(八)
文字数 1,882文字
「俺の
「他の者を交えず、一人だけで
「その可能性もあるな。それに座林は、事故で死んだ棟梁の家族の面倒をみるふりをしながら、実は付き合いのある突厥の部族長に、子供たち、つまりお前と妹を売り渡した、ということのようだ」
「その相手はクルト・イルキンです。
「なるほどな、そんなことだったのか……。母上については、もっと辛い話になる。子供たちが突厥に売られ、自分は座林の牛耳る
タンは、叫びだしたくなるような気持を必死で抑えた。
「俺は、この町に来なければよかった……。どうして来てしまったのか、何を望んでいたのか、自分でもわからない。自分の過去を知りたいとは思ったが、薄々、こんな酷い話を想像しないわけではなかったのに」
「お前は、自分が奴隷として酷い経験をし、心も傷つき、今もその後遺症に悩まされている。そうなった原因を探してみたかったのだろう。真相がわかった今、お前はどうしたいのだ?」
「俺は今、座林を、心底、殺したい。最近の俺は、賊に襲われても相手を殺せなかった。どうしても手が動かなくなるのだ。それでも、座林を前にしたら、俺は殺せると思う。親父もおふくろも、それを望むだろう」
「タンのお父さんやお母さんは、タンが
「やめてくれ、そんな話。俺が仇を討たなくて誰が仇を討つんだ。それに悪い奴は悪いことをし続ける。だから殺して何が悪い」
タンはまた発作が起こりそうな予感がした。それを察してか知らずにか、剛順はそれ以上は問いかけず、静かに目を
剛順が静かに目を開き、ゆっくり口を開いた。
「座林は死んだ。さきの
そこで剛順は、また瞑目した。タンは何が起こったのかを理解しようとしたが、頭が混乱して何も言えなった。また剛順がゆっくりと口を開いた。。
「
タンは、ぐるぐると考えが巡って、頭が変になるような気がした。剛順はさらに続けた。
「世の中にはお前と仇しかいないわけではない。他の者、周りのものとの連関の中にある。他の者とのかかわりを気にする限り、心の
タンは、恨みを晴らすことは、どういう意味があるのだろうかと思い悩んだ。恨むべき相手は既に死んだという。だが、もし生きていたら、自分は
そう思ったタンに、突然、国境の村での略奪と虐殺の情景がまざまざと浮かんできた。心の中に無理矢理に押し込めていた情景、そこではタンこそが、あの村人から見れば仇を討つ相手であるという事実……タンは
剛順は、タンの心を見透かしたように、どこまでも静かに続けた。
「お前の発作は、死ぬほど恐ろしい目にあった時の恐怖が原因だ。殺されかけた恐怖よりも、殺しかけた恐怖の方が勝っているのだろう。この町は、お前が