懐古的な顛末:世代ギャップな2000字

文字数 1,875文字

「ねぇじいちゃん。シティーボーイって何?」
「何だ突然」
「父ちゃんがよくわかんねぇからじいちゃんに聞けって言ったんだ」

 この夏、墓参りに息子夫婦が小学生の孫の祥太(しょうた)をつれて帰省していた。俺はどうも子どもというものが苦手だ。自分の息子も母ちゃんにまかせっきりだった。その点は多少反省しなくもないのだが、苦手なものは苦手なのだ。子どもというものは何を考えているのかわからない。だからどう接していいかわからない。
 だから夕食が終わったらこっそり居間を抜けて自分の部屋に戻ってくつろいでいる。
 息子の家族が帰ってくるのはなんだか嬉しい。だがなんとなくあの和気あいあいとした空間は妙に居ずらい。落ち着かないんだ。どうしたらいいのかわからない。だから孫が部屋に着てくれるのはむしろ歓迎だった。

 それにしてもなんだか随分懐かしい言葉がでてきたな。
 シティーボーイか。俺が十代くらいの時に流行っていた言葉だ。確かその当時POPYEEっていう雑誌があってそれで流行った言葉だ。アメリカ西海岸のライフスタイル。小綺麗な格好をした都会的な男。だがよく考えると具体的にどういうスタイルなのかはよくわからないな。仕方がない。

「じいちゃんが若かった頃に流行ったファッションだ。お前の母ちゃんもガーリッシュだのフェミニンだの言ってるだろ」
「あー」

 祥太はよくわからない表情を浮かべたものの、なんとなく納得したようでタタタと居間に戻っていった。なんだったんだ?
 よくわからないからネット麻雀を再開する。それでしばらくするとまた祥太がやってきた。

「ねえじいちゃん、お立ち台って何?」
「お立ち台?」

 お立ち台ってあれだよな、ええとジュアリナ東京とかの。ううん、なんと説明したらいいんだ? まずディスコの説明から始める必要があるのかな。

「昔、大人が踊るところがあってな。今でいうとクラブとかかな」
「うん」
「それで他の人よりちょっと目立つための台があるんだよ。目立ちたい人はそこで踊るんだ」
「運動会の表彰台みたいな奴?」
「ああ、それに近いかも」
「わかった。ありがとう~」

 祥太はタタタと走り去る。
 ああ、ぼんやりしている間に上がりを見逃してしまった。ツモるしかないのか。まあツモれば倍満だからそれはまあいい。仕方がないからリーチをかけよう。

「ねえ、じいちゃん」
「今度はなんだ」
「スケボーって普通にやってたの?」
「スケボー? 俺はやってなかったからわからないがこの間のオリンピックでもやってただろ? 最近流行ってるんじゃないか?」
「ええとそういう技とかじゃなくて、昔は普通に道路をスケボーで移動してたの? 自転車みたいに。学校でスケボーを道路でやってはいけませんって言われてるから」

 記憶を思い出す。
 たしか俺が若かった頃は流行っていたような気はする。だがどうだったかな。そういえば俺は高校の時に映画部だったから色々街の映像を撮っていた気がする。あれを確認すれば、と思ってものすごく嫌な予感がした。そういえば夕食前に母さんがDVDプレイヤーが壊れて映画が見れないといっていて、それで息子が直すと張り切っていた。

 いやでも俺の時代は8ミリだ。DVDで見られるわけがない。と思って再び画面をのぞいたら右家にあがられて投了。負けてしまった。まあネットだから別に負けてもいい。それにしてもなんだ、このぞわぞわと膝裏をくすぐるような嫌な感覚は。
 と思っていると玄関が開く音がする。
 さっき母さんが隣の家におすそ分けをもっていったのが帰ってきたのだろう。そう思うまもなくギャァというすごい声がして慌てて居間に戻って私もギャァという声を上げた。

 私と母さんは高校の時に同じ映画部になって付き合い始めてたのだ。
 そして居間の50インチの大画面でアルミホイルで全身を撒かれて宇宙人の格好をした若かりし俺と妙に大きめのテラテラで真っ赤ないわゆるボディコンとかいうスーツを来て前髪を貧弱にボサボサに上げるパーマで真っ赤な口紅と真っ青なアイシャドウをした若かりし頃の母さんと夕日を背景にちゅーをするシーンだった。
 慌てきった母さんが机を蹴飛ばし茶を撒き散らしながらテレビに突進してコンセントを引っこ抜いてテレビを消した。息子一家は呆然としていたが、この電源を引っこ抜けば消えるシステムは昔から変わないんだな、となんだか妙に遠い気分で思いながらショートしかけた気分で思う。

 そういえばあの自主制作の映画は『アンドロメダ人の告白』、だっただろうか。
 息子よ、古いテープがあったからといって面白半分で復元しちゃだめなんだぞ。

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