お髭(ひげ)のニール (3) 秘密の小ビン

文字数 1,270文字

「う~ん、新しいものは何にもないなぁ……」

朝の騒動の時に見た”何か”は、記憶違いだったのかも知れないと思ったニールは、扉を閉めようと再び手をかけました。

その瞬間です。奥の方に、きらりと光る何かがありました。ニールがもう一度扉を全開にして外の光を十分に取り入れると、見慣れないアイテムが一品。

それは妖しげな光を放つ、綺麗なガラスの小ビンでした。

「なんだろう、これ」

ニールは、迷いなく手を伸ばします。不自由な王様が、唯一見つけた宝物かも知れないのですからね。

小ビンを取り上げて、しげしげと見つめるニール。紫色の透明な化粧ビンのような形で、中にはいっぱいの液体が詰まっています。まだ全然、使われていない状態のようですね。

ニールは明るい所へビンを持って行き、華やかな絵が描いてあるラベルを見つめます。

「ひ……髭(ひげ)が……、えぇっと……」

小さいヒト妖精は、必死に書いてある文字を読もうとしますが、いかんせん、彼にはまだ読めない単語がふんだんに使われていました。ただ、何かの薬である事は間違いなさそうです。

「髭……、髭……。あ、そうだ!」

ニールが、突然叫びました。

「思い出した。たしかあの時、パパが髭を生やすのなんのって言ってたっけ。それをママが反対して……」

卵焼きの濃厚な味を口いっぱいに感じていたニールの耳に入って来た、パパとママの会話が彼の脳裏に蘇えります。

まぁ、かいつまんで言えば、次のような内容の話でした。

はじめ、突然パパが、髭を生やしたいとママに言いました。理由ですか? それはパパが童顔、つまり歳の割りには子供っぽい顔をしているからです。ママはその顔が大好きでしたが、パパは一人で「高いところ屋さん」をしているヒト妖精です。童顔は、商売相手に甘く見られる傾向があるみたいなんですね。

だから貫録をつけるため、髭を生やそうって事なんです。だけど、髭を生やすにはとても長い時間が必要です。面倒くさがり屋のパパは、それを「髭の生える薬」で、一瞬で生やそうと”魔女の薬局”で、それなり以上の値段がするこの薬を買ってきたというわけなんです。

でも、それを知ったママはカンカンです。大好きなパパの顔が髭で”汚れて”しまうなんて我慢できません。少なくとも、ママにはそう思えたんです。あと、高価な薬をママに相談もなく買ってきた事。ママには、それも許せませんでした。

もっともパパからすれば、事前に相談をしてもOKが出るとは思えなかったので、事後承諾を狙った作戦だったのですが、見事に玉砕してしまったわけです。

一連のやり取りを思い出したニール。彼は察しの良い子供だったので、今自分が手にしている薬が、毛生え薬ならぬ「髭生え薬」である事を悟りました。

面白そうだなぁ。

子供らしいイタズラ心が、ニールの胸に芽生えます。

これをボクが使ったら、どうなるだろう? 子どもなのに立派なお髭が生えて来るんだろうか。パパやママは、ビックリするかな?

なんて、都合の良い想像を頭の中で巡らせます。やっぱりまだ、パパやママにかまってほしい年頃です。後先の事なんて、あまり考えません。
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