文字数 1,532文字

「……?」

 ユーコの目が覚める。そこは誰かの家のようだったが、部屋には誰もいなかった。
 ユーコは外へ出ると、家の前にルカ達3人がいた。しかし、ジルバの姿はどこにもない。
 ユーコがキョロキョロと辺りを伺っていると、見かねたルカが口を開いた。
 
「あのジルバっておっさんなら、もうここにはいない。今頃はフラウ様の屋敷さ」

 ルカは薄っすらと見える北の屋敷を指す。それからジョズが西の道を指した。
 
「町の門はあの通りをずっと歩いていった所だ。……さっさとどこにでも行け。消えろ」

 ユーコは小さく首を傾げたあと、彼らにペコリと頭を下げ、ルカが指したフラウの屋敷の方向へと歩いていった。
 不思議そうにそれを見やるルカ達だったが、やがて何かに気付き、ユーコへ駆け寄った。
 
「ちょ、ちょっと待て! まさかフラウ様の屋敷へ行くつもりか!?」

 コクリと頷くユーコ。ルカ達の顔がひきつった。ルカとジョズが声を上げる。
 
「分かってないようだな! お前のためにおっさんもシェリーも犠牲になったんだよ!」
「だから行くな! お前はこのまま町から出ていけ!」

 ユーコは小さく首を傾げた。しばしの沈黙のあと、やはりユーコはルカ達にペコリと頭を下げると、再び屋敷へと歩き出した。
 
「こいつ、理解してないのか……!? シェリーの話は聞いたんだよな……?」

 ジョズは歩くユーコの肩を掴み、ユーコの目を見据えて言い放つ。

「2人にはもう会えないんだよ! いい加減分かれよ!」

『ガーン』と、目に見えて大きなショックを受けるユーコ。
 やがてユーコは涙目になりながら、ジョズの肩を掴み返し、ぶんぶんと激しく揺すった。ユーコを止めようとルカが声を上げる。
 
「や、やめろって! そんなことしたって、フラウ様がいなくなる訳じゃないんだ!」

 その言葉を聞いたユーコはピタリと止まる。
 次いで腰に差している短剣を抜いたかと思うと、その短剣を、薄っすらと見える北の屋敷へ鋭く向けた。そして自身の胸を、ドンと叩いた。

「……は、はあ? まさかとは思うがお前……フラウ様を、倒そうっていうのか?」

 ルカの問いかけに、ユーコはこっくりと頷いた。
 
「アホかあ! 死ににいくようなもんだ!」

 ルカは声を荒げた。「お前は剣に自信があるのかもしれないが、亜神ってのは剣の1本でどうにかできる相手じゃないんだよ! あの……アンヌ姉さんだって……!」

 ルカは拳を握った。ジョズとエスタも悔しそうな表情をしている。
 しかしユーコは激しくかぶりを振った。それから再び、自身の胸を大きく叩く。ユーコの両眼は、涙で潤んでいた。
 
「そ、そんなに……あのおっさんに会いたいのか?」

 ユーコは力強く頷いた。
 しばしの沈黙があった。
 やがて、エスタが声を漏らした。
 
「ぼ、僕だって……シェリーにもう一度、会いたいよ」

 エスタの言葉を反芻するように、「俺だって、もう一度……!」と、ジョズが言った。
 
 ――馬鹿ガキども。そんなにシェリーが好きか?
 
 ルカは不意に――十年以上前、まだ帝国との大戦が始まる前の――幼き日の記憶を思い出した。
 幼いシェリーに寄り添うルカ達3人に、アンヌは言った。
 
『だったら、何があってもシェリーを守ってやれ。その時お前らにできることを、全力でやってな。お前らは全員馬鹿なガキだが……まあ3人一緒なら、なんとかなるかもな』

 アンヌの笑顔が消え――ルカの意識が現実の世界へ戻ってくる。
 ルカは震える拳を、自身の腿へ叩きつけた。

「今まで……シェリーを守るために、外の人々を犠牲にしていたんだよな」

 ルカは再び、拳を腿に打ちつける。

「シェリー渡して、何やってんだよ……!」

 顔を伏せるルカ達3人に、ユーコは三度自身の胸を、ドンと勇ましく叩いた。
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