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文字数 1,222文字



 ユーコが大剣を光剣に戻すと、赤い光はもう消えていた。
 ややあって、ジンファンがユーコの元によろよろと駆け寄ってくる。そして、弱弱しい声を出した。
 
「なあ、ユーコ。シャミンは……? レイファは……? なんだか2人がここに居たような気がしたんだが。はは……疲れてたのかな。幻覚でも見たんだな、きっと。はは……」

 だがユーコは力強い目で、ふるふると首を振り、光剣をジンファンへ向けた。
 
「なんだよ……それ。その剣が、なんだって言うんだ……! こんな時くらい、喋れよ!」

 ジンファンは声を荒げる。「説明しろよ、それでは何も分からない! 2人は、2人は」

 ユーコは光剣の腹をジンファンの胸にドンと押し当てる。ユーコの目は涙で揺れていた。
 ジンファンの胸に、淡い光が灯る。ジンファンは不思議と、そこにシャミンとレイファを感じた。
 
「あ、ああ……シャミン……レイファぁ……! お、おお……おおおおお!!」

 ジンファンはユーコの光剣を抱き寄せ、大声を上げて泣いた。
 ユーコの頬にも、涙が流れた。
 やがて奥にいたフェアラルが近寄り、2人へ声をかける。
 
「シャミン君がおりませんでしたら、この市場の人々は皆、命を落としておりました。レイファちゃんも、その小さな体でシャミン君を守りましたの。そして、あなた達の到着が間に合った。2人は確かに、英雄でしたわ」

 ジンファンは顔を上げると、フェアラルへ小さく頭を下げた。
 それから胸に抱いていた光剣を、ユーコへ返した。
 ユーコは光剣を、ギュッと握りしめる。ユーコは光剣で、丘の上にそびえる城の頂上を指した。頂上の壁が、僅かに揺れている。
 
「……そうだな。カオスを倒さなければ、何も意味が無い」

 ジンファンの目に、火が灯る。「行こう。全てを、終わらせるために」

 ユーコとジンファンが歩き出そうとした時、フェアラルが膝をついた。度重なる戦いで、彼女の体はもうボロボロだった。
「フェアラルさんは、ここで」と、ジンファンはそれだけ言った。

「面目ございません……。ですが私も治療した後、必ず追いつきますわ」
「その頃には、終わらせていますよ」

 そうして、ユーコとジンファンは駆けた。
 無言でただ、街道を駆け、丘を駆け――2人は瞬く間に、城門へと辿り着いた。
 門兵は誰もおらず、2人はそのまま城内へと入っていく。
 城内は、不気味な程静かだった。遥か上階で、微かに戦闘音だけが聞こえた。
 
「音がまだしている。やはりカオスでも、Sランク機には苦戦しているんだ」

 ユーコとジンファンは再び駆け出した。階段を上り、上階へ。カオスの待つ頂上の、王の間を目指して。

「どんな力を持っていようとも……例え首だけになろうとも、必ず討ち倒す。必ずだ!」

 頂上へ近づけば近づく程、音が静かになろうとしている。それは、王の間での戦いが終わりを迎えることを意味していた。
 ユーコとジンファンが頂上の扉の前に立ったのと同時に、音は止んだ。
 ユーコは、扉を開いた。
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