15.第三回戦・悪魔の術計、妖魔の輪舞

文字数 3,139文字

それでは―――!
どんっ!



開始の合図を受け、背に伸ばした蝶の羽根を羽ばたかせて上空へと舞い上がるモルフォリア。



ふん、空中戦か?
ばさぁっ!



それを認めたトリィが、腰から生やしたコウモリ状の羽根を羽ばたかせて後を追う。



「さぁ、始まりました最終戦!


ここで会場の皆さまに捕捉説明致します!

当闘技場全体は結界によりドーム状に覆われているため、それ以上上空に昇ることは出来ません!


加えて観客席には魔王の禁術にも耐えうる防御術壁が張られていますので、皆様安心してご観戦下さい!」







開始と同時に襲い掛かってくるものかと思っていましたが・・・
そうならないように、どうせ何か仕掛けているんだろう?

まぁ焦らず探るさ。

では、こちらから参りますよ?
ぼ、ぼ、ぼ、ぼ・・・!



モルフォリアが手をかざすと同時に、いくつもの巨大な火球がその回りに浮かび上がる。



まずは軽く小手調べと参りましょう。
どどどどど!
おっと!



一斉に放たれた火球を旋回して躱すトリィ。



さて次はこちら。
きいぃぃぃん



空間が軋む音と共に、宙を舞うトリィの回りを煌めく何かが埋め尽くす。



む?



それらは見る間に氷の結晶となり・・・



ぎぃんっ!
そうきたか!



爆発的に生じた氷の蕀がトリィを捕捉する―――

その寸前にするりとそれをすり抜ける。



炎、氷、そして・・・
ばちばちばちっ
食らいなさい・・・
どぉんっ!



空気を切り裂く轟音と共に、雷の束がトリィに襲い掛かる。



・・・出て来い!
おぉぉぉぉ・・・!
ばちぃっ!
お・・・!



トリィの求めに応じて空間に沸いて出た怨霊が、雷に絡め取られて瞬く間に溶け消える。



怨霊を盾に使うとはまた、酷いことを。
雷か。

さすがに自在だな、魔界最強の魔法使い。







そう、あいつの本当に怖いところはあらゆる精霊魔法を自在に使いこなすところだ。
魔法使いなんだったら普通なんじゃあ?
いえ、こと精霊魔法に関してはそれぞれ相性がありまして。


自在に使いこなすとなると、通常は一種、威力を落として精々二、三種といったところです。

妖精としてのあいつの特性がそれを可能にしている。


とは言え、他の妖精でそれができる者は数百年見たことがない。


そして見ろ、ここからがその本領発揮だ。







ふん、派手な術ばかり使いやがって。

あくまでも観客ウケを優先か?

あら、気付かれていましたか?
アタシは別に構わんがな。

嘗めてると痛い目を見るぞ? 

まずは小手調べと言ったでしょう。


次は趣向を凝らして・・・

こんなものはいかがでしょうか?



モルフォリアが手をかざすのを合図に、二人を取り巻くようにして煌めく何かが周囲を埋め尽くす。



先ほどの氷―――とは違うな。

鏡・・・いやレンズか?







あ―――
あれは・・・







ぎゅぱぁぁーーーーーーー!
!ちぃっ!







「なんと!

これは先程の二回戦でハクマイナーが見せた光線術!


しかしその数、太さ、どれもがそれを遥かに凌駕する!


その威力はトリカラ・マイウーの姿が覆い隠されるほど!

果たして無事か!?」







くっ・・・!
あら?







「あっ!

光の中からトリカラ・マイウーが出てきました!


周りで何かが断続的に爆ぜておりますが・・・

あれは怨霊か?


矢継ぎ早に呼び出した怨霊を盾に、光線を防いでいる模様!」







光の精霊術を防ぐ壁として、無数の怨霊を使うとは・・・

呆れる非道ぶりですわね。

魔界の怨霊なんぞただの残留思念だ、いくら使い潰しても文句はあるまい。
残留思念も永い時を経ることにより自我を得ることもありましょう。


まぁそれはそれとして、さすがに全てを回避することはできなかったようですね。

 ・・・なぁに、多少日に焼けた程度だ。






随分ダメージを受けてるようだな。
ハクマイナーの光線でも中々の熱量だったからな。

さっきのあれはその数倍あると見ていいだろう。


あの程度で済んでいるのは大したもんだ。

ああ、トリィ・・・







くっ・・・!
ぎゅぱぁぁぁぁ!



