2.謀略の渦中

文字数 2,353文字

妖精王・ダイヘルムといえば、魔界でも随一の穏健派では・・・

それが、何故戦争に?

むしろ、何故お前たちが知らんのだ。

―――というか、本当に知らなかったのか?

初耳です。
貴様というヤツは・・・

―――っていうか、なんだか陰謀めいたものを感じるぞ!

お前が仕組んだんじゃないだろうな、トリィ?

別乃世さん!

いくらなんでもそれは―――

―――ふむ。

正直、争いの火種をバラまくつもりでここ10日程この国の周囲を探ってはいたんだがな。


あまりの平穏さに絶望しかけていたところに、この開戦の報だ。

「貴様もなかなかやるではないか」と見直していたところだったんだが・・・

―――言い過ぎ・・・で・・・す?
さらっととんでもないこと言ったぞ今!?
―――まさか、当事者である貴様が何も知らんとはな・・・

え?

じゃあ、本当にお前の仕業じゃないの?

アタシだったら開戦までの猶予など与えず、敵陣に直接貴様を放り込むわ。
ぬぅ・・・ヒドいがトリィっぽい・・・!
―――ですが、それならば本当に何故このようなことに・・・
・・・まさか、お前もアタシを疑っていたのか?

え?

いえ、まぁ、その・・・それはそれでトリィらしいかなぁ、とは・・・少しだけ?

・・・まぁいい。

戦争自体は望むところだが、誰かに踊らされているのなら気に食わん。


暗躍しているヤツがいるのならば炙り出してやる。


―――互いの情報を交換する必要があるな。

ひと息つこう。

アーマ、すまんが茶を淹れてくれ。







それで・・・何故私までここに?



アーマがお茶の準備をしている間に呼び出されたのは天使メンタイ・ハクマイナー。

かつて別乃世の命を狙い、死闘を繰り広げた断罪天使である。

今は故あって、別乃世の館の一角に住み込んでいる。



現状で一番怪しいのが貴様だからな。
妖精との戦争・・・

仕組んだとして、私に利益があるとは思えませんが?

まぁな。

だが、天使の扱う神霊術は我々にとっては未知数だ。

アタシたちの知らないような術を持っているかも知れん。


貴様がそこのアホに食われた「神性」を取り戻そうとしている以上、手放しで信用する気にはなれんからな。


どうせヒマなんだろう?

まぁ付き合え。

すまんな、ハクマイナー。
・・・ならば、早く済ませてください。

よし、では始めよう。

皆席につけ。


・・・さて、まずはアタシの方から話そうか。

お前たちから引き出せる情報は少なそうだ。

むしろゼロと思っていだいて差し支えない。
・・・・・・まぁいい。



アーマが用意してくれた紅茶を一口啜り、トリィは話を進めた。



まずはアタシが見てきたこの国周辺の状況だ。

アーマ、お前も地図で見たことはあっても実際に見て回ったことはないだろう?

あ、はい。

私が知っているのは学園のあった中央都市ぐらいですので。

その辺に関しては、まぁアタシも似たようなものだ。


ざっと説明していくぞ。

まずは北。

北側にはたしか、森がありましたね。
そう。

反対側に抜けようとしたら、何日掛かるか分からんぐらいの深い森だ。


当然整地された道などない。

余程のことがない限り、ここを通り抜けようとするバカはいないだろう。

北から攻められる心配はなしか。
森の中も少し探りを入れてみたが、国とは呼べない程度の規模の集落が点在しているだけだ。
森にいるのは、基本的には縄張り意識の高い閉鎖的な種族が多いので、森に入りさえしなければ危険はないですね。
まぁ問題はないだろう。


次に南。

しばらく続く荒野を抜けると海に出る。

おお、海とかあるのか。
あ、海と言っても、おそらく別乃世さんの考えていらっしゃるようなものではありませんよ?
そうだな。

海の中には魚人や海魔、海竜などが棲みついている。

浅瀬で水遊びする程度で死ぬことはないだろうが、気軽に近づけるような場所ではないな。

マジか。
魚人などは陸に上がって来ることも多いのでそれなりの交流はありますが、逆にこちらから海の中に潜っていくことはありませんので、彼らの生態は良く分かっていません。
海から出てきた悪魔や神魔も居るが、海の中の状況については多くを語らない。

海の中は別世界・・・異界と思っていいだろう。

魔界から見てさらに異界とか、何それ怖い。
ですが、彼らが地上に攻め込むメリットは全くありませんので、こちらから近づかなければ争いになることはまずありません。
なるほど、海もまぁ安全と。
あとは東西だが、東については長い街道があるだけだ。

まっすぐ行くと中央都市に辿り着く。

ああ、アーマとトリィが通ってた聖魔学園か何かがある。
はい、多種多様な種族が集まる交易都市です。

色々なお店もたくさんありますよ。

それはちょっと面白そうだな。

是非行ってみたい。

では今度一緒にいきましょうか。
妖精王国との戦争で貴様の魂がカケラでも残っていればな。
・・・で、残る西側がその妖精王国か。
妖精王国フェアリア・フォーレスト。

中央都市などの交易都市を除いた単一国家としては、おそらく魔界一の規模を誇る。

魔界に二つある妖精王国の温厚な方だ。

二つ?
血生臭いのがもうひとつある。

が、今は忘れろ。

関係ない。

トリィも言ったように、妖精王国・・・通称「フェアリア」は、魔界で最も大きな都市です。


何よりも特筆すべきは、武力による問題解決を望まない「平和主義国家」であること。

これは魔界においては非常に珍しいことです。

魔界で平和主義か・・・

確かにピンと来んな。

・・・で。

その平和主義国家から宣戦布告されている、世にも珍しい男が貴様というわけだ。

・・・オレ、何かした?
むしろ何をすれば開戦に漕ぎ着けるのか、こっちが教えてほしいぐらいだ。
存在していること自体が冒涜だから、では?
オレは邪神か何かか!?
・・・いや、貴様に関わった女神、悪魔、果ては天使までもが破滅に追いやられているからな、あながち間違いではない。
わざとじゃないのに・・・
余計にタチが悪いわ!
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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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