第13話 幼馴染の目覚め

文字数 2,982文字

 
 椿から美子(よしこ)が目覚めた話を聞いて
 即座に走り出す麗音愛(れおんぬ)


「美子!!」

「玲央!! どうなっているの!?」

 保健室では目覚めた美子が半狂乱になっていた。

「助かったの!? 私達どうなったの!? ここは学校!?」

「落ち着いて! 1人にさせてごめん」

「どうなってるの!?」

 麗音愛に掴みかかりそうになる美子。

「お、落ち着いて!」

 間に入った椿だが、パン! と美子に平手を食らってしまう。

「誰!? あなた、あの時の!? 誰なの!!」

「美子!」

「もういや!! 家に帰りたい!!」

 麗音愛にすがりつく美子。
 椿の頬と心臓がズキンと痛む。

「大丈夫、大丈夫、絶対に帰れるから」

 呪文のように美子の肩を抱きしめて繰り返す麗音愛。
 その場を離れようと椿は保健室を出た。
 暗い廊下で2人のかすかに2人のやりとりが聞こえてくる……。

 椿のこと、紅夜(こうや)のことを話しているようだ……。
 体育座りをしながら自分のことを抱きしめるように縮こまる。
 椿が落ち着く格好だ。

「椿」

 しばらく経つと、麗音愛に呼ばれた。

「……」

「……巻き込んでしまって、ご、ごめんなさい」
 重い沈黙のなか椿が頭を下げる。

「許せないよ」

 ベッドに腰掛けた美子は、椿を見ないままそう言った。
 当然のことだと思う。

 一般人だと思わなかったと言っても、ただの言い訳。
 その前にされた仕打ちがあっても、焦っていたとしても、美子には関係ないことだった。

「椿自身も被害者なんだよ……。
 俺の咲楽紫千の家の問題もあって、世界が関わってる。
 椿だけの問題じゃないんだ。
 だから椿だけを責めないでほしい……。
 というのは俺の勝手な言い分だけど……。
 ごめん美子
 絶対に美子は元の世界に帰してみせる!」

「殺されかけたのに庇うの? あの時死んでいたかもしれないんだよ!?
 この人に殺されて! 殺人をしようとした人だよ!? この人」

「人殺しが目的じゃない」

「あれだけやられたのに?」

「俺のこの刀も強力だから椿も手抜きはできなかったんだよ。
 でも美子に怖い思いをさせてごめん……」

「れ、麗音愛……」

「麗音愛って呼ばないで!!」

 ビクッとする椿。

「美子、俺が頼んだんだよ。明日を迎えるなら家族の付けてくれた名前で戦いたいって」

「……死ぬ気なの?」

「……いや、元の世界に帰るために頑張るつもりだよ」

 明日、紅夜の部下達と戦う事情は話してある。
 美子は椿を睨む。

「あなた、勝てるの……?」

「わからないけど……麗音愛とあなたのことは絶対に元の世界へ帰せるようにしたいと思う」

「3人で帰る努力をしよう」

「この人が裏切るってことはないの?」

「椿が裏切るって?」

「あんな攻撃してきて、味方になりましたーって信じられるの?
 見た目は可愛い女の子だからって玲央は優しいから騙されているってことはないの?
 その紅夜の仲間なんじゃないの!?」

「えっ私が紅夜の」

 椿は動揺した。
 でも美子の言う通りだ。
 武器を奪おうと追いかけ回したのは本当の事で、麗音愛は優し過ぎてお人好し。
 そう思われても無理はない。

 でも紅夜の仲間だと言われるとは――。

「ないよ」

「玲央!」

「確かに俺は、人生経験も少ない子供だけど
 でも、信じるか信じないか女の子だからとかそんな事で決めない。
 美子の命がかかってる場面で……そんなふざけた判断はしないよ」

「玲央……」

「椿も、俺達の常識を越えたところで生きてきてギリギリの極限での行動だった。
 それでも自分を犠牲にして、紅夜を倒そうとした結果だったんだよ。
 言ってるだけじゃわかんないと思うけど俺は一緒に戦ったし、あの時の叫びは嘘じゃない!
 話をしていたらきっとわかるから! 信じられるよ」