途切れることなく放たれる光線術、それを大きく旋回しながら避け続けるトリィ。


だがそれは軌道の読めない無数の光の筋、すべてを避けきれるわけもなく、徐々にその身を焼き焦がしていく。



さて、これで終わってしまいますかしら?
ほざけ!
・・・?

光線の軌道がずれ始めている?

・・・そら、そこだ!



周囲を水のレンズで取り囲まれ死角のない状態であったはずだが、光線のズレから僅かにできた隙間を通り、トリィは光の包囲網を突破した。



レンズの数が減っている・・・?

怨霊で光線を防ぐと見せて、その陰でレンズを潰させていましたか!

緻密な軌道がウリの術ならば、ひとつ狂えば容易く崩れる。

さあ、次は貴様が逃げ回る番だ!

おぁぁぁぁ・・・!
逃げ回る?
ぞんっ!
おがぁぁぁ!?
・・・!



トリィの繰り出した怨霊が、モルフォリアに届く寸前で大きな刃物で斬られたかのように両断される。



成る程、風の結界か。

これは迂闊に近づけんな。

そう、これを破らない限り貴女は術で戦う以外にありません。


そして術で私に敵う者など、この魔界に存在しません故・・・


貴女に勝ち目はありません。

ふん、その程度の逆境、今まで何度覆したことか。


教えてやろう、それを成す事こそが戦いの醍醐味なのだと!

「「「おぉぉ!!!」」」



無数の怨霊弾をモルフォリアに浴びせかけるトリィ。



数を増やしたところで同じ事・・・む?



一瞬遮られた視界。

風の結界が全ての死霊を斬り払ったそこにはトリィの姿は既になかった。



目眩まし?

一体どこに・・・



周囲を見渡すが見当たらない。


まさかと下を見下ろせば、そこには地面に降り立ち魔方陣を描くトリィの姿があった。



魔界随一の闘技場、その歴史も古いだろう。


さて、どんな残留思念が埋もれているか・・・!

闘技場に染み付いた念から怨霊を産み出すつもり?


そんなもの、大したものが産み出せるはずが・・・!

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・ぁぁぁ







「地に描かれた魔方陣!


死霊術でしょうか?

不穏な瘴気が溢れ、それが形を成していきます!」

むぅ、アレは・・・!?







ほう、これは・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・!

この得体の知れない気配・・・

そして私の身を射竦める程の圧迫感・・・


何者・・・!?







「魔方陣から姿を現したのは三体の霊!

見た目からは闘士であると窺えますが・・・


長年当闘技場の司会を務めさせて頂いております、私にも覚えがありません!」

あの姿、そして離れた場所からも身を刺すこのプレッシャー!

間違いない・・・

知っているのかダイヘルム!
「おっと、ダイヘルム王が何かご存じの様子!

解説願います!」

「うむ、知るものが少ないのも無理はない。


あの三人はこの闘技場、ひいてはこのフェアリア・フォーレスト建国初期の戦士達。


かつてワシとしのぎを削った英雄共よ」

「英雄!?

しかもダイヘルム王としのぎを削る程とは!?」

「そうだ。


まずは並ぶ者無き剣の達人、【ソードマスター】フィラデルフィア・ウォルザンパー」

・・・・・・
「そして精霊術のみならず、呪術や禁術にも精通するあらゆる魔術の祖、【ウィザード】サンディエゴ・ノウルーウィー」
・・・・・・
「最後に、武器を持たぬことに拘り、またその条件で我等と肩を並べた無手の拳王、【ナックルカイザー】ダラス・ガイナーズ」
・・・・・・
「何れもその気になれば魔王とも渡り合える戦士達よ・・・


奴等の勝ちへの執念ならば、永い年月を経てなお残留思念が留まり続けていることも納得できよう」

「ソードマスター、ウィザード、ナックルカイザー・・・


姿は知らずともその名は聞き覚えのある者ばかりです!


正に伝説!

その三人が今、我々の目の前に甦っております!」







くっ・・・
これは面白いものが釣れた。


さぁ、どうするモルフォリア・インセクリーフ!

ココハ・・・ワレワ・・・ぶぎゅる(ぷちっ)
ずしーん!







