夢の、その先:子供の頃の夢4000字
文字数 4,005文字
俺は小さい頃に特撮番組を見てヒーローに憧れた。
ヒーローを間近に見たことはなかったけど、自分がピンチになったらきっと助けてくれると思って。
そして大きくなったら自分もヒーローになりたいと思った。だから子どもながらにヒーローになろうと大きな木とかその辺にあるよくわからないものを敵に見立てて闘ったりしていた。
けれども大きくなってヒーローというのが本当は存在しないものだと知った。本当はあのゴムの服をまとってアクターが働いているだけだと。でも俺にとってのヒーローというものの存在感は別に消えはしなかったんだ。特撮番組のヒーローは俺にとってかっこいいものであり続けたし。だから俺はその特撮番組を作る仕事がしたいと思ったんだ。
それでヒーローとして画面に映るのが俺じゃなくてもいいとも思った。俺は別に顔がいいわけでもない。俺はむしろ地味なほうだ。だから俺がヒーローになってもテレビの前の子どもががっかりする。だからスーツアクターになった。特撮のヒーローが変身して戦うカラフルな真の姿。むしろその方が直接的にヒーローだ。
ゴムスーツは夏はとても暑くて体に張り付き気持ち悪いし冬は直接風が当たるのがわかるほどに寒い。それに体力仕事で風邪なんか引けない。けれども俺は昔から体だけは丈夫だった。特撮の仕事は薄給で、追加でバイトをして生活費を稼いでそれで満足していた。
「高坂、そろそろ引退を考えちゃどうだ。この仕事は潰しが効かん」
「はぁ。でも特に怪我もしてないですよ」
「したら終わりなんだぞ。もし怪我したらどうするんだお前。バイト暮らしもままならなくなるぞ」
ある日の仕事終わりに監督に呼ばれてそう言われた。俺はその時32になっていた。潰しが効かないと言えば既に効かない。ここから正社員は無理だろう。結局のところ一生を日雇いかバイトで暮らすだけだ。
「他にしたいことがありません」
「たまにいるんだよな、というかこの業界はだいたいそんな奴らばっかだ。特撮が好きなやつが集まって泥沼にハマってるんだからな。でもお前はそいつらとはちょっと違う気がするんだよ。特撮が好きなわけじゃないんだろう?」
監督はじっと俺の目を見た。
特撮が好きではない?
どうだろう。あまり考えたことはなかった。俺はヒーロー番組が好きだ。イコール特撮というわけではないのかな。考え込んだ俺の様子を見て監督は口を開く。
「もしやる気があるなら他に仕事を紹介してやれる。こんなヤクザな仕事じゃなくて小さいが福利厚生がある仕事をな。お前美鷺 と付き合ってるんだろう?」
「え?」
「まあ、よく考えろ」
ポン、と監督は俺の方を叩いて立ち去った。
美鷺。俺の彼女。この番組のスポンサーから出向してきて財務管理というものををしている。俺より2つ年上の地味目の女だが煌めかしいスーツを脱ぐと地味な俺と妙に気があって数ヶ月前から付き合っていた。けれども結婚は考えていなかった。バイトぐらしじゃ結婚も何もない。そんなことは美鷺もよくわかっている。だから二人の間で結婚の話なんて欠片もでなかった。
結局その後監督から再び就職の話があることはなく、日々は淡々と過ぎていった。
俺たち戦闘シーンで登場するスーツアクターはヒーローの日常を描く役者と同席することはあまりない。
役者は若手の俳優から選ばれてやってくる。そもそも同一人物を演じるわけなのでむしろ同じ画面に現れてはいけない。だから基本的に絡みはしないのだけど、戦闘のシーンなんかの丁度変身するシーン前後では現場が被る。だから前の撮影がおしていると出くわすことがある。
主演の俳優は基本的に20歳前後だけれども腰の低い奴から居丈高な奴まで色々いる。今回の俺のスーツの担当俳優は後者だった。
「あー?高坂 さん何つったってんスか。だっせぇ格好して目障りなんでどっかいってくださいよ」
「はい、すみません」
「だっせぇ」
