5
文字数 3,207文字
「……正体を現したな、クソ亜神が」
ユウコはガイアの3本腕から素早く闇剣を引き抜き、再びガイアへ鋭く突いた。
ガイアは後方へ大きく跳んでそれを避け、後ろに群がる人だかりの中へと着地する。
「え? は? え? ガイア、ちゃん……?」
村人達はガイアを縋るような目で見ながら、声を漏らした。ガイアは村人達へ笑顔を向ける。
「あ、そのまま動かないでね~。狙い、ズレちゃうからさ」
鮮血が滴り落ちるガイアの5本の腕が、うねうねと動いた。
「うわああああああ!!」
ようやく状況を理解した村人達は、顔面を蒼白させ、蜘蛛の子を散らすように広場から逃げ出した。
「あ~らら。まあどのみち、一度に摂取できる量は限られてるしね」
ガイアは舌なめずりをする。「あとで美味しく頂くとしようか」
「やはり、人魂が目的だったか」
ユウコは吐き捨てるように言った。ガイアは小さく笑う。
「少し違うね。ボクは魂の質 を高めていたんだよ。魂の変化によって味やエネルギーの増減が変化することは知っていたけど、ボクは更にその先を知ったんだ」
ガイアは自身の画策を語り出す。
ガイアが村へ流れ着き、間もない頃。ガイアは村人達を襲い、手っ取り早く体を回復させることも可能であった。だがその派手な行動によって、英傑クラスの人間に目を付けられでもしたら厄介だった。
故にガイアは、時間は掛かるが人間の食料を摂取することで機体の回復を待った。自身が無害な存在であることを村人に装って。
それから1年、ある程度ガイアの体が回復した頃。
ガイアはどうしても人魂への食欲が抑えきれなくなり、魔力で作った分身体を村において、自身に懐いていた子供を森へ招いた。そしてその子供の魂を、喰らった。
……しかし、その時だった。
「ボクは驚愕した。その魂の濃厚な味わいと、生み出される魂力の大きさに! それは今までにない素晴らしいエネルギーだった。そこでボクは、1つの考えに至った。人間と仲良くなればなるほど魂の関係が密接になり、それが多大な魂力を生み出す要因になるのではないかとね」
ガイアは両手を広げる。「ボクはもっともっと人間の魂を熟成させてみたくなった! それからボクは、人間に愛を向けてみようと考えたんだ。……でもね」
ガイアは残念そうに、ため息を漏らす。
「どうしても〝対等〟の愛を注ぐのは無理だったよ。一応頑張ってはみたんだよ? でも無理だった。だってさ、君はできる? 自分よりも遥かに劣る家畜同然の下等生物に、対等な愛を注ぐことが」
ガイアは酷く冷たい声でそう言った。それから不意に、「ああ」と呟き、続けた。
「去年のガキはね、味見だよ。1年でどれくらい味がよくなっているのか試してみたんだ。その結果はね……実に美味。美味しかったなぁ。まあ今の5人も、それ以上に美味しくなっていたけどね」
ガイアは大きくゲップをする。それはとても不快な音だった。ガイアはニヤリと笑う。
「さ・て・と……これで、昇華 完了」
機体進化――。突如ガイアの体が、ムクムクと大きくなっていく。
だが不自然に少女の顔だけは変化せず、そのまま巨大な体の上に乗っている。背中の5本の腕はそれぞれが3本に割れ、全部で15本となり、うねうねと蠢き始める。
「魂力 変換の時間を待ってくれてありがとう! ボクのお話、そんなに楽しかったかな?」
「0点だな」
ユウコはガイア目がけて走り出す。
同時に、ガイアは複数の腕を地面へ置いた。瞬間、辺り一帯の地面が激しく揺れ、ボコボコと地面が隆起し割れていく。
ユウコは舌打ちし、不安定な地面を蹴って、近くの家屋の上に飛び乗った。
ガイアは残った腕を地面に置く。すると村中に生える大木から、無数の枝が鞭のようにしなって伸び、ユウコへ迫る。
