第17話 魂の叫び!同化継承

文字数 3,291文字

 
 午前中に麗音愛(れおんぬ)と椿は剣での訓練や
 身体能力がどの程度上がっているのかの確認もした。

「そういや、椿は空飛べるの?」

「まさか」

「でも最初の攻撃、あそこ5階だぞ」

 こちらの5階は襲撃の跡もなく綺麗なままだ。

「あぁ、弓矢の付加能力みたいな感じで、縦には浮かべるの
 横移動はできないから、そこからは自分の脚力で校舎に入ったよ」

「なるほど……弓の能力なのか」

「うん、5階くらいまでは浮くことできるかな」

「うまく使えばいい攻撃ができそうだな
 錫杖は結界……錫杖はしまってても結界作れるんだよね?」

「うん、私が使役できる領域にあれば大丈夫みたい」

 シャリーンと錫杖を出してみせる椿。

「美子さんを守る結界を出しながらだと、守りか相手を封じるかの
 小さいのを1つ出せるかなってところ。闘う時はそれで美子さんを守るね」

「ありがとう」

「いいよ、美子(よしこ)さんが心配だったら上手に戦えないでしょ?」

「あ、うん、それはそうだ……うん」

 椿は相変わらず、変な胸の痛みに疑問をもっていた。
 どうしてだか胸が痛む時がある。

 血圧がおかしいのかと椿は深く息を吸い込み深呼吸した。
 
「薙刀は?」

「自分の筋力が少しアップするのと、少し毒もある」

「えっ毒もあるの? えげつないなぁ……」

「だから、それを麗音愛が言うかって話だよ」

「はは」

 そういえば、椿を毒のような症状で苦しめたのだった。
 昨日の出来事。

 笑って誤魔化す。

「人を毒にしておいて! えいえい!」
「いてて」

 錫杖で麗音愛が突かれていると
 体育館の出口から美子がゆっくりと歩いてくる。

 麗音愛が気付いて走り出したので椿も続く。

「2人ともどう? ごめんね休んでばかりで、飲み物持ってきたよ」

「何も気にしないで、無理するなよ」

「玲央……」

 駆け寄る麗音愛に、美子は寄り添うように腕を掴んだ。

「やっぱり1人も怖くなっちゃって……」

「あ……様子見に戻ればよかった、ごめん」

「ううん、いいの……」

「座る?」

「うん……」


 寄り添う2人を見ないように、邪魔をしないように
 椿は少し離れて歩き出し、弓を引く。

 矢は己の精神力で具現化させる。

 矢が刺さった後も具現化させたままでいることは相当の力が必要になるが
 椿にはそれができた。

 グラウンドの端にある木に命中させる。

「う……」

 でも本当は隣の木を狙ったのだった。

「うううう!!! おりゃーー!!!」

 よくわからないこのモヤモヤを打ち消したく、矢を連続で打つ。

「おおお!! すごい!!」

 何も気付かず麗音愛は拍手する。

「どや!」

「すごいな!」

 麗音愛は麗音愛で、急に美子に密着されてどうしていいかわからず
 とりあえずグラウンド脇のベンチに座らせ『椿すごいなー』と美子に話題を振った。

 美子の表情は硬い。

 なんとなくは理解していた。
 幼馴染を、家に帰る事を忘れないでほしいと美子は思っているんだと。

「美子、大丈夫だから」

「玲央」

 また手を握られる。

 座って手を繋ぐなんて、こんな近くに寄るなんて
 でもそれを今、はしゃいで喜ぶことはできない。

「絶対、家へ帰ろう」

 安心させるように強く握り返す。

「玲央……うん」

 それでも、不安げな美子。
 そうだろう、こんな状況は不安しかない。
 自分を見つめてくれた、その時がこんな状況で悲しくもある。

「訓練もう少ししてくるよ、何かあったらすぐ呼んで」

「うん」

 サッカー選手かのように軽く、グラウンドに走り出した。
 長い手足で加速して、すぐ椿のもとへ向かう。

 じゃれ合うかのようにお互いが剣を繰り出した。

 麗音愛の周りを黒い霧が覆うような時もあるが飲み込まれることはない。

 麗音愛の剣術もみるみる上達していく。
 剣道をやっていたおかげというよりは、
 何かを思い出していくような、剣豪でも取り憑いたようだ。

 美子は生徒手帳を取り出して、何かを綴った。

 ◇◇◇

「私はこう座るの」

「あぁ、座禅ね」

「これで自分の心の中でイメージするの」

 午後からは少しイメージトレーニングをすることとなった。

 椿の炎の操り方を聞けば、麗音愛の呪怨も操りやすくなるかもとの考えで
 試してみることにしたのだ。

 恐ろしくもあるが、試してみる価値はあるので決心した。

「あぁ……やってみる……」

 深く潜る必要もなく、いつも呪いの手はすぐそこにある。
 千以上、もっともっと亡者の魂が手を伸ばしてくる。
 真っ暗闇の怨念が自分の頭を四肢を喰らおうとしてくる。
 絶え間なく進行するイメージに息ができなくなりそうだ。


