お髭(ひげ)のニール (7) マリアのお家
文字数 1,330文字
道行く人には、ニールのかぶっている紙袋が、コンテルランの真似をしているのだと分かりますが、子犬にそれが分かるはずもありません。
思わず飛びのくニールに、
「あ、ごめんなさい。こら、ラッティール、静かにして」
と、小さな男の子が謝ります。
ニールが子犬のすぐ横を見ると、彼より少し小さな男の子がリードを持って困った顔をしていました。子犬の飼い主は、この男の子で、散歩をさせている途中だったのでしょうね。
ラッティールと呼ばれた子犬の飼い主である男の子も、コンテルランのお話は知っていましたが、さすがにニールの姿を見て異様に感じたのでしょう。何か良くない方向へ話が進む前に、いち早く謝って事態を収拾させようとしたみたいです。
「い、いや。ボクこそ、ごめん」
ニールは何故だか急に恥ずかしくなって、頭をチョコンと下げたかと思うと、一目散にその場を離れました。
あぁ、やっぱり早く何とかしなくちゃ。
ヒーローの仮面をかぶった少年は、友達がお家にいるのをただひたすらに祈りながら、川沿いの道を走り続けます。
それからどのくらいの時間が過ぎたかは、ニールにもよくわかりません。多分、五分やそこらだったと思います。でもこういう時って、時間が経つ感覚が本当にわからなくなりますよね。特に子供のニールにとっては初体験だったようで、まるで魔法にでもかかったような心持ちになりました。
そんな彼にようやく希望の灯火が見えたのは、間もなくの事でした。木々の向こうから、マリアのお家の三角屋根が現れます。ニールは「どうか、マリアが良い解決法を見つけてくれますように」と祈りました。
救世主のお家まであと数十メートルという所、ニールは大きな難問に出くわします。
どうやって、マリアにボクの事を知らせたらいいんだろう?
そうなんです。これは大きな問題です。いつもなら、玄関の呼び鈴を鳴らして普通に彼女のお家へ入れます。でも彼女のお母さんがドアを開いた時、今のこの格好は如何にもヘンテコです。人気絵本の主人公に扮しているとはいえ、見知っている大人相手だと、どうしても気が退けます。”変な子供”と思われてしまったら、もうマリアとは遊ばせてもらえないかも知れません。
おまけに、マリアの部屋は二階なんです。もし一階ならば、こっそり外から部屋に近づいて、窓ガラスをコンコンと叩くっていう方法もありますが、そういうわけにも行きません。窓に石ころを投げて、万が一、ガラスが割れてしまっても大変です。この辺は、パパの気の弱さを受け継いでいるニールです。
だけどこのまま、彼女のお家の周りをウロウロしているわけにもいきません。見るからに怪しい格好です。誰かに見とがめられる恐れだってあります。
「あ、そうだ!」
ニールの頭の中で、名案がキラリと閃きました。彼は近くの繁みに隠れ、急いで髭を巻き付けているトイレットペーパーの芯を、そっとロール状の髭から引き抜きます。長い髭はかろうじて巻き付けていた状態を保っており、それを左手で崩れないよう押さえつけました。
ニールは辺りを見回してから、マリアの部屋の真下に移動します。そしておもむろに、二階の部屋の窓を目掛けてトイレットペーパーの芯を投げました。芯は紙で出来ているので、石よりも柔らかいのです。
思わず飛びのくニールに、
「あ、ごめんなさい。こら、ラッティール、静かにして」
と、小さな男の子が謝ります。
ニールが子犬のすぐ横を見ると、彼より少し小さな男の子がリードを持って困った顔をしていました。子犬の飼い主は、この男の子で、散歩をさせている途中だったのでしょうね。
ラッティールと呼ばれた子犬の飼い主である男の子も、コンテルランのお話は知っていましたが、さすがにニールの姿を見て異様に感じたのでしょう。何か良くない方向へ話が進む前に、いち早く謝って事態を収拾させようとしたみたいです。
「い、いや。ボクこそ、ごめん」
ニールは何故だか急に恥ずかしくなって、頭をチョコンと下げたかと思うと、一目散にその場を離れました。
あぁ、やっぱり早く何とかしなくちゃ。
ヒーローの仮面をかぶった少年は、友達がお家にいるのをただひたすらに祈りながら、川沿いの道を走り続けます。
それからどのくらいの時間が過ぎたかは、ニールにもよくわかりません。多分、五分やそこらだったと思います。でもこういう時って、時間が経つ感覚が本当にわからなくなりますよね。特に子供のニールにとっては初体験だったようで、まるで魔法にでもかかったような心持ちになりました。
そんな彼にようやく希望の灯火が見えたのは、間もなくの事でした。木々の向こうから、マリアのお家の三角屋根が現れます。ニールは「どうか、マリアが良い解決法を見つけてくれますように」と祈りました。
救世主のお家まであと数十メートルという所、ニールは大きな難問に出くわします。
どうやって、マリアにボクの事を知らせたらいいんだろう?
そうなんです。これは大きな問題です。いつもなら、玄関の呼び鈴を鳴らして普通に彼女のお家へ入れます。でも彼女のお母さんがドアを開いた時、今のこの格好は如何にもヘンテコです。人気絵本の主人公に扮しているとはいえ、見知っている大人相手だと、どうしても気が退けます。”変な子供”と思われてしまったら、もうマリアとは遊ばせてもらえないかも知れません。
おまけに、マリアの部屋は二階なんです。もし一階ならば、こっそり外から部屋に近づいて、窓ガラスをコンコンと叩くっていう方法もありますが、そういうわけにも行きません。窓に石ころを投げて、万が一、ガラスが割れてしまっても大変です。この辺は、パパの気の弱さを受け継いでいるニールです。
だけどこのまま、彼女のお家の周りをウロウロしているわけにもいきません。見るからに怪しい格好です。誰かに見とがめられる恐れだってあります。
「あ、そうだ!」
ニールの頭の中で、名案がキラリと閃きました。彼は近くの繁みに隠れ、急いで髭を巻き付けているトイレットペーパーの芯を、そっとロール状の髭から引き抜きます。長い髭はかろうじて巻き付けていた状態を保っており、それを左手で崩れないよう押さえつけました。
ニールは辺りを見回してから、マリアの部屋の真下に移動します。そしておもむろに、二階の部屋の窓を目掛けてトイレットペーパーの芯を投げました。芯は紙で出来ているので、石よりも柔らかいのです。