パパの魔法 (12) パパの秘密 

文字数 1,058文字

翌日の朝、パパは誰よりも早く起きました。お寝坊さんのパパにしては、大変珍しい行動です。そして寝間着のまま外へ出て、いつもの呪文を唱えました。

魔力は十分回復していて、パパはグングン空へと駆け上がっていきます。そして、お家の屋根裏部屋に付いている窓の所まで難なくやって来ました。窓枠の一メートルくらい上には構造上、小さな隙間があり、そうですね、大き目の筆箱くらいの物なら雨風に当たらず隠しておけそうです。

「さてと……」

パパは隙間に手を入れて、渋い光を放つステンレスの小箱を取り出しました。

これ、なんだと思います? 実はパパの秘密の貯金箱なんです。仕事の出来が良かった時などは、依頼主が少し余分に支払いをしてくれる時があります。そういうお金を”ママには報告せず”密かにここへしまい込んでいたんです。

実はなじみの古道具屋に、とっても気になる商品が並んだので、買いに行こうと思ってたのですね。その為の資金というわけです。

さぁ、朝早いとはいえ、グズグズしているわけには行きません。早くしないとママが起きだして来てしまいます。パパは、手早く銀色の貯金箱のふたを開けました。

「はい?」

箱の中を見たパパは、一瞬何が起こったのかわかりませんでした。黄緑色の光の輪がなければ、地上へと真っ逆さまに落ちていたかも知れません。

ないのです。パパがコツコツ貯めていたお金が!

小さい箱の中です。何べん見ても何もない事に変わりはありません。でもパパは、指で何度も箱の中を触ってみたり、とにかくパニックになってしまいました。

隠し場所が場所なだけに、誰かに取られるなんて有りえませんし、中身だけ落ちてしまうわけもありません。また屋根裏部屋の窓から手を伸ばしたって、届く距離ではないので、パパには事態が全く飲み込めませんでした。

ただ、いつまでもここに居るわけにいきません。ママやニールが起き出してくる時間が迫っています。パパはグルグルになった頭を取りあえずは放っておいて、急いで下へと降りました。

「パパ。今日は早いわね」

お家に入ると、既に寝間着からエプロン姿に着替えていたママが言いました。

「う、うん。珍しく、早く目が覚めちゃってさ。少し散歩をしてたんだ。ほら、君が買ってくれた、新しい靴を早く足に慣らしたくてね。

いや、とてもいい靴だよ。本当にありがとう」

パパが、見え透いた嘘をつきます。でも、根が正直者で、普段は気が弱いパパにはこれが精一杯です。

「あら、お礼を言う必要なんてないわよ。だってそれ、パパのお金で買ったんだから」

ママが、しれっと言いました。
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