 暗闇に落ちていく。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 瞬間、瞬間で
 刺され、喰われ、飲み込まれ
 そんな感情が襲ってくる。

 何千、何万の死の瞬間の恐怖が襲ってくる。

 痛い……苦しい……辛い……狂いそうな恐怖感


 俺は……

 俺は……


 俺の魂を捧げても構わない


 ただ力が欲しい


 地獄に堕ちようと

 この魂が喰われても

 力が欲しい


 生贄にならなければ、救えないのなら
 それでもいい

 力が必要だ……


 不思議だった。
 これほど強く力を求める自分がいることに

 どうして、自分の命すら懸ける事ができるのか
 もう、亡者になりつつあるのかもしれない


 力を貸してくれ……


 麗音愛の頼みも願いも亡者には届かない
 引き裂くように四方から腕を伸ばし(かじり)りつく

 闇に飲み込もうとする


 強者も弱者もこの闇の波では全てが同じ

 ぶつぶつと呪いを吐いて爪を立て牙を向く

 混ざり合い、無限の地獄の力が噴き出し

 裂かれる痛みが襲う
 精神が切り刻まれる



 麗音愛は目を見開き叫んだ。



「力を貸す気がないのなら、

 お前らの力を

 俺に寄越せ!!!」


 右手の晒首千ノ刀で亡者達に命ずる。

 右手も左手も黒い血で染めたように黒く染まっていく……


「死んだ後の魂すら燃え尽きる、


 滅する、


 その時まで



 俺に従え亡者達よ……!!」








「玲央!?」

 椿と美子には、ただ座禅をして目を瞑っているようにしか見えなかったが
 突如として
 ぶわあああああああああっと下から吹き出た呪怨の黒い溶岩に麗音愛は飲み込まれる。

「きゃああああ」

 美子が恐怖で叫んだ一瞬に、晒首千ノ刀(さらしくびせんの)の一刀で呪怨を塵にした。

 立ち上がり刀を構える麗音愛の右手と左手は現実でも黒く染まっている。

 がくっと膝を落とす麗音愛。

「麗音愛!」

「ハァッハッハァハァッ」

 汗が吹き出し、寝転がる。

「大丈夫!? 玲央」

「ハァあぁ、ハァうんハァ」

「麗音愛……」

「うん……どんだけ時間……経っ……った?」

「3分くらい……少しだよ」

「ハァハァ……そんな短い……」

「何があったの?」

「うん……少しだけコツを掴んだかな……」

 ぐっと拳を握ると、晒首千ノ刀の刀身も
 黒の模様も麗音愛の右手に消えていった。

「玲央……」

 それはもう、麗音愛が晒首千ノ刀と同化した事を表している。

「椿さん、あなたのせいで玲央が……刀が……」

「これで少し強くなった……ありがとう椿……
 美子……心配すること、ない、大丈夫」

「玲央いいの……? こんな……」

「麗音愛……」

「俺が望んだことだよ」

 ふーっと息を吐いて、麗音愛は微笑んでみせた。


 ◇◇◇


 その後少し休んだ麗音愛は、もう剣の練習はやめておこうと椿に告げ
 闘いまでの時間は思い思いの時間を過ごそうということになった。

 美子は何やら手紙を書いている。

 椿はボロボロ布を直そうと針と糸を使ってみたが
 よくわからず、そのままくるまって寝た。

 麗音愛は美子に一言言って、校舎の中を歩く。
 図書館を見て屋上に向かう。
 昨日の夕方まで、何も考えず楽しく過ごしていた場所。

 屋上に、昨日の花火の残骸が残ってる。
 椿の笑顔を思い出す。

 紅い空を睨んだ。

 少し力を込めて飛ぶと
 屋上のフェンスに乗り上げた。

 細いフェンスの上にバランス良く立つことができる。
 もう昨日までの身体ではないのだ。

 紅い空の下
 いつもの町並みが見えた。
 でもこれはイミテーション。紅夜の世界。

 ここから脱出して元の世界に帰る。

 負けるわけにはいかない。

 右手に晒首千ノ刀を出現させ
 6階の屋上から飛び降りた。

 黒い呪怨をまとってドンと降り立つ。

 もう戻れない。あとは、ただ約束を果たすだけ。


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登場人物紹介

咲楽紫千 麗音愛 (さらしせん れおんぬ)

17歳 男子高校生

派手な名前を嫌がり普段は「玲央」で名乗っている。

背も高い方だが人に認識されない忘れられやすい特徴をもつ。

しかし人のために尽くそうとする心優しい男子。

藤堂 美子(とうどう よしこ)

17歳 女子高生

図書部部長

黒髪ロングの映える和風美人

椿 (つばき)

後に麗音愛のバディ的な存在、親友になる少女。

過酷な運命を背負うが明るく健気。


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