「お・・・」
「こっ・・・」







な・・・
何ですか、この巨大な化け物は・・・!
ぐあぉぉぉぉ!!!
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登場人物紹介

【魔神】

 別乃世・望(コトノヨ・ノゾム)


 世を憂い、異世界への転生を強く望んだ男。

 女神・悪魔・天使の力をその身に受け「魔神」と化す。

 その後は魔界の一角に領土を与えられ、一国一城の主となる。

【女神】

 アーマ・シュクレイム


 時空神アナザを主神とする女神。

 「魔神」別乃世・望を生み出すきっかけとなった責を問われて神界から魔界へ。

 別乃世・望の監視兼補佐役として送り込まれるが、実質追放処分である。


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【悪魔】

 トリカラ・マイウー


 強欲を司る地獄の第六団に所属する悪魔。

 死霊を操る邪法を司り、結果として「魔神」誕生のきっかけを創ることとなった。

 別乃世・望を監視する任を受け外交員として送り込まれるが、実質左遷である。

 

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【天使】

 メンタイ・ハクマイナー


 唯一神に仕えていた元天使。

 別乃世に力を奪われ魔界に身を堕としたが、神への信仰は失われてはいない。

 力を取り戻し、天界へ還る日を夢見る。


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【ゾンビ・クィーン】

 阿波津・玲子


別乃世に噛まれることによりゾンビと化した残虐少女。

他人の生命を屁とも思わぬ性根から、自らも多くのゾンビを生み出した。

天使との戦いで魔界に堕ち、別乃世の屋敷で使用人として無理矢理働いている。

【悪魔祓い】

 シスター・カッドロゥ


天使メンタイ・ハクマイナーに仕える使徒。

秀でた身体能力に神霊術を組み合わせ、幾多の悪魔を葬り去ってきた。

阿波津・玲子に食われ、魔界に堕ちた今も従順に神への忠誠を誓っている。

【妖精王】

 ヘラクレイス・ダイヘルム


平和主義の妖精王国フェアリア・フォーレストの王。

重い甲冑を身に纏いながらも暴風魔法を駆使した飛翔方法で高速移動を可能とする。

拳で殴る派。酒と女をこよなく愛する道楽王。

【妖精女王】

 モルフォリア・インセクリーフ


妖精王国フェアリア・フォーレストの女王。

彼女が国を回していると言っても過言ではない。

沈着冷静・常識派。

【小妖精】

 エフェメロ・プテラ


専ら伝令に使われる手のひら大の小妖精。

色々と雑い。

【実況解説妖精】

    リーン・クリケット


フェアリア・フォーレスト闘技場の専業実況解説。

風鈴のように透き通った、非常に良い声の持ち主。

【兎型メイド】

 コニー・リトルキャーロット


フェアリア城で働く獣人メイド。

基本は人型で生活するが、激しい運動の際には兎娘と化す。

弟大好きっ子。

【お使い兎】

 バーニィ・リトルキャーロット


コニーの弟。

人間年齢に換算すると10歳前後。

真面目に仕事に取り組むが、何かしらの失敗はするタイプ。

【闇の精霊】

 クラインノウン・ナロゥフレイド


魔界のさらに深部に潜む闇の精霊・シェイドの末裔。

縁あってダイヘルムに忠誠を誓い、フェアリアの守護衛兵長を勤める。

騎士道精神に溢れる騎士の鑑のような淑女。

【ソードマスター】

 フィラデルフィア・ウォルザンパー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

並ぶ者無き剣の達人と称され、その斬撃は空をも斬り裂く。

【ウィザード】

 サンディエゴ・ノウルーウィー


妖精王国建国初期の英雄の一人。

あらゆる魔術の祖と言われ、近代に残る数々の魔術の基礎を作った男。

【ナックルカイザー】

 ダラス・ガイナーズ


妖精王国建国初期の英雄の一人。

剣と魔法の入り乱れる戦乱の世を拳一つで渡り抜いた無手の拳王。

【古の卑しき魔王】

 コクオブラァ


妖精王国の王家にのみ伝えられし伝説の魔王。

英雄と並び称された4人の戦士達によりフェアリア・フォーレストの地に封印されていた。


その身は幾度滅ぼされようと蘇る、つまりは不死身である。

(フェアリア・フォーレスト女王、モルフォリア・インセクリーフ述)

【妖精国騎士団長】

  ヘイヤリッパー・ホワイトライン


  クラインノウンと双璧を成す、妖精王国攻めの要。

二刀を操る剣の達人。

忠義に厚く、すこぶる真面目。

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