「麗音愛……」

「椿が紅夜の仲間だなんて絶対にありえない!」

 真剣な眼差しで美子を見つめる麗音愛。
 優しい麗音愛がこんな風に主張する事など滅多になかった。

「……わかったわ、玲央がそこまで言うなら私も……。
 助かるためだけに協力するわ。間違ってもここで死ぬにはいや」

「美子!! ありがとう」

「自分と玲央のためだよ
 私は藤堂美子です、短い間だと思うけどよろしく」

 さっと出された右手

「? あ、えっと私は椿。よろしくお願いします」

 握手ってわからないかな?と思ったが椿は両手で美子の手を握った。

「ひとつ、命を懸けてという面で
 私は私と玲央の2人が帰れること、解放されることを第一に行動したいと思います
 あなたのためには命は懸けられない」

「美子そんな言い方」

「……いいの、麗音愛。はっきり言ってもらえて良かった。
 うん、私は、あなたと麗音愛を解放する事に命を懸けていいと思ってる」

 そんなことを言う椿から美子は目を逸し、返事もしなかった。

「椿も一緒に帰るんだよ」

「うん……ありがとう」

 美子は腕時計を見る。午前0時18分。

「まだ夢のなかなんじゃないかと思える。
 でも夢じゃないのなら、私も抗いたい」

「うん、俺もだよ」

「2人の戦える、できることを知りたい
 あなた達の戦力をお互いでも把握しておかないといけないんじゃない?
 作戦をたてないと……」

「うん」

「今まで2人でどのくらい作戦を練ったの?」

「まだ……」

「ふぅん? 何してたの?」

 棘のある言い方に焦ってしまう。

「いや……」

「椿さん、購買部に女子の制服の替えがあるのを知っているの。
 あと学校前の薬局に下着が売っていたから取りに行きましょう
 他にも色々必要だわ」

「はい……」

 ◇◇◇

 薬局に行くのは、2人にするのも不安なので
 結局3人で行くことにした。
 紅い夜に開店する誰もいない薬局。

 下着うんぬんは2人に任せて
 店を歩く。

 商品はそのまま、何も変わらないようだ。

「支払いしないなんて、気持ち的に落ち着かないけど……」

 痛み止めや包帯、消毒液などを一応、とカゴに入れる。
 密かに飲んでいたプロテインにも目が留まった。

 ほんの少し1人になったら
 もう戻れない現実が、胸を突く。

 普通の高校生で、プロテイン飲んで密かに筋トレして
 友達と学校帰りにジュース買って飲んで笑って話して
 たまに遊びに行ったりファミレス行ったり、図書部の手伝いして
 大学目指して塾に行って勉強して……。
 家族で笑い過ごす日々……。

 じわり、じわりと
 後ろから近づいてくる
 足元から黒い呪怨の無数の手が伸びてくる
 呪いたいのか殺したいのか呪い殺したいのか――。

 朽ちた生首達が、叫び呼ぶ。

 のろのろと腐り落ちる手を伸ばし伸ばし汚い牙を向ける……。

「……」

『ドン!』と踏み潰すように床に足を置く。


「玲央! 今の音は!?」

「ごめん! 大丈夫」

 床はただの床に戻った。

 下着を買いに、と言っていたので遠巻きに2人を見る。
 美子のあんな姿を見るのは初めてだったので、心配だ。

「え? それ子ども用じゃない?
 明日の戦闘中に痛くなったら困るよ」

「ぎゅってしてたほうが好きで……」

「サラシじゃないんだから!」

 自分の名前を呼ばれたのかとドキっとする。

「胸潰れちゃうよ?」

「えっ……でも……そんな……あの……」

「B……A……う~ん……両方買っておこう」

「美子さんは何なの?」

「私はDだけど」

「ほー」

 一応は普通に会話しているようだが
 会話の内容が……。
 バレたら怒られそうなのでソッと離れる。

「B、A、D……」

 ふぅーっと息を吐いて
 ストレス減少チョコレートもカゴに入れた。



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登場人物紹介

咲楽紫千 麗音愛 (さらしせん れおんぬ)

17歳 男子高校生

派手な名前を嫌がり普段は「玲央」で名乗っている。

背も高い方だが人に認識されない忘れられやすい特徴をもつ。

しかし人のために尽くそうとする心優しい男子。

藤堂 美子(とうどう よしこ)

17歳 女子高生

図書部部長

黒髪ロングの映える和風美人

椿 (つばき)

後に麗音愛のバディ的な存在、親友になる少女。

過酷な運命を背負うが明るく健気。


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