16.最終局面・卑しき魔王の咆哮
文字数 2,963文字
「これはなんと!伝説の英雄三人が!
突如として現れた謎の巨人に踏み潰されてしまいました!」
ものすごい怨念を感じます・・・!
余程の無念を持った者かあるいは・・・怨念の集合体?
あんなモン身に覚えもないわ!
勝手に掘り起こしたのはお前のトコのあの悪魔だろうが!
足跡にさっきの三体の痕跡がない・・・
吸収されたか?
ならば、アレは怨念の集合体ということで間違いなさそうだな。
集合体・・・?
闘技場とはいえ、我が国にあれほどの怨嗟が潜んでいたと・・・?
そのままモルフォリアの前まで進むものと思われた巨人が歩みを止める。
その表情は読み取れないが、どこか呆けたようにただ宙を見つめているように感じられる。
トリィの呼び掛けに反応し、ぐるりと顔を向ける巨人。
どこに焦点があっているのかも解りかねるが、その複数の目はトリィの姿を捕らえている。
嫌悪を覚える視線を感じ、トリィは身を震わせた。
暫しその姿を吟味した後、巨人が初めて呻き以外の言葉を発した。
細身ダガ、引き締マったぼでい・らイン・・・乳ガ足らヌガ、ソレモまタ・・・
ヨシ、ヨメニ来い。
なんか言ったな。
しかも、なんか聞き覚えのあるようなフレーズを。
あ・・・
あー・・・そうか?
あんな化け物が明確に言葉を話すとは思えんが。
聞き間違いじゃないか?
ドウしタ、イヤカ?なラバ一晩デモ、ソレモだメ、ナらイチ・・・イヤせメテ三時間!
ワシノ寝室ニ、来ルガいイ!
ん?あー・・・
喋っておるな、意外と流暢に。
しかしなんだ、下品なヤツめ。
一体誰の残留思念だ?
・・・ナゼダ!ナぜダメナンだ!
何モ揉みシダカせロト言っテイルワけデハナいノだダゾ!
チョっト触ルダケ・・・
セめテ三ツ揉ミグラいハ良イだロウ!?
ワしヲ誰ダト思っテイる!
ワしハ国おぶらぁ!?
巨人が何やら積もる不満をぶちまけ出した中、その後頭部に思い切り炸裂魔弾が叩き込まれる。
そこまで。
お黙りなさい、えー・・・「コクオブラァ」!
そうコクオブラァ。
今正しくあの化け物がそう名乗りました。
フェアリア・フォーレスト王家にのみ密かに語り継がれる伝説の古魔王。
ただのお伽噺と思っていましたが、よもやこのような場所に封印されていたとは・・・
「こ・・・これは思わぬ展開!突如として現れた巨人の正体は、闘技場に染み付いた怨念の塊!
しかもどうやらダイ・・・うひゃおぅ!」
「し、失礼!我が国の王家に伝わる古の魔王、コクオブラァです!」
そうは言っても魔界の話だから、これに言及するつもりはなかったんだが・・・
貴様ら本当に平和主義か?
お、おぉ、あれこそまさしくコクオブラァ!
王家に語り継がれてきた古えの魔王が、よもやワシの眼前に現れるとは!
・・・この国を建国されたの、ダイヘルム王ですよね?
ああ見えても正体は怨念の集合・・・群体だからな。
形はあるがその本質は無数の怨霊だ。
美シい・・・ソシて出過ギズ控エずノ理想ノぼディ。
由、ワシノヨメニ来い。
戯言を放つ巨人の頭を再度炸裂魔弾で吹き飛ばすモルフォリア。
が、先程と同様、何事もなかったかのように元通りとなる。
ちっ・・・埒があきませんわね。
貴女も!戦わせるためにコレを呼び出したのでしょう?
下らない戯言を言わせる暇を与えず、さっさと掛かって来させなさいな!
それについてはまぁ、アタシは困らんから言うことを聞く必要もないんだが・・・
どうもな、さっきから命令の思念は飛ばしてはいるんだが・・・
ヤツめ、それを遮断しているようだ。
何に気付いたのか、巨人はトリィ達から視線を外し、ぐるりと周囲を見渡した。
ナかナカ良イオんナがいッパイイるジャあナいカ。ヨりドリミドり・・・
ドォレ?
そう言いながら、ゆっくりと手を伸ばす。
その先は、観客席・・・
巨人が何をするつもりなのか、いち早く察知したモルフォリアが炸裂魔弾を放つ。
観客席に伸ばした腕が千切れかけるがそれも一瞬のこと、頭部と同じくあっという間に修復される。
巨人が再びモルフォリアに向き直る。
今度は敵意を剥き出しにして。
・・・こうなっては仕方がありません。
一刻も早く奴を止めなければなりません。
どうか、貴女も力を貸してください。
勝手にやってろと言いたいところだが・・・
アタシの目的はお前とやり合うことだったからな。
このまま続けるわけにもいくまいし。
―――いいだろう、協力してやる。
ヤツの言動も不愉快極まりないことだしな。
貴女が制御できてさえいれば問題ないことでしたがね。
そもそも何故制御不能などということに・・・
ふむ、推測できる理由としてはひとつ・・・というか、これしか考えられない。
ヤツより先に出てきた三人の英雄とかいうのが踏み潰されて跡形も残っていない。
多分ヤツに吸収されたんだろう。
そして、その中にひとり居ただろう?
ああ。
「ウィザード」。
たいそうな二つ名だが、ソイツがアタシの死霊術を阻害している可能性が高い。
制御はできるだろう。
が、どうせならもうヤツ自身を破壊してしまった方が手っ取り早い。
群体だからキリがない、それは正しい判断だ。
だが、群であるということは、それをまとめる「核」がある。
今回のケースで言えば、発言内容からして核となっているのは間違いなくダイヘルムの念。
それを破壊してしまえば、残った念は散り行くのみだ。
成る程・・・あ、いえ、ダイヘルムの念?
一体何をおっしゃるのやら?
場所は決まってはいない。
が、その怨霊の本能で位置は決まる。
大概の場合は頭か心臓だ。
頭は二回ほどお前が砕いたが、核の気配は感じなかった。
となれば残るは心臓だ。
奴の胸部を破壊して、核の位置を突き止める。
その後は?
そのまま単純に潰してしまってよろしいので?
変に仕留め損なうと警戒されて厄介だ。
確実にやるためにアタシの除霊術を叩き込む。
呼び出すだけが術じゃない。
「祓い」もできてこその死霊術士だ。
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