文字数 2,142文字

 彼女達がバカラの町へ戻り、数日が経った。
 ユーコとリルの2人は、この数日間でマルタに勧められた町の施設を全て回り、調査に必要な知識や物資を集めた。
 2人は再び、元帝国領の地へ足をつける。
 
「さあ! まずは短期探索から! 出発よ!」

 ユーコとリルの背負うリュックは、今度はパンパンだった。ユーコとリル、2人の本当の冒険が始まった――


「――すごいすごい! 高い! すっごく高いわ!」

 そこは元帝国領の南東部。廃墟となりながら、未だ高層を保つ鉄の建造物を見上げ、思わずリルは叫んでいた。
 興奮するリルの隣で、ユーコもまた興味深そうに鉄の建造物を触っていた。ユーコがペタペタと触っていると、勢い余り、ユーコはベキッとその一部を破壊する。ユーコの顔に、『しまった!』という表情が浮かぶ。
 
「ゆ、ユーコ!」

 リルはそれを見て固まっていた。だが何かを考えている風でもあった。やがて、

「まあせっかくだし……もらっていきましょうか」

 そう言って、リルはいそいそと破壊された機械片を回収する。
 そんなリルを見て、ユーコは小さく頷いたかと思うと、再び建物を破壊すべく剣を構えた。
 
 「いや、違う。ユーコ、それは違うわ」
 
 リルはそっと、ユーコを制した。
 
 
「――すごいすごい! すっごく大人しい! こんなに静かな機獣がいるなんて!」

 そこは帝国領の北北東部。廃墟の町にじっと佇む機獣兵達を見て、思わずリルは声を上げていた。
 
「この子達は、争いを好まん」
 
 機獣兵達の隣に座る、よぼよぼとした老夫が言った。
 ここは、爪弾きにされた者達が集まる拠り所の場だと、老夫はユーコとリルに語った。
 機獣大戦で帰る家を失くした孤児達。
 なぜか人を襲わなくなった機獣兵達。
 そして世を捨てた老夫――。
 彼らは身を寄せ合いこの廃墟の町で生活しているのだ。
 ユーコとリルは老夫の隣に座る、3つ首の大型機獣兵を興味深そうに眺めていた。
 更にその後も、2人は機獣兵にまつわる珍しい話を、老父から沢山聞いた。
 その話の合間合間で、2人は幼い子供達とも沢山遊んだ。そして、機獣兵とも。
 幾ら老父が襲わないとは言っているものの、初めは機獣兵に警戒していたユーコとリルだったが、子供達が屈託のない笑顔で機獣兵と接している姿を見て、ついにユーコ達も彼らに心を許したのだった。
 老父達と数日生活を共にした、その帰り際。
 リルは、「面白い話を聞かせてくれたお礼よ」と言って、手持ちの食料の半分を老夫達に差し出した。ユーコは明らかにショックを受けていたが、やがて決心したように頷き、食料達と別れを告げた。
 老夫は笑い、頭を下げ、

「また……縁があれば」

 と、穏やかな声で言った。
 
 
「――ユーコ。好きよ。大好きよ」

 リルが旅の中で、ユーコへの好意を言葉にした回数は、もはや数え切れない。
 アサドらを失ったことが要因なのか、リルはユーコへ、極めて直情的に愛を伝えるようになっていた。
 そしてそれは言葉だけでなく、行動にも現れていた。
 これは、元国領を目指し始めた頃からの話であるが、リルは夜、必ずユーコを抱きしめてから眠っていた。その行為は、バカラの宿や元帝国領の地で野営する時も変わらず行われていた。
 初めはされるがままだったユーコも、いつしかリルを抱きしめ返すようになっていた。
 初めてユーコに抱きしめ返された時、リルは顔を綻ばせ、
「ギュッとすると……愛情が伝わるでしょ?」と、囁くように呟いていた。
 
 
 ユーコとリル、2人は1~2ヶ月ごとにバカラの町へ戻っていた。
 町へ戻ると、2人は様々な調査隊の人々と交流した。マルタ達とも町で会えば必ず互いの成果を語り合った。
 また、リルは町の研究施設を借り、発見した機械技術の研究を行いながら、新たな機械具の発明も行っていた。
 失敗作も多かったが、中には高精度スコープの付いた機械弓や、機獣兵の動きを阻害する金属の矢、機獣兵を感知するゴーグル、といった素晴らしい発明品も存在し、彼女の装備を潤した。
 バカラの町での機械技術の研究・開発、人々との交流が終わると、ユーコとリルは再び元帝国領へ挑んだ。
 そして探索を終えると、再びバカラの町へ帰還する。
 探索、帰還、交流、研究・開発。探索、帰還、交流、研究・開発――
 このサイクルが幾度となく続いていき、
 
「――一度、自由国へ帰ることにしたよ」

 マルタがユーコとリルにそう言った。
 ユーコとリルがバカラの町にやってきて、実に3年弱の月日が流れていた。
 リルは髪を伸ばし、金髪のセミロングになっている。八重歯はそのままに、顔つきは大人び始め、少女から大人の女性へと変化を見せていた。
 対照的にユーコの見た目はほとんど何も変わっていなかったが、リルはそのことには特に気にする様子もなかった。
 
「君達が自由国へやってきたら是非案内するよ」
 
 そう言い残し、マルタの調査隊はバカラの町を去っていった。
 ユーコとリルも、次が最後の探索だと考えていた。
 勿論、元帝国領を全て回れた訳ではない。だがリルは、ここで培われた機械技術の知識を使って、自由国で研究がしたいと、そう考えるようになっていたのだ。
 ユーコとリルは最後の探索へ赴き――その2ヶ月後、バカラの町を後にした。
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