16.最終局面・卑しき魔王の咆哮

文字数 2,963文字

「これはなんと!

伝説の英雄三人が!

突如として現れた謎の巨人に踏み潰されてしまいました!」

なんじゃアレは!?
ものすごい怨念を感じます・・・!

余程の無念を持った者かあるいは・・・怨念の集合体?

とんでもないもん飼ってるな!
あんなモン身に覚えもないわ!

勝手に掘り起こしたのはお前のトコのあの悪魔だろうが!







おぉぉぉぉ・・・
ずぅん・・・ずぅん・・・
足跡にさっきの三体の痕跡がない・・・

吸収されたか?


ならば、アレは怨念の集合体ということで間違いなさそうだな。

集合体・・・?

闘技場とはいえ、我が国にあれほどの怨嗟が潜んでいたと・・・?







ずしぃん・・・!
・・・・・・
・・・止まった?



そのままモルフォリアの前まで進むものと思われた巨人が歩みを止める。

その表情は読み取れないが、どこか呆けたようにただ宙を見つめているように感じられる。



おい、どうした戦え!

敵はそこの妖精だ!

(ぐるん)
うぉ!



トリィの呼び掛けに反応し、ぐるりと顔を向ける巨人。

どこに焦点があっているのかも解りかねるが、その複数の目はトリィの姿を捕らえている。

嫌悪を覚える視線を感じ、トリィは身を震わせた。



な・・・なんだ、コイツは?
ほ・・・



暫しその姿を吟味した後、巨人が初めて呻き以外の言葉を発した。



細身ダガ、引き締マったぼでい・らイン・・・

乳ガ足らヌガ、ソレモまタ・・・


ヨシ、ヨメニ来い。

・・・・・・
・・・・・・







・・・・・・
・・・・・・
え、と・・・

今、たしか・・・

なんか言ったな。

しかも、なんか聞き覚えのあるようなフレーズを。

・・・ダイヘルム王?
あ・・・

あー・・・そうか?


あんな化け物が明確に言葉を話すとは思えんが。

聞き間違いじゃないか?

あー・・・

そうだな、そんなはずはないな。







ドウしタ、イヤカ?

なラバ一晩デモ、ソレモだメ、ナらイチ・・・イヤせメテ三時間!


ワシノ寝室ニ、来ルガいイ!

・・・なんだコレは。







・・・ダイヘルム?
ん?あー・・・

喋っておるな、意外と流暢に。


しかしなんだ、下品なヤツめ。

一体誰の残留思念だ?

・・・なるほど、誰かは分からないと。







・・・ナゼダ!

ナぜダメナンだ!


何モ揉みシダカせロト言っテイルワけデハナいノだダゾ!


チョっト触ルダケ・・・

セめテ三ツ揉ミグラいハ良イだロウ!?


ワしヲ誰ダト思っテイる!


ワしハ国おぶらぁ!?

どっごぉぉぉん!



巨人が何やら積もる不満をぶちまけ出した中、その後頭部に思い切り炸裂魔弾が叩き込まれる。



そこまで。

お黙りなさい、えー・・・「コクオブラァ」!

・・・コクオブラァ?
そうコクオブラァ。

今正しくあの化け物がそう名乗りました。


フェアリア・フォーレスト王家にのみ密かに語り継がれる伝説の古魔王。

ただのお伽噺と思っていましたが、よもやこのような場所に封印されていたとは・・・


いや、アレはどうみても貴様の国の・・・
コクオブラァです。







「こ・・・これは思わぬ展開!

突如として現れた巨人の正体は、闘技場に染み付いた怨念の塊!


しかもどうやらダイ・・・うひゃおぅ!

どぉーん!
コクオブラァ・・・ですわよね?
「し、失礼!

我が国の王家に伝わる古の魔王、コクオブラァです!」

そうは言っても魔界の話だから、これに言及するつもりはなかったんだが・・・


貴様ら本当に平和主義か?







お、おぉ、あれこそまさしくコクオブラァ!

王家に語り継がれてきた古えの魔王が、よもやワシの眼前に現れるとは!

・・・この国を建国されたの、ダイヘルム王ですよね?
お?

・・・おう。

伝説の?古魔王?

・・・コクオブラァ?

