文字数 1,320文字


「う、ん……?」

 ジルバが目を覚ますと、そこは最低限の身動きしかとれないような、狭い空間だった。
 目の前には鉄格子が見え、ジルバはここが簡易的な檻の中だということに気付いた。
 辺りは暗い。更に両手は縄で縛られ、周りに長刀もない。
 隣には、自身と同じく縛られた状態のユーコが倒れていた。
 
「ユーコ!」

 ジルバが咄嗟にユーコの顔を覗き込むと――ユーコはぐーぐーと、心地よさそうな寝息を立てていることが分かった。
 
「こいつ……良い顔で寝てやがる……」

 ジルバは呆れたように呟き、続いて大きく息を吐き出した。

「だが流石に……ちっと油断し過ぎたな」
「――目覚めましたか」

 檻の外にはルカとジョズが座っていた。ジルバは2人に声を上げる。
 
「おいおい君達。ここが今夜の宿ってのは、随分なんじゃないのか?」
「……あなた達を、フラウ様の生贄(・・)にします。悪く思わないでください」

 ルカはジルバの顔を見ないで言った。ややあって、ジルバはふっと小さく笑う。
 
「なーるほどな。そういうことか」
「……」
「亜神に町を守ってもらう対価として、自分らでなく他所の旅人様に魂を差し出してもらおうと。そんで君達は、その贄となる人間を探す――さしずめ旅人探索隊だったって訳か」

 ジルバはニヤリと笑う。「まあそれで、機獣に襲われてたら世話ねえけどな」

「……説明が省けて助かりましたよ」

 今度はちゃんとジルバの顔を見て、ルカは言った。ジルバは彼の目をじっと見つめ、言葉を返した。

「ま、今の世の中そんなんばっかだ。君達が納得してるなら、それで良いんじゃないか?」

 薄く笑うジルバに、思わずルカは目を離した。ルカに代わってジョズが声を上げる。

「使いがやってくるのは明朝だ。……もうあんたと話すこともない」



 数時間が経った。夜もすっかり更けている。
 外の見張りはエスタとシェリーに代わっていたが、エスタは椅子に座ったまま、ウトウトと眠っているようだった。
 それとは対照的に、ユーコはすっかり目を覚ましていた。
 両腕を縛られたまま、不服そうな顔でガシャガシャと檻を揺らす。ジルバは特に気にした様子もなくじっと座っていた。
 やがてシェリーが立ち上がり、難しい顔をしながら檻に近づいてくる。
 ユーコは檻を鳴らすのを止め、眼前の彼女へ懇願するように、うるうると目を向けた。
 
「おいおいユーコ……そんなしおらしくしても――」

 ジルバがそれを言い終えるよりも先に、シェリーは檻の鍵を開け、扉を開いた。
 
「は?」

 更にシェリーはユーコの縄も解く。驚きの表情でそれを見やるジルバだったが、彼は何かを決心したように頷き、それから自身も、うるうるした目をシェリーに見せた。
 
「……ジルバさん。ふざけているなら置いて行きますよ」

 ジルバはスッと真面目な顔に戻ると、頭を下げた。シェリーは素早くジルバの縄も解く。
 
「お2人の荷物は表に隠してあります。私が預かっていましたので」

 ユーコは素早く檻から出たが、ジルバはシェリーの真意が図り切れず、じっと彼女の顔を見つめていた。シェリーが小さな声で言った。
 
「あなたも早く。エスタが起きてしまいます」

 ジルバは訝しげながらも頷き、シェリーを先頭に、2人は静かに走り出した。
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