俺の担当は阿良々木 という俳優で特に特撮が好きなわけでもなさそうだった。確かハーフで彫りが深く色素も少し薄い。身長は俺より少し小さいが、まあ誤差の範囲だ。今確か18歳だ。俺とは14も違う。俺なんかはただのおっさんだろう。
俺が18の時は地元の大学に進学していてやっぱり地味だった。取り立てていいところもない俺がダサいというのも間違ってはいないのだろうな。けれども俺のそんな姿を美鷺が残念そうな目で見ているのにふと気がついてしまった。そうか、俺は主観的にはそれなりに満足して暮らしていたから特には気にはしてなかったけれども、やはり社会としては底辺なのだ。福利厚生もなく病気で倒れたらすぐに生活が立ち行かなくなる。
だからといって、今更俺に他にしたい生活というものはたしかになかった。就職活動の時もいくつか企業にエントリーシートを送ろうと思ったけど、俺がしたいことと違うという思いがわきあがって、俺の一生をそんなことに使うのだろうかと思うと気がとがめ、そのころバイトしていた特撮スタジオに頼み込んで専属で置いてもらうことにした。
俺は何のためにここに就職したんだろう。
ヒーローになりたかったから。
俺はヒーローになれているんだろうか。
確かにスーツアクターはヒーロー役だ。けれども自分はヒーローというよりはそのヒーローの動きを演じているだけでどちらかというと作業員だと思う。けれども確かにこの暮らしをずっとしていくわけにはいかないのだろうな、そうも思う。20歳の頃に比べて体の動きが少しずつ悪くなり、息切れをするタイミングが早くなってきていることを実感していたから。
俺のなりたかったヒーローというのは人助けをする存在だ。結局ここでは俺はヒーローにはなれないんだろうな、せっかくだから俺も何か最後にヒーローになることができればとも思わなくもないが、ヒーローというものは阿良々木のような若くてかっこいい者がなるものなんだろう。
そう思うと、俺はスーツアクターをしていてもずっとこのままなのかな、となんとも言えない気持ちもまった。
けれどもある雨の日の翌日。
「阿良々木、早く手をつかめ!」
「な、何が⁉」
「早く!」
それは土砂降りの雨が降った日の翌日だ。
近隣県の岩場で特撮の戦闘シーンによく使う場所。前入りした昨夜はひどい雷雨だった。ピカと光が空に縦横に走った直後にガガという音が響き渡る。その合間は雨のザァザァという音と風のゴゥゴゥという音で埋め尽くされ、スタッフとは明日は大丈夫でしょうか、と話していた。
心配は杞憂で翌日にはすっかり晴れ上がり、午前に行われた俺たちスーツアクターのシーンは滞りなく撮影が終了した。けれどもその時妙に嫌な予感がしたんだ。丁度遠出だからこの後にバイトも入れていなかった。
だから監督に見学したいと言って撮影を見ていることにした。
阿良々木に絡まれるかと思ったが阿良々木は俺に気づかなかった。撮影スタッフとでも思ったのだろう。
すでに俺がスーツを着る時間は終わっていて、ヒーローを脱ぎ終わって私服に着替えていたから。
けれどもやはりなんだか不安で、でも撮影は滞りなく終わってホッとした。それで俺はただ残ってるのもなんだから撤収の手伝いをしていた。
その時だ。
阿良々木が他の俳優と話していたのが目に入り、違和感を感じた。
俺が演じていたときより、なんだか岩場の形が変わっていた気がしたんだ。それで微かにミシという音が空気を揺らした。
俺は思わずそちらの方向に走り出し、目の前にいた俳優の背中を掴んで後ろに引き下げたが阿良々木は間に合わなかった。一瞬不審げに俺を見た阿良々木の表情はすぐに混乱と驚愕に変わる。その足元はガラと崩れて空中に放り出されたのだから。
俺はその足元に滑り込んでなんとか阿良々木の腕を掴む。けれども足場はさらに崩れ始めて俺は床に這いつくばって宙にぷらりと浮かぶ阿良々木の両手を俺の両手で握りしめた。
「もたない、早く、上がれ!」
「あんたその声、高坂さん⁉」
「早く!」
阿良々木は俺の腕を引っ張りながら崩れかけた岩場に足をかけてなんとか登る。そのころには他のスタッフが落っこちないように俺の足を支えて阿良々木が崖から上がるのを手伝っていた。息を切らしながら起き上がって、服が埃まみれになっていることに気がついた。
気まずそうな表情の阿良々木と目があった。
「あの、高坂さん、ありがとうございました」
「いえ、無事でよかったです」
「あの、なんで助けてくれたんスか」
なんで。
なんでだろう。いつもどおり体が動いていた。俺はスーツアクターとしてこんなピンチシーンによく飛び込んでいた。だから自然に、咄嗟に体が動いた。
「特に理由はないです」
「ハハッあんた本当にヒーローみたいだ」
ヒーローみたいだ。その声は俺の中で反響した。
俺はヒーローになったのか。
気がつくとマネージャーが俺に深く頭を下げて、阿良々木は次の現場に去っていった。俺はその崖でぼーっと立っていて、目の前では暮れかけた夕陽が物語のエンディングだというように世界に茜色に照らしていた。
気がついたら既に撤収作業は全ておわっていて監督にポンと肩をたたかれた。
「高坂、今日は本当にありがとうな。お前がいなかったらどうなることかと思った。あとでボーナスを出そう」
「監督、この前いっていた就職の話ってまだ有効ですか」
「おお? なんだ突然。もちろん有効だ。急にどうしたんだ」
「夢がかなったので」
「夢?」
不審そうな顔をする監督は俺に小さな工務店を紹介してくれた。俺に技術はなかったが社長は丁寧に仕事を教えてくれた。真面目に働いてそのうち後継者として紹介されるようになった。美鷺と結婚して子どもが2人生まれた。今も長男と一緒にあの監督がとった特撮番組の最新作を見ていると長男が振り返ってこう言った。
「父ちゃん、俺もヒーローになりたい」
Fin
ヒーローを間近に見たことはなかったけど、自分がピンチになったらきっと助けてくれると思って。
そして大きくなったら自分もヒーローになりたいと思った。だから子どもながらにヒーローになろうと大きな木とかその辺にあるよくわからないものを敵に見立てて闘ったりしていた。
けれども大きくなってヒーローというのが本当は存在しないものだと知った。本当はあのゴムの服をまとってアクターが働いているだけだと。でも俺にとってのヒーローというものの存在感は別に消えはしなかったんだ。特撮番組のヒーローは俺にとってかっこいいものであり続けたし。だから俺はその特撮番組を作る仕事がしたいと思ったんだ。
それでヒーローとして画面に映るのが俺じゃなくてもいいとも思った。俺は別に顔がいいわけでもない。俺はむしろ地味なほうだ。だから俺がヒーローになってもテレビの前の子どもががっかりする。だからスーツアクターになった。特撮のヒーローが変身して戦うカラフルな真の姿。むしろその方が直接的にヒーローだ。
ゴムスーツは夏はとても暑くて体に張り付き気持ち悪いし冬は直接風が当たるのがわかるほどに寒い。それに体力仕事で風邪なんか引けない。けれども俺は昔から体だけは丈夫だった。特撮の仕事は薄給で、追加でバイトをして生活費を稼いでそれで満足していた。
「高坂、そろそろ引退を考えちゃどうだ。この仕事は潰しが効かん」
「はぁ。でも特に怪我もしてないですよ」
「したら終わりなんだぞ。もし怪我したらどうするんだお前。バイト暮らしもままならなくなるぞ」
ある日の仕事終わりに監督に呼ばれてそう言われた。俺はその時32になっていた。潰しが効かないと言えば既に効かない。ここから正社員は無理だろう。結局のところ一生を日雇いかバイトで暮らすだけだ。
「他にしたいことがありません」
「たまにいるんだよな、というかこの業界はだいたいそんな奴らばっかだ。特撮が好きなやつが集まって泥沼にハマってるんだからな。でもお前はそいつらとはちょっと違う気がするんだよ。特撮が好きなわけじゃないんだろう?」
監督はじっと俺の目を見た。
特撮が好きではない?
どうだろう。あまり考えたことはなかった。俺はヒーロー番組が好きだ。イコール特撮というわけではないのかな。考え込んだ俺の様子を見て監督は口を開く。
「もしやる気があるなら他に仕事を紹介してやれる。こんなヤクザな仕事じゃなくて小さいが福利厚生がある仕事をな。お前
「え?」
「まあ、よく考えろ」
ポン、と監督は俺の方を叩いて立ち去った。
美鷺。俺の彼女。この番組のスポンサーから出向してきて財務管理というものををしている。俺より2つ年上の地味目の女だが煌めかしいスーツを脱ぐと地味な俺と妙に気があって数ヶ月前から付き合っていた。けれども結婚は考えていなかった。バイトぐらしじゃ結婚も何もない。そんなことは美鷺もよくわかっている。だから二人の間で結婚の話なんて欠片もでなかった。
結局その後監督から再び就職の話があることはなく、日々は淡々と過ぎていった。
俺たち戦闘シーンで登場するスーツアクターはヒーローの日常を描く役者と同席することはあまりない。
役者は若手の俳優から選ばれてやってくる。そもそも同一人物を演じるわけなのでむしろ同じ画面に現れてはいけない。だから基本的に絡みはしないのだけど、戦闘のシーンなんかの丁度変身するシーン前後では現場が被る。だから前の撮影がおしていると出くわすことがある。
主演の俳優は基本的に20歳前後だけれども腰の低い奴から居丈高な奴まで色々いる。今回の俺のスーツの担当俳優は後者だった。
「あー?
「はい、すみません」
「だっせぇ」
俺の担当は
俺が18の時は地元の大学に進学していてやっぱり地味だった。取り立てていいところもない俺がダサいというのも間違ってはいないのだろうな。けれども俺のそんな姿を美鷺が残念そうな目で見ているのにふと気がついてしまった。そうか、俺は主観的にはそれなりに満足して暮らしていたから特には気にはしてなかったけれども、やはり社会としては底辺なのだ。福利厚生もなく病気で倒れたらすぐに生活が立ち行かなくなる。
だからといって、今更俺に他にしたい生活というものはたしかになかった。就職活動の時もいくつか企業にエントリーシートを送ろうと思ったけど、俺がしたいことと違うという思いがわきあがって、俺の一生をそんなことに使うのだろうかと思うと気がとがめ、そのころバイトしていた特撮スタジオに頼み込んで専属で置いてもらうことにした。
俺は何のためにここに就職したんだろう。
ヒーローになりたかったから。
俺はヒーローになれているんだろうか。
確かにスーツアクターはヒーロー役だ。けれども自分はヒーローというよりはそのヒーローの動きを演じているだけでどちらかというと作業員だと思う。けれども確かにこの暮らしをずっとしていくわけにはいかないのだろうな、そうも思う。20歳の頃に比べて体の動きが少しずつ悪くなり、息切れをするタイミングが早くなってきていることを実感していたから。
俺のなりたかったヒーローというのは人助けをする存在だ。結局ここでは俺はヒーローにはなれないんだろうな、せっかくだから俺も何か最後にヒーローになることができればとも思わなくもないが、ヒーローというものは阿良々木のような若くてかっこいい者がなるものなんだろう。
そう思うと、俺はスーツアクターをしていてもずっとこのままなのかな、となんとも言えない気持ちもまった。
けれどもある雨の日の翌日。
「阿良々木、早く手をつかめ!」
「な、何が⁉」
「早く!」
それは土砂降りの雨が降った日の翌日だ。
近隣県の岩場で特撮の戦闘シーンによく使う場所。前入りした昨夜はひどい雷雨だった。ピカと光が空に縦横に走った直後にガガという音が響き渡る。その合間は雨のザァザァという音と風のゴゥゴゥという音で埋め尽くされ、スタッフとは明日は大丈夫でしょうか、と話していた。
心配は杞憂で翌日にはすっかり晴れ上がり、午前に行われた俺たちスーツアクターのシーンは滞りなく撮影が終了した。けれどもその時妙に嫌な予感がしたんだ。丁度遠出だからこの後にバイトも入れていなかった。
だから監督に見学したいと言って撮影を見ていることにした。
阿良々木に絡まれるかと思ったが阿良々木は俺に気づかなかった。撮影スタッフとでも思ったのだろう。
すでに俺がスーツを着る時間は終わっていて、ヒーローを脱ぎ終わって私服に着替えていたから。
けれどもやはりなんだか不安で、でも撮影は滞りなく終わってホッとした。それで俺はただ残ってるのもなんだから撤収の手伝いをしていた。
その時だ。
阿良々木が他の俳優と話していたのが目に入り、違和感を感じた。
俺が演じていたときより、なんだか岩場の形が変わっていた気がしたんだ。それで微かにミシという音が空気を揺らした。
俺は思わずそちらの方向に走り出し、目の前にいた俳優の背中を掴んで後ろに引き下げたが阿良々木は間に合わなかった。一瞬不審げに俺を見た阿良々木の表情はすぐに混乱と驚愕に変わる。その足元はガラと崩れて空中に放り出されたのだから。
俺はその足元に滑り込んでなんとか阿良々木の腕を掴む。けれども足場はさらに崩れ始めて俺は床に這いつくばって宙にぷらりと浮かぶ阿良々木の両手を俺の両手で握りしめた。
「もたない、早く、上がれ!」
「あんたその声、高坂さん⁉」
「早く!」
阿良々木は俺の腕を引っ張りながら崩れかけた岩場に足をかけてなんとか登る。そのころには他のスタッフが落っこちないように俺の足を支えて阿良々木が崖から上がるのを手伝っていた。息を切らしながら起き上がって、服が埃まみれになっていることに気がついた。
気まずそうな表情の阿良々木と目があった。
「あの、高坂さん、ありがとうございました」
「いえ、無事でよかったです」
「あの、なんで助けてくれたんスか」
なんで。
なんでだろう。いつもどおり体が動いていた。俺はスーツアクターとしてこんなピンチシーンによく飛び込んでいた。だから自然に、咄嗟に体が動いた。
「特に理由はないです」
「ハハッあんた本当にヒーローみたいだ」
ヒーローみたいだ。その声は俺の中で反響した。
俺はヒーローになったのか。
気がつくとマネージャーが俺に深く頭を下げて、阿良々木は次の現場に去っていった。俺はその崖でぼーっと立っていて、目の前では暮れかけた夕陽が物語のエンディングだというように世界に茜色に照らしていた。
気がついたら既に撤収作業は全ておわっていて監督にポンと肩をたたかれた。
「高坂、今日は本当にありがとうな。お前がいなかったらどうなることかと思った。あとでボーナスを出そう」
「監督、この前いっていた就職の話ってまだ有効ですか」
「おお? なんだ突然。もちろん有効だ。急にどうしたんだ」
「夢がかなったので」
「夢?」
不審そうな顔をする監督は俺に小さな工務店を紹介してくれた。俺に技術はなかったが社長は丁寧に仕事を教えてくれた。真面目に働いてそのうち後継者として紹介されるようになった。美鷺と結婚して子どもが2人生まれた。今も長男と一緒にあの監督がとった特撮番組の最新作を見ていると長男が振り返ってこう言った。
「父ちゃん、俺もヒーローになりたい」
Fin