ユウコは目にも止まらぬ速さで闇剣を振るい、迫る枝を次々と斬り落としていった。
しかし枝の数は一向に減らず、寧ろその数を徐々に増やしていく。狭い家屋の上では逃げ場もなく、堪らずユウコは家から降り、地面に足をつけた。
それを見たガイアは、ニタリと笑う。
するとユウコの周囲の土から、ガイアの腕が12本飛び出てくる。いつの間にかガイアが自身の腕を地中に潜ませていたのだ。
12本の腕々は四方から一斉にユウコへ襲い掛かる。
ユウコは体を回転させながら闇剣を振るい、迫る腕々を一気に斬り落とした。
――が、2本の腕がユウコを捉えた。
腕は鋭い手刀となり、ユウコの右脇腹と左頬を掠めた。鮮血が飛び散る。ユウコの口から、「っ……!」と声が漏れ出る。
ユウコは大きく後方へ跳び、距離を取った。ガイアが声を上げる。
「キャハハハハ! これが絆か! これが愛の力か!」
「そんなものは……愛じゃない」
(だが……思った以上に強化されている。一方的な絆だけでも、魂力は増大するのか)
ガイアの情愛は表面上のものだったが、村人達がガイアに向けていた情愛は、本物だったのだろう。故に取り込んだ魂の力が大きくなったのだと、ユウコは考えた。
見ると斬られたガイアの腕はすでに復活していた。
ガイアは15本全ての腕を地面に乗せる。ボコボコと地面が盛り上がっていき、高さ5メートル程もある土の巨人――ゴーレムが複数体、作り出された。
ユウコは大きく息を吐く。そして、「仕方ない」と呟いた。
「まだまだまだぁ~! 楽しい楽しいお遊戯の時間は――」
――黒い、一閃。
分厚い闇の剣閃が、真横に走った。
次いで、全てのゴーレムは上下に両断され、そのまま砂となって崩れ落ちた。
「なっ……!」
ガイアは思わず目を開いた。
ユウコは自身の背丈以上の大きさの――両刃の大剣 を片手で持ち、その大剣を振り抜いたような体勢で立っていた。闇の残滓が、大剣の切っ先から漂っている。
ユウコは大剣を構え直し、今度は2回剣を振るう。
2つの巨大な闇の斬撃が宙を駆け 、呆然と立ち尽くすガイアの腕と脚へ直撃し、それらを斬り飛ばす。
我に返ったガイアは、直ちに機体の修復を試みるが、新たな腕と脚が生み出される前に、ユウコの大剣から放たれる闇の斬撃が、修復中のガイアの腕と脚を再び切断する――。
その応酬は幾度となく繰り返された。少しも身動きがとれないガイアへ、ユウコが大剣を振るいながら、一歩、また一歩と近づいていく。
やがて抵抗が無駄なことを悟ったのか、ガイアはゴトンと地面に倒れた。
倒れるガイアの数メートル先には、夕陽に照らされた銀髪の少女の姿。ガイアの顔が、恐怖で歪む。
――だがそこに、
「ガイア!」
突如シャノイが飛び出てきた。シャノイはユウコの前に立ち塞がり、ユウコに声を上げる。
「この子を殺さないでおくれ!」
「は……?」と、ガイアが声を漏らした。
シャノイはユウコを見据えたまま、後ろに倒れるガイアへ叫ぶ。
「このまま私の魂を食べなさい! そして遠くへ逃げるの!」
しばしガイアは呆気に取られていたが、やがてフッと笑った。
「本当に、馬鹿だなぁ……人間は」
ガイアの千切れた腕の1本が、ゆっくりとシャノイの背中へ伸びていく。
「!」
シャノイの眼前から、ユウコの姿は消えていた。
ユウコは上空に飛んでいた。
ユウコはシャノイを飛び越え――落下しながら、右手に持った大剣をガイア目がけて振り下ろす。ガイアの胸に埋め込まれた核に、深々と大剣が突き刺さった。
ガイアの体が深い闇に包まれる。ガイアは小さく笑いながら、「でも」と呟いた。
「やっぱり人間は……面白い」
言いながらガイアの目は光を失い、ガイアは動かなくなった。
もはやただの機械の塊となったものにシャノイはしがみつき、大声を上げて泣き始めた。
