第20話 血の先の無力…!

文字数 2,550文字

 
 呪怨が無くなった麗音愛を見た椿は
 サポートに回るべく、走り出すが

 チリーンと鈴の音が耳に響いた。

「なっ! これは……」

 黒いワンピースを着た少女が歩いてくる。

「束縛結界ですよ……寵様……抵抗なさらないでくださいまし……。
 わたくし、カリンと申します。寵様のお世話係でもありますので以後お見知り置きを……」

「抵抗するに決まってる!!」

「困った姫様だ、まったく」

 先程の少年ルカがまた椿の目の前に現れる。

 
「ぐっ、貴様ぁ」

 首を斬り落とす一瞬で、麗音愛は闘真の右腕を裂くに留めたのだった。

 できるだけ命はとりたくない、そう思ってしまう。

「情けをかけるつもりか!?」

「俺は、お前らとは違う!!」

 闘真は切られた腕など関係ないかのように、そのまま左手に持ち替えて
 片手で麗音愛に斬りかかる。

「なに!」

「こんな事で俺が引くと思うかよ! むしろ好都合」

 右手から流れ出た血が刃物のように形を造る。

 まるで麗音愛の呪怨のようだ。

「俺らはなぁ! 紅夜様に愛された特別な新人類なんだよ
 ぽっと出のクソガキはさっさと死ね!!」

 闘真の片手の攻撃を加勢するように血が腕から生えた数本のナイフになって麗音愛を狙う。

 その時、麗音愛も椿の様子に気が付いた。
 椿の様子がおかしい!
 さっきの少年と、何やら少女に囲まれ動けない様子だ。

「よそ見してんなよ!!」

 流石に隙が出て、血のナイフが麗音愛を襲い麗音愛も肩や腕から出血する。

「くそ! 椿!」


「ルカ、寵姫様を怒らせないでください」

「僕もお世話係だし、ねぇ姫様」

「私はお前らと馴れ合う気なんて一切ない」

 腕に力を込めるが、やはり動かない。
 だけど、まだ手はある。
 少し遠くで麗音愛の血が飛ぶのが見えた。

 近くにいるって約束したのに……!

 ここから脱出しても、このルカが隙きを与えずまた捕縛か攻撃してくるだろう。
 状況を冷静に判断しなければ。

「カリン、あいつが来る前に姫様を紅夜様の元へ」

 !! どうなっても、今しかない!!

 念で錫杖を具現させると、捕縛結界の中から結界を出現させる。

「あっ! なんてこと!」

「私、力は強いよ!」

 一気に強い力を込め捻ると、カリンの結界が中からバリーンと砕け散った。

「姫様!!」

 瞬時に走り逃げ出す!

「お待ちください!」

 すぐにカリンが椿に捕縛結界の術を放つ!

「カリン! あいつが来た!」

 ルカとカリンがいた場所がまるで黒い波が襲いさらうように呪怨に埋め尽くされる。

「きゃっ怖い!」

 カリンは捕縛結界を麗音愛に向けて発動させるが、同じように呪怨をねじ込み中から爆発させる。
 麗音愛はすぐに駆けつけたが、椿の姿が見えない。

「椿っ!?」

 ルカが瞬時に飛び、椿を無理やり鎖で縛り逃げたのだ。

「いやだ!! 離せ!」

「ヤバい奴からは逃げるが勝ちってね、姫様
 今なにか発動させると、あの女を守ってる結界が解けるよ?
 さっきの術は結構むちゃくちゃだったから。バランスが崩れてる、基本でしょ? 同時結界術の」

「!!」

「結界解けたら、あの女を即殺す、どうします?」

「卑怯者!」

「社会ってそういうものですよ、姫様は純粋で美しいね」

 麗音愛はルカを追おうとするが、それを追ってまた闘真が麗音愛を追ってくる。

「姫様に近づくな!」

 ルカとの間に闘真が斬りかかってくる。

 相当な力を使い続け、麗音愛の疲弊も相当なものだ。
 湧き上がる闇の力で、治癒したとしても精神力は喰われていく。

 刀を振るう度に激痛が走り、意識が朦朧とする。

 それでも、2人を守る!!
 その想いだけで立っている。
 自分を見失わないように、そう言われた約束も……

 麗音愛の呪怨がますます強くなり、侵食するように手から腕へと広がっていく。

「なんでこんなのが自称正義の味方の方にいんのー!? 明らかにダークネスじゃん!?
 闘真、もうそろそろ終わりにしないと!」

 遅れて出てきた女子は、同じスーツ姿だが年齢はやはり若い。
 ロープのようなものを繰り出し、麗音愛の左腕を捕らえる。

摩美(まみ)! お前は引っ込んでろ! こいつの首は俺が狩る!」

「2人とも邪魔だ」

 ぐらりっと視界が歪むような感覚、麗音愛の感情が溢れた事が視力によって目視できた。

「こいつやばっ」

 今までとは違う、生ぬるい手加減をする男のオーラではなく
 殺意、呪い、その塊

 闘真もその気に飲まれかける。
 そして麗音愛はもちろん椿をさらったルカを標的に動こうとしていた。

「闘真! 摩美! あのロングの女だ! あの女を攻撃しろ!!」

「!!」

 ヴィフォと呼ばれた女とルカ、カリンが合流し、椿がぐったりと担ぎ上げられている。
 何か術を施されたのか……

「寵様の結界は今、効力をなくした! あの女を捕まえろ!」

「!!」

 瞬間、椿を助けるべきか迷った。
 しかし意識は、なんの力ももたない幼馴染の方へ向く。

 ルカの誘導だったのか
 守れる範囲から離れてしまった!

 遠目から、ガクガクと震えて泣いている美子が見えた。

 美子の元へ駆けつける為に麗音愛は走り出す。

 しかし、椿への気遣いの時間がない闘真の方が数秒早く走り出していた。

 わかっているのか、麗音愛と美子を結ぶ線上に
 闘真は走り、呪怨の攻撃ができない。
 飛ばした攻撃が美子に当たる前に消す自信がなかった。


「わーお! 待ってよお兄さん!!」
「邪魔だ!!」


 摩美のロープを斬りつけたが、一度では切れなかった。
 すぐに呪怨も込めて切り捨てたが、また数秒の遅れ。

「やめろーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 肉塊の化け物達に足をとられる。
 それを振り払い、また数秒。

 そこにいる全てが麗音愛の敵だった。
 全ての力を持って切り払う。
 血しぶきが今まで以上に舞っていく。


 それでも、時を止める力は麗音愛にはない。


 闘真の刀が、麗音愛の血でもう既に濡れた刀が美子に向かって
 振り落とされた。

「わぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!
 やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 心臓が張り裂ける絶望が襲う。
 走り続けてもパクパクと口が開いて空気が肺に入ってこない。


 ババッ! と鮮血が舞う。
 脳の血管が切れたような目眩がする。


「美子ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

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登場人物紹介

咲楽紫千 麗音愛 (さらしせん れおんぬ)

17歳 男子高校生

派手な名前を嫌がり普段は「玲央」で名乗っている。

背も高い方だが人に認識されない忘れられやすい特徴をもつ。

しかし人のために尽くそうとする心優しい男子。

藤堂 美子(とうどう よしこ)

17歳 女子高生

図書部部長

黒髪ロングの映える和風美人

椿 (つばき)

後に麗音愛のバディ的な存在、親友になる少女。

過酷な運命を背負うが明るく健気。


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