コ、コクオブラァ・・・
完全にアンタだろ、アレ!







ぐ、ぬ、あぁぁぁ!
砕いた頭が再生した・・・?
ああ見えても正体は怨念の集合・・・群体だからな。

形はあるがその本質は無数の怨霊だ。

ヲ、ヲ、ヲマえ・・・
美シい・・・

ソシて出過ギズ控エずノ理想ノぼディ。


由、ワシノヨメニ来い。

はいはい、お黙りなさいな。
どっごぉぉぉん!
ぐぶらぁ!



戯言を放つ巨人の頭を再度炸裂魔弾で吹き飛ばすモルフォリア。

が、先程と同様、何事もなかったかのように元通りとなる。



あー・・・
ちっ・・・埒があきませんわね。


貴女も!戦わせるためにコレを呼び出したのでしょう?

下らない戯言を言わせる暇を与えず、さっさと掛かって来させなさいな!

それについてはまぁ、アタシは困らんから言うことを聞く必要もないんだが・・・


どうもな、さっきから命令の思念は飛ばしてはいるんだが・・・

ヤツめ、それを遮断しているようだ。

・・・それはつまり?
制御不能だな。
はぁ!?
ヨく見レバ・・・
む?



何に気付いたのか、巨人はトリィ達から視線を外し、ぐるりと周囲を見渡した。



ナかナカ良イオんナがいッパイイるジャあナいカ。

ヨりドリミドり・・・


ドォレ?



そう言いながら、ゆっくりと手を伸ばす。

その先は、観客席・・・



!まずい!
どん! どん! どん!



巨人が何をするつもりなのか、いち早く察知したモルフォリアが炸裂魔弾を放つ。

観客席に伸ばした腕が千切れかけるがそれも一瞬のこと、頭部と同じくあっという間に修復される。



邪魔ヲ・・・


スるナァ!



巨人が再びモルフォリアに向き直る。

今度は敵意を剥き出しにして。



・・・こうなっては仕方がありません。


一刻も早く奴を止めなければなりません。

どうか、貴女も力を貸してください。

勝手にやってろと言いたいところだが・・・

アタシの目的はお前とやり合うことだったからな。

このまま続けるわけにもいくまいし。


―――いいだろう、協力してやる。

ヤツの言動も不愉快極まりないことだしな。

貴女が制御できてさえいれば問題ないことでしたがね。

そもそも何故制御不能などということに・・・

ふむ、推測できる理由としてはひとつ・・・というか、これしか考えられない。


ヤツより先に出てきた三人の英雄とかいうのが踏み潰されて跡形も残っていない。


多分ヤツに吸収されたんだろう。

そして、その中にひとり居ただろう?

・・・!

「あらゆる魔術の祖」・・・

ああ。

「ウィザード」。

たいそうな二つ名だが、ソイツがアタシの死霊術を阻害している可能性が高い。

では、それさえどうにかすれば・・・
制御はできるだろう。

が、どうせならもうヤツ自身を破壊してしまった方が手っ取り早い。

破壊?

可能なのですか?

群体だからキリがない、それは正しい判断だ。

だが、群であるということは、それをまとめる「核」がある。


今回のケースで言えば、発言内容からして核となっているのは間違いなくダイヘルムの念。

それを破壊してしまえば、残った念は散り行くのみだ。

成る程・・・あ、いえ、ダイヘルムの念?

一体何をおっしゃるのやら?

いつまでやる気だ、その小芝居。
良いのです、認めさえしなければ疑惑のままです。
・・・まぁ、その件に関してはもう何も言うまい。
よろしい。

それで、その「核」とはどこに?

場所は決まってはいない。

が、その怨霊の本能で位置は決まる。

大概の場合は頭か心臓だ。


頭は二回ほどお前が砕いたが、核の気配は感じなかった。

となれば残るは心臓だ。

奴の胸部を破壊して、核の位置を突き止める。


その後は?

そのまま単純に潰してしまってよろしいので?

変に仕留め損なうと警戒されて厄介だ。

確実にやるためにアタシの除霊術を叩き込む。

除霊術?

「死霊使い」が?

呼び出すだけが術じゃない。

「祓い」もできてこその死霊術士だ。

成る程、了承しました。

それでは・・・

ああ、不快な汚物の後始末だ!
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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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