ユウコは大剣を短剣へ変化させると、シャノイに背を向け、黙って歩き出す。サポタもその後を黙って追った。
「やはり……最悪だ。クソ亜神が」
夕陽が沈む小さな村に、ユウコの小さな声が溶けて消えた。
ユウコはガイアの3本腕から素早く闇剣を引き抜き、再びガイアへ鋭く突いた。
ガイアは後方へ大きく跳んでそれを避け、後ろに群がる人だかりの中へと着地する。
「え? は? え? ガイア、ちゃん……?」
村人達はガイアを縋るような目で見ながら、声を漏らした。ガイアは村人達へ笑顔を向ける。
「あ、そのまま動かないでね~。狙い、ズレちゃうからさ」
鮮血が滴り落ちるガイアの5本の腕が、うねうねと動いた。
「うわああああああ!!」
ようやく状況を理解した村人達は、顔面を蒼白させ、蜘蛛の子を散らすように広場から逃げ出した。
「あ~らら。まあどのみち、一度に摂取できる量は限られてるしね」
ガイアは舌なめずりをする。「あとで美味しく頂くとしようか」
「やはり、人魂が目的だったか」
ユウコは吐き捨てるように言った。ガイアは小さく笑う。
「少し違うね。ボクは
ガイアは自身の画策を語り出す。
ガイアが村へ流れ着き、間もない頃。ガイアは村人達を襲い、手っ取り早く体を回復させることも可能であった。だがその派手な行動によって、英傑クラスの人間に目を付けられでもしたら厄介だった。
故にガイアは、時間は掛かるが人間の食料を摂取することで機体の回復を待った。自身が無害な存在であることを村人に装って。
それから1年、ある程度ガイアの体が回復した頃。
ガイアはどうしても人魂への食欲が抑えきれなくなり、魔力で作った分身体を村において、自身に懐いていた子供を森へ招いた。そしてその子供の魂を、喰らった。
……しかし、その時だった。
「ボクは驚愕した。その魂の濃厚な味わいと、生み出される魂力の大きさに! それは今までにない素晴らしいエネルギーだった。そこでボクは、1つの考えに至った。人間と仲良くなればなるほど魂の関係が密接になり、それが多大な魂力を生み出す要因になるのではないかとね」
ガイアは両手を広げる。「ボクはもっともっと人間の魂を熟成させてみたくなった! それからボクは、人間に愛を向けてみようと考えたんだ。……でもね」
ガイアは残念そうに、ため息を漏らす。
「どうしても〝対等〟の愛を注ぐのは無理だったよ。一応頑張ってはみたんだよ? でも無理だった。だってさ、君はできる? 自分よりも遥かに劣る家畜同然の下等生物に、対等な愛を注ぐことが」
ガイアは酷く冷たい声でそう言った。それから不意に、「ああ」と呟き、続けた。
「去年のガキはね、味見だよ。1年でどれくらい味がよくなっているのか試してみたんだ。その結果はね……実に美味。美味しかったなぁ。まあ今の5人も、それ以上に美味しくなっていたけどね」
ガイアは大きくゲップをする。それはとても不快な音だった。ガイアはニヤリと笑う。
「さ・て・と……これで、
機体進化――。突如ガイアの体が、ムクムクと大きくなっていく。
だが不自然に少女の顔だけは変化せず、そのまま巨大な体の上に乗っている。背中の5本の腕はそれぞれが3本に割れ、全部で15本となり、うねうねと蠢き始める。
「
「0点だな」
ユウコはガイア目がけて走り出す。
同時に、ガイアは複数の腕を地面へ置いた。瞬間、辺り一帯の地面が激しく揺れ、ボコボコと地面が隆起し割れていく。
ユウコは舌打ちし、不安定な地面を蹴って、近くの家屋の上に飛び乗った。
ガイアは残った腕を地面に置く。すると村中に生える大木から、無数の枝が鞭のようにしなって伸び、ユウコへ迫る。
ユウコは目にも止まらぬ速さで闇剣を振るい、迫る枝を次々と斬り落としていった。
しかし枝の数は一向に減らず、寧ろその数を徐々に増やしていく。狭い家屋の上では逃げ場もなく、堪らずユウコは家から降り、地面に足をつけた。
それを見たガイアは、ニタリと笑う。
するとユウコの周囲の土から、ガイアの腕が12本飛び出てくる。いつの間にかガイアが自身の腕を地中に潜ませていたのだ。
12本の腕々は四方から一斉にユウコへ襲い掛かる。
ユウコは体を回転させながら闇剣を振るい、迫る腕々を一気に斬り落とした。
――が、2本の腕がユウコを捉えた。
腕は鋭い手刀となり、ユウコの右脇腹と左頬を掠めた。鮮血が飛び散る。ユウコの口から、「っ……!」と声が漏れ出る。
ユウコは大きく後方へ跳び、距離を取った。ガイアが声を上げる。
「キャハハハハ! これが絆か! これが愛の力か!」
「そんなものは……愛じゃない」
(だが……思った以上に強化されている。一方的な絆だけでも、魂力は増大するのか)
ガイアの情愛は表面上のものだったが、村人達がガイアに向けていた情愛は、本物だったのだろう。故に取り込んだ魂の力が大きくなったのだと、ユウコは考えた。
見ると斬られたガイアの腕はすでに復活していた。
ガイアは15本全ての腕を地面に乗せる。ボコボコと地面が盛り上がっていき、高さ5メートル程もある土の巨人――ゴーレムが複数体、作り出された。
ユウコは大きく息を吐く。そして、「仕方ない」と呟いた。
「まだまだまだぁ~! 楽しい楽しいお遊戯の時間は――」
――黒い、一閃。
分厚い闇の剣閃が、真横に走った。
次いで、全てのゴーレムは上下に両断され、そのまま砂となって崩れ落ちた。
「なっ……!」
ガイアは思わず目を開いた。
ユウコは自身の背丈以上の大きさの――両刃の
ユウコは大剣を構え直し、今度は2回剣を振るう。
2つの巨大な闇の斬撃が
我に返ったガイアは、直ちに機体の修復を試みるが、新たな腕と脚が生み出される前に、ユウコの大剣から放たれる闇の斬撃が、修復中のガイアの腕と脚を再び切断する――。
その応酬は幾度となく繰り返された。少しも身動きがとれないガイアへ、ユウコが大剣を振るいながら、一歩、また一歩と近づいていく。
やがて抵抗が無駄なことを悟ったのか、ガイアはゴトンと地面に倒れた。
倒れるガイアの数メートル先には、夕陽に照らされた銀髪の少女の姿。ガイアの顔が、恐怖で歪む。
――だがそこに、
「ガイア!」
突如シャノイが飛び出てきた。シャノイはユウコの前に立ち塞がり、ユウコに声を上げる。
「この子を殺さないでおくれ!」
「は……?」と、ガイアが声を漏らした。
シャノイはユウコを見据えたまま、後ろに倒れるガイアへ叫ぶ。
「このまま私の魂を食べなさい! そして遠くへ逃げるの!」
しばしガイアは呆気に取られていたが、やがてフッと笑った。
「本当に、馬鹿だなぁ……人間は」
ガイアの千切れた腕の1本が、ゆっくりとシャノイの背中へ伸びていく。
「!」
シャノイの眼前から、ユウコの姿は消えていた。
ユウコは上空に飛んでいた。
ユウコはシャノイを飛び越え――落下しながら、右手に持った大剣をガイア目がけて振り下ろす。ガイアの胸に埋め込まれた核に、深々と大剣が突き刺さった。
ガイアの体が深い闇に包まれる。ガイアは小さく笑いながら、「でも」と呟いた。
「やっぱり人間は……面白い」
言いながらガイアの目は光を失い、ガイアは動かなくなった。
もはやただの機械の塊となったものにシャノイはしがみつき、大声を上げて泣き始めた。
ユウコは大剣を短剣へ変化させると、シャノイに背を向け、黙って歩き出す。サポタもその後を黙って追った。
「やはり……最悪だ。クソ亜神が」
夕陽が沈む小さな村に、ユウコの小さな声が溶けて消えた。