扉の奥の秘宝 (9) 接客係

文字数 1,200文字

「それでだな……」

老店主は、自分のカップに二杯目のコーヒーをつぎながら、再び物語をはじめました。


若き細工師フューイと、中年細工師ゾルウッドは、鍵のついている場所を丹念に調べ始めます。こういった扉は、鍵穴の部分の周りに色々な仕掛けがある場合が多いので、専用の道具、聴診器のようなものや、魔法の手袋を使って、内部の構造を探っていきました。

それらの情報を元に、どうやって解錠するかの作戦を練るのです。交代交代で三時間ばかりが過ぎたあたりでしょうか。まずはフューイが「オレは、もういい」と言って、宝物棟の外へと向かいました。

その不愛想な声を聞きながら、ゾルウッドは

「俺は、もう少し続けるよ」

と応じて、扉を更に調べます。

フューイは三階に用意された部屋の机で、明日からの計画を練り上げます。言い忘れていましたが、細工師二人は用意されたクジを引き、フューイが先に挑戦する事に決まりました。これはフューイにとっては、幸先の良い出来事です。だってゾルウッドが先攻だった場合、彼が一日目で開けてしまったら、フューイは挑戦するチャンスすら失ってしまうのですからね。

作業の合間に、ふと窓の外を見ると、ゾルウッドが宝物庫のある建物から帰って来るのが見えました。しかし、こちらへまっすぐ戻る感じではありません。何やらあちこちをキョロキョロと見回しています。ちょっとした、お上りさんのようにも見えますね。

フューイは疑問に思いましたが「まぁ、オレには、関係ないか」と呟き、備え付けのお湯を沸かす魔道具とコーヒーメーカーで、つかの間の休憩を楽しみました。

トントン。

つい、うたた寝をしていたフューイが、ノックの音で目覚めます。ドアを叩くのが誰かよりも、彼はまず自分の身の回りに目を配りました。何か失くなったものはないか、物が移動していたりしないか。この若い細工師、かなり用心深い性格のようです。

「フューイさん?」

ドアの向こう側から、女性の声がします。どうやら、先ほど二人を宝物庫まで案内した女性スタッフのようでした。

解錠して、ドアを開くフューイ。

「何か用か?」

長身の細工師が、ぶっきらぼうに尋ねます。もうちょっと、優しく話せないものかと思いますが、まぁ、これが彼の性分なので仕方がありません。

「先ほどは、どうも。ボンシック様に細工師お二人のお世話をするよう、今しがた正式に仰せつかりました、レネフィルと申します。何かお困りの事は、ございませんか?

あれば、何なりとお申しつけください」

末端のスタッフとはいえ、さすが国の施設へ務めているだけの事はあります。きちんとした訓練を受けているようですね。

「特にない。あれば言うので、用がなければ放っておいてくれ」

あらあら、身もふたもない言い方。でもレネフィルはニッコリ微笑むと、

「お邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした。では、ご用がある時はご遠慮なく」

と言って、お辞儀をしてから立ち去りました。
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