

文字数 2,411文字

 
 少年ルカを庇い、刃を交えた女。

 麗音愛(れおんぬ)は肌で相手の強さを感じた。
 紅夜(こうや)の側近として立っている以上、当然ではある。
 先に闘うべきか、後かはもう選べる立場ではない。

 ただ、できるだけ椿(つばき)のほうに強い敵はいかせたくない。

 刀を交わし合う左横から、呪怨の刀を切り込ませようとするが
 女は札を3枚取り出すと、その呪怨を破壊した。

「!!」

 ニヤリと女は笑みを浮かべる。

 麗音愛の隙をつくように大ぶりに刀を振るうと
 スレスレで交わした麗音愛の腹に左ポケットから取り出した小型の拳銃を撃った。

「ぐっ」

 腕と胸から血が飛び散った。

「うぉおおおお!」

 それでも構わず麗音愛は刀を女に突き刺すために走る。

 椿のもとにもすぐに、また敵がわらわらと現れるが
 先程は防戦一方だったのが嘘のように次々と倒し交戦していた。

「麗音愛っ」

 椿も麗音愛が気にかかる。

 自分の命を投げ出すような闘いは見てわかる。
 力はあっても、戦った事もない少年がこの死闘でできることは身を投げ出す事だ。

 麗音愛の攻撃は当たらず、また弾が腕に当たる。

 痛みなんて気にしていられない。

 一人でも多く、倒さなければ!!

「麗音愛っ!!!」

「! 椿!」

 いつの間にか随分と離されてしまった。
 麗音愛の事を気にかけた椿は、肉塊の化け物に足を取られる。

「!」

 麗音愛は女にできるだけの呪怨の攻撃をぶつけた。
 女の攻防で爆発のような衝撃が起きる。

「椿!」

「! こんな事で負けるかぁ!」

 薙刀を出現させると思い切り足元の化け物に突き刺し、その反動で飛び上がった。

「椿!」

「麗音愛っ」

 両手を広げ椿を抱きとめる。
 振動で傷が痛みはするが
 痛みが消えていくような……。

 椿の温かさが心に沁みていく。

「麗音愛……麗音愛でいることを忘れちゃ駄目!!
 あぁ……血が……」

 胸から迸る血を椿が手で抑える。

美子(よしこ)さんと一緒に帰るんだよ!! 命を投げ出して闘ったらダメ!!」

「……そうだよな……」

 ぐふっっと口からも血が流れた。
 そんな状態になっていると今気付いた。

「麗音愛」

「大丈夫」

 傷を抑えてくれた椿の手を、握る。

「うおおおおおおおおお!!」

 麗音愛が吠えると、黒い呪怨が2人を囲み麗音愛の身体を這う。

 晒首千ノ刀と共に闘うと、孤独の闇に襲われ
 心を切り刻まれ、いつの間にか正気を失いそうになった。

 でも椿の声を聴いて温もりに触れた時、痛みが消えた。

 生が、温もりが、希望がある。

「椿も一緒に、帰るんだ」

 ぐっとまた強く握られる手、もう血は流れ出ない。
 呪怨によって回復する時の激しい痛みも、温もりで軽くなる気がした。

「……うん!」

「傍で闘ってほしい、いいかな」

「もちろん!」

「椿は怪我は?」

「大丈夫!」

「よし!」

「麗音愛は麗音愛だよ」

「あぁ椿は椿だ」

 にっこり笑って椿の差し出した掌にパン! と返す。

 お互いの背を預けて、刀を構える。

 麗音愛の相手だった女の姿は見えない。
 傷を負って逃げたのか、深追いする必要はないので
 狂犬のように襲いかかってくる化け物を切り伏せる。

 化け物に襲われ恐れをなして逃げた奴等もいるようだ。

 酷い闘いだ。
 紅夜の余興で、こんな命を弄ばれその先に何がある。

「咲楽紫千か……」

「紅夜様、申し訳ございません……」

 戦況にコーディネーターも少し戸惑っていた。
 だが紅夜はニヤニヤと笑い、酒を飲む。

「ああいうのを絶望に落とすのもまた楽しい」

 コーディネーターを腹の上に座らせると胸をまさぐる。

「だがちょこちょこと動くコマを見て楽しむくらいしか楽しみがないなんて寂しいもんだ」

 椿の放つ爆炎があがる。

「似てるな……篝の炎に」

「紅夜様……」

「ここが終われば、老人共との会合だ。
 平和ボケしていた人間社会ををまた壊していく事を楽しむか……」

 そう言いながらも資料のようなものを紅夜は面白くもないように、そこらに放り投げる。

「はい紅夜様」

「そろそろ、つまらん余興は血祭りで終わらせろ。寵を俺のもとへ」

「はっ!」

「咲楽紫千の首を紅夜様の元へ! 寵様は保護しこちらへ!!」

 コーディネーターが高らかに叫ぶ。

 紅夜の直属か、スーツの男が刀を構え進んでくる。
 年齢は若いが殺気が凄まじい。

 敵は麗音愛と椿を離すべく、攻撃を展開してきている。
 肉塊の化け物達をうまく誘導し2人の距離を離していく。

 茶色で結んだ髪を揺らし、吠える虎が襲いかかってくるような気迫で切り込まれた。

咲楽紫千(さらしせん)ーーー!!」

 憎しみに満ちた瞳。

「お前はなんなんだ!!」

「俺は、俺は咲楽紫千の晒首千ノ刀の継承者だ!!
 お前らこそ、何故こんな事に加担する!?」

「お前の情報などなかった!」

 かなりの手練だ。力で押し負けそうになる。

「そうだ! 俺は昨日、継承したばかりだからな!」

「ふざけるなーーーー!!」

 麗音愛も呪怨を発動させる!!

 唸る呪怨も気にせず、その男は麗音愛の胴体を真っ二つにせんと
 刀を突き刺す。

「くっ」

 男を攻撃するのではなく攻防に呪怨を使い、一度飛び退くが男はまだ追ってくる。

「俺達は生まれ、ずっとこの日を待ち侘び生きてきた!!」

「そうかよ! 変態に洗脳されてきたか!!」

「紅夜様を愚弄するなぁ!!」

 よく見れば年齢もさほど変わらないように見える。この男や他の人間も
 一体どうやって紅夜の仲間になったんだろうか。
 そんな事を考える暇もなく、二度三度休む暇もなく連打で攻撃を受ける。

闘真(とうま)!!」

 さきほどの女が手榴弾のようなものを投げる。

 ピカッと光るが炎が上がるわけではない。

「麗音愛! これは聖水!!」

 離された椿が叫んだ。

「いいぞ! ヴィフォ!!」

 光にかき消された影のように、呪怨の発動が一瞬無になる。

「死ねぇ!!」

 キィン!

 闘真が斬り落としたと思った麗音愛の首はまだ繋がっていた。

「呪怨がなくてもっ……!! 闘える!!」

 弾き返した、麗音愛は闘真の間合いに踏み込み晒首千ノ刀で上から下へ落とし斬る!!
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登場人物紹介

咲楽紫千 麗音愛 (さらしせん れおんぬ)

17歳 男子高校生

派手な名前を嫌がり普段は「玲央」で名乗っている。

背も高い方だが人に認識されない忘れられやすい特徴をもつ。

しかし人のために尽くそうとする心優しい男子。

藤堂 美子(とうどう よしこ)

17歳 女子高生

図書部部長

黒髪ロングの映える和風美人

椿 (つばき)

後に麗音愛のバディ的な存在、親友になる少女。

過酷な運命を背負うが明るく健気。


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