文字数 1,279文字


  ~没帝国後(新ユガナ歴)7年~ 

 

 大木が乱立する林の中に、幾頭もの馬が駆ける音が鳴り響いている。
 2頭の馬が運ぶのは大きな荷台。その周りには、ガラの悪い盗賊を乗せた馬が数頭駆けていた。その内の1頭の背に、立派な髭を携え豪華な服を着る商人の男がいたが、男はその見た目とは裏腹に、ビクビクとした様子で辺りを見回している。
 
「ビビり過ぎだぜ、ダンナ」

 馬に乗る盗賊の1人が商人の男に声をかける。

「そのために俺達を雇ってるんだろ? 賊には賊。良い考えだぜ、ダンナ。なーに。アサド団だろうがなんだろうが、俺達がボコボコに――」

 その時、前の馬が嘶いた。続いて、荷台を運ぶ2頭の馬が転倒する。

「なんだ!?」

 直後、左右の木々の間から無数の矢が飛んでくる。それに少し遅れて、空からは大量のナイフの雨が降り注ぐ。盗賊達の乗る馬は全てが倒れ、あちこちから悲鳴が上がる。
 
「く、くそ! まさか本当に奴らが……!?」

 盗賊達が混乱している最中、転倒した荷台には数人の人影があった。
 人影は素早い動きで荷台の中の荷物を取り出していき、自らが乗ってきた馬の背に乗せていく。その動きは、実に円滑だった。
 
「がっはっは! 全て頂くぞ!」

 数人の内の1人、坊主頭の大男が一歩前に出て、地面に倒れる商人に大声で言った。

「ナメンなッ!」

 その時、盗賊の1人が剣を抜き、坊主頭の男へ突進した。
 坊主頭の男はそれに気付き、自身の背中に差した槍を抜こうとする。だが決死の覚悟で突進する盗賊は、すでに坊主頭の男の眼前まで迫っていた。
 盗賊の剣が速いか、坊主頭の男の槍が速いか――その結果が出ようとした時、
 
「なにィ!?」
 
 盗賊の剣はバキンと2つに折られていた。突如横から現れた――美しい銀髪の少女が握る――白い光で輝く小剣の斬撃によって。
 
「助かったぜユーコ!」

 坊主頭の男は、銀髪の少女――ユーコの肩を叩く。次いで坊主頭の男は、剣が折れて呆然とする盗賊に、鋭い蹴りを浴びせる。盗賊は小さく呻き、地面へ倒れた。
 
「サリム! ユーコ! 離脱するぞ!」
  
 茶髪の男に呼ばれ、坊主頭の男――サリムとユーコは仲間の元へ駆け出した。そして商人から奪取した戦利品を乗せた馬に跨り、彼らはさっさとこの場から去って行った。
 尻餅をついた商人の男は、その様子をただただ呆然と見守ることしかできなかった。
―――
―――
―――
 ここは、ルパ国の東に隣接する国、南リュド。その北には、北リュド国が広がっている。
 ここ数年、この2国の国境を跨って活動する義賊(・・)がいた。
 その義賊の名はアサド団。団員となる者は10人にも満たない小さな集団ではあるが、個々人の能力が極めて高いとされ、2国の憲兵達は手を焼いていた。
 更に近年、ずば抜けた剣の使い手である銀髪の少女がアサド団に加わってからは、増々その厄介さに磨きがかかっていると憲兵達は噂する。
 2国の豪商達は、アサド団の活動を憂慮していた。それは、自らの商売に違法性(・・・)を有している商人ほど、顕著だった。
 そう、彼らアサド団が標的とするのは、悪名高い商人や富豪ばかりであった――。
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