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文字数 1,972文字
「ギシャアアアア!」とけたたましい声を上げ、機獣大蛇は倒れた。
激闘の末、ユーコが機獣大蛇の3つ目の核を破壊したのだ。
肩で息をするユーコの元に、ルカ達が駆け寄ってくる。
「さ、流石です! ユーコさん!」
ユーコが弱々しいブイサインをルカ達へ向けた――その時だった。
ユーコはえも言えぬ
「ユーコさん?」
その次には、ユーコは駆け出していた。
「ユーコさーん!?」
戸惑うルカ達の声が後ろから聞こえる。
それでもユーコは駆けた。屋敷を目指し、ひたすらに走った。
やがてユーコは屋敷の扉の前に立ち戻り、そのまま中へ入ると、奥の大部屋を目指した。ユーコは「はあっはあっ」と息を切らしながら、ついに壊れた扉の前に辿り着く。
ユーコが中を覗き見ると――
それはちょうど、ジルバの体とピュレトスの体が、交差する瞬間だった。
ジルバの折れた刀がピュレトスの首へと迫り――ピュレトスの首を斬り飛ばした。
ゴトリと落ちる、ピュレトスの頭。
――だが。落ちたピュレトスの顔は、不気味に笑っていた。
次の瞬間、ジルバの体が爆発するように燃え上がる。見ると首の取れたピュレトスの体から伸びる右手が、ジルバの体に触れていた。
ジルバの義足もバキンと砕け散り、ジルバは大きく吐血した後、力なく倒れた。
ユーコは目を開き、急いでジルバの元へ駆け寄った。
ピュレトスの体の切断面からは、細長い機械のコードが何本も伸び、床に落ちた頭の切断面へ絡み付いていた。首と胴が、すでに繋がろうとしているのだ。胴の胸元から、ピュレトスの核が怪しい輝きを放っている。ピュレトスは、ケタケタと笑い声を上げていた。
ユーコはジルバを抱きかかえ、ピュレトスには目もくれず、屋敷を抜け出した。
ユーコは町の広場へと全力で駆けた。
広場にはまだ、ルカ達3人とシェリーがいた。
ユーコは必死の形相で、助けを求めるように、彼らにジルバの体を見せる。
「こ、これは……」
4人は思わず息を呑んだ。
ジルバの全身は黒く焼け焦げ、あちこちからドス黒い血が溢れ出ている。
「だ、駄目だ……とても手の施しようがない状態です」
ルカが声を震わせる。「おそらく内臓全てが……焼け焦げてるかと……」
ユーコはキッとルカを睨みつけると、再びジルバを抱きかかえこの場を離れようとする。
「ユーコちゃんッ!」
見かねたシェリーが声を張り上げる。「もう、ジルバさんは……!」
ユーコの体が止まる。ユーコの腕から、弱々しい、ジルバの声が聞こえる。
「自分の体のことは……分かる。俺は、もう……死ぬ。目も、もう……ほとんど見えない」
ユーコの体が、小刻みに震え始める。
やがてユーコの目から大粒の涙が溢れ、ユーコは崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
ジルバの体に、ぽたぽたとユーコの涙が落ちる。ユーコは呻き声を上げ、そして、ぐちゃぐちゃに泣きじゃくり始めた。
(ああ……泣くな、ユーコ。……だが――)
「ありがとう……おれの、ために……ないて、くれて」
ジルバは掠れる声でそう言った。ユーコはハッと、ジルバの顔を見た。
(すまん、ユーコ。もっと色々教えてやりたかった。もっと――)
「おまえと……いた、かった……」
ユーコの涙は止まらない。だが声を上げるのを止め、ユーコは必死にジルバの言葉を聞き取ろうとする。
「すくわれて……いた、のは……おれのほう、だった……」
(俺の復讐に付き合わせて、すまなかった。これからは――)
「じゆうに……いき、ろ」
(お前はもう俺がいなくても大丈夫だ。沢山の人と出会い、沢山笑え。だからユーコ――)
「おまえ、は……しぬな。さっさと……ここから、にげ……」
ユーコはジルバの言葉に……小さくかぶりを振った。
ユーコはそっとジルバを地面に置く。それから震える両手で、光の剣を握りしめた。
ユーコの呼吸が、「はっ、はっ、はっ」と短くなる。しかしユーコの両眼が、段々と決意に満ちたものとなる。そして――
ユーコはジルバの胸の中心部に、
「なっ……!」
ジルバは驚いた。だがすぐに、フッと小さく笑う。ジルバの胸から、優しい光が溢れ出る。
「そう、か……
(俺はこのために、生き残ったんだな。やはり……何もかも、無駄じゃあなかった)
ジルバの体全体が、優しい光に包まれる。
するとユーコの握る光剣の光が強くなり、剣の形状が変化していく。段々と、剣の大きさが増していく。
『魂力100%オーバー。レベル2。形状――
剣の中から機械音声のような声が聞こえた。最期にジルバは、うっすらと笑う。
(馬鹿……ユーコ。……だが、だったら勝て。必ずあいつに――)
「かって、くれ……ユーコ……いとしい……むす、め」