お髭(ひげ)のニール (6) 打開策

文字数 1,370文字

マリアというのは、ニールを含む仲良し三人組の一人である女の子です。とても頭が良く、いつも三人組の参謀役でした。

だけど、ニールは再び悩みます。マリアのお家に行くのは良いとして、どうやってそこまで行こう? こんな変な顔で、外を歩いたり出来るもんか。だけどこのままじゃ、ママが……。

そんな時、絵本の表紙がニールの目に留まりました。彼がお気に入りの絵本です。居間へ放りっぱなしになっていたのですね。

「そうだ、ボクがコンテルランになればいいんだ!」

一条の光が差し込んだかのように、ニールが叫びます。

え? コンテルランって、何者かですって? それは、子供たちに大人気の絵本の主人公です。彼は、マスクをかぶって悪を退治していくヒーローなんですね。

ニールは長いお髭に足を取られないように気をつけながら、急いで台所へと向かいました。そこで、買い物をした時に商品を詰めてくれる紙の袋を見つけます。

ニールはその紙袋の表面に、つたないながらもコンテルランのマスクと同じ模様を描きました。続いて目と口の所に、穴をあけます。これをかぶって、誤魔化そうというわけですね。

次に彼がやった事は、アゴから伸びた髭をトイレットペーパーの芯にクルクルと巻き上げて、それを長めの輪ゴムで固定する事でした。今日の夜、パパと工作をする約束をしていたニールは、その時に使う材料の事を思い出したのです。

これで準備万端です。一見奇妙に見える出で立ちですが、多くの人は「あぁ、子供がコンテルランごっこをしているのだな」と思うでしょう。ニールは我ながら冴えているな、とニンマリしました。

彼は自分用のバッグを、部屋から持って来ます。色々なものが入っています。まぁ、中身については、いつの日にかお話しする機会もあるかも知れません。今は取りあえず、新しいハンカチとハサミ、問題の髭生え薬を詰め込みました。友達のマリアは、子供としては大変な物知りです。ニールの知らない事もいっぱい知っているので、薬のビンに書いてある文字を全部読める可能性大なんです。

ニールは家中の戸締りをして、いちいち指先確認をします。ママの教育が行き届いているのですね。パパは時々、いくつかの戸締りを忘れてしまうので、ママにとっても怒られています。それに比べて、立派なものです。

ニールは合鍵のしまってある戸棚を開けて、それをポケットに入れました。そして玄関ドアを閉めた後にガチャリ。さぁ、つつましやかながも、艱難辛苦(かんなんしんく)の旅が始まります。

仮面のヒーロー・コンテルランのマスクをかぶった珍妙な男の子は、早足で友だちマリアのお家へと向かいます。ゆっくり歩いている余裕はないし、かといって全速力で走っても変に思われると考えたのでした。

案の定、すれ違う人たちは必ず振り返ります。でも何も言わずに通り過ぎて行きました。「あぁ、コンテルラン」と、つぶやく人もいます。ニールの作戦は、見事成功したようですね。

彼が愛しい我が家を旅立って、十五分くらいたった頃でしょうか。ニールは橋の上を歩いていました。ここから川沿いに少し下っていくと、マリアのお家があります。

ワンワン!

橋を渡って向こう岸へ行こうとしたニールは、思わぬ声にビックリします。辺りを見回すと、頭にスッポリかぶっている袋に開けた二つの穴からは、可愛い子犬の姿が確認できました。
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