あったかい:小さな思い出500字

文字数 525文字

 温かい雨がしとしとと紫陽花を濡らす。
 構えたカメラをパチリとならす。液晶モニタに固定された画面はやはり少しだけ印象が異なった。不思議だなと思いながらクリップに留めていた君彦が撮影した写真をプリントしたものと見て比べる。
 やっぱり少し違う。同じカメラなのにね。

 君彦は写真が趣味だった。
 このカメラだけ残して去年、突然いなくなった。どうしてと思って長い間泣き濡れていて、先月頭にこの縁側でぼんやりしていたときに、不意に雲間から一筋の光が射しこんだ。その時、君彦が撮った一枚の写真を思い出した。だから急いでカメラを持ち出して思わずシャッターを押した。
 君彦が撮った写真の中にこんな風景があったから。

 けれどもそこには君彦の写真となんだか違う、私の写真があった。どこが違うかはよくわからない。でも確かに何かが違うのだ。
 でも、だからこそ君彦がそこにいたんだと感じられた。そしていなくなってしまったことも。

 私と君彦の写真は違っても、同じ風景で繋がっている。この世界を縫い止めたい。君彦が好きだった世界。それから私は君彦が撮った写真を追いかけている。君彦が撮ったのとおなじアングルで今日もパチリと写真を撮る。
 そう思って空を見上げると雨が、晴れた。